第36話 オーガ、撃退

 オーガの咆哮ほうこうも、人々の悲鳴も、戦いの喧騒も消えた。

 音が消えたと思った次の瞬間、防壁の向こう側から歓声が上がった。


「立て続けにオーガをヤッちまたぞ!」


「どこの誰だ?」


「スゲー攻撃魔法だったぞ!」


「あんな攻撃魔法、初めて見た!」


 驚きと称賛の声が飛び交う。

 まだ四体のオーガを残しているというのに、集まった住民たちが歓喜に湧き返る。


 触発されたように防衛ラインの冒険者たちまでもが歓声を上げた。


「勝てるぞ!」


「あと四体だ! ヤッちまえ!」


「おい、お前ら! 坊やに負けてる場合じゃねえぞ!」


「このままじゃ、見せ場を全部持ってかれちまう」


 なかには、上空に向けて火球を撃ちあげる者までいる。

 おいおい、大丈夫か?


 爆風で転がされているが、まだ四体のオーガが残っているんだぞ。

 内心でそう思いながらも、つい、口元が綻んでしまう。


 いいねー、この感じ。

 やる気がみなぎってくるじゃないか。


「ふはははは」


 だめだ、笑いが零れてしまう。


 もっとだ!

 もっと驚け! 驚愕しろ!

 もっとだ!

 もっと称賛しろ! 俺をたたえろ!


 口にはだせないな。

 人々が歓声を上げ、驚きの声が上がるのを待った。


 地面に転がったオーガ四体をそっちのけで冒険者や住民たちが沸き返り、俺のボルテージは天井知らずに上がる。

 冒険者たちが迎撃しないなら都合がいい、残るオーガ四体のスキルもこちらで頂くとしよう。


 たったいま入手したスキルも役立ちそうなものが目に付く。

『回復』『再生』『強靭』『怪力』『硬化』……、アンデッド・オーガから剥奪したのとは異なるスキル。

 戦闘後の錬金術が楽しみになる。


 それじゃ、残るオーガ四体のスキルを奪うことにしよう。


「広域の攻撃魔法を放つ!」


 冒険者たちに警告を発する。

 三度目ともなると慣れたもので、手際よく全員が身を隠した。


 慣れるのは俺も一緒である。

 反応の遅れたロッテと彼女を庇うユリアーナの二人を、再び多重構造の空気の壁で守りながら攻撃魔法を放った。


 オーガと冒険者たちの間に炎の壁が燃え上がり、爆風が土煙を巻き上げる。

 どちらも殺傷能力の低いこけ脅しの魔法。

 その陰で錬金工房にオーガを収納し、スキルと魔力を剥奪して吐きだす。


 手慣れた手順。

 先程と同じように冒険者たちの視界を奪っている間に四体のオーガに止めとなる攻撃魔法を撃ちこんだ。


 束の間の静寂。

 土煙が晴れて視界が戻るとオーガの死体が人々の目にさらされる。


 途端、空気を震わせるほどの歓声が上がった。

 防壁の内と外とで歓声が上がりる。


「あんなスゲー魔法初めて見た!」


「スゲーぞ、あの小僧」


「坊や! 凄かったぞ!」


「あんた、いったい何者なんだ?」


 歓声に続いて俺を讃える声援がそこかしこから上がる。

 俺は腹の底から湧き上がる歓喜を抑えて、ユリアーナとロッテの二人と合流するため、バリケードの向こう側へと向かった。

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