第35話 オーガ、迎撃

 派手な攻撃魔法とオーガを瞬殺した事実に、住民たちだけでなく、冒険者と騎士団もが驚き言葉を失った。

 驚いて思考停止した反応も嫌いじゃない。


 そんなことを思いながら仕留めたオーガへ視線を向ける。

 焼けただれたアンデッド・オーガの顎がケロイド状の皮膚と共に崩れ落ちた。


 焼死体から放たれる焦げた肉の臭いと、鼻を突くような異臭が辺りに漂う。

 アンデッド・オーガの焼死体から目を背けると、今度は内臓の大半を食い荒らされたオーガの死体が目に飛び込んできた。


 ここにいちゃダメだ。

 吐く、このままここにいたら間違いなくリバースする。


 冒険者たちと交戦中のオーガへ視線を巡らせると、バリケードを乗り越える寸前だったオーガが、頭部を炎に包まれて転がり落ちるところだった。


 心臓も数本の槍で貫かれており、絶命間近であることが知れる。

 最前線を突破しようとしていたオーガたちが、警戒するようにバリケードからわずかに距離をとった。


 さらに、最後方にいた二体のオーガが大きく後退する。

 撤退するつもりか?


 見逃すつもりはないがバリケードから離れてくれたのは好都合だった。

 オーガと冒険者が直線状に並ぶのを避けるため、俺はオーガたちの側面へと回り込む。


「加勢する! 爆風に気を付けてくれ!」


「待て、待ってくれ!」


「伏せろ! 伏せるんだ!」


 俺の声が届いたのか、攻撃魔法を撃ちだそうと左手を突きだした動作に反応したのかは分からないが、冒険者たちが一斉にバリケードの内側に身を隠した。


 狙いは最後尾にいる二体のオーガと、バリケードに取り付こうとしている五体のオーガとの間。

 放つ魔法は爆裂系の火魔法。


「隠れろ! 坊やの攻撃魔法が来るぞ!」


「オーガよりも小僧の攻撃魔法を警戒しろ!」


 そこの二人、顔を覚えたからな。

 全員が隠れるのを待ってから攻撃するつもりだったが、その気持ちが大きく揺らぐ。


 とそのとき、冒険者たちの後方で頭を抱えて逃げ惑うロッテの姿が目の端に映った。

 続いて目に飛び込んできたのはユリアーナ。


 ロッテに駆け寄った彼女がロッテの手を引いて、さらに後方へと避難しようとしている。

 護衛役が逆転しているぞ!


 やむを得ないか……。


 火球の魔法を待機させたまま、風魔法を使って密度の異なる多層構造の空気の壁をユリアーナとロッテを守るように出現させる。

 刹那、照準したポイントに威力を抑えた数発の火球を高速で撃ちだした。


 火球は着弾と同時に爆発し、轟音と土煙を辺りにまき散らす。

 爆風と飛び散った細かな岩石は、空気の壁に阻まれてユリアーナとロッテには届かなかった。


 二人の無事を確認して胸を撫で下ろす。


 俺は後方にいた二体のオーガが爆風で吹き飛ばされそうになったところを収納し、所有していたスキルを瞬時に剥がして再び元の場所へと吐きだした。


 それと同時に今度は殺傷力の高い火魔法と土魔法の複合攻撃魔法を放つ。

 炎をまとわせ、高温に熱したソフトボール大の鉱石の塊を弾丸としてオーガへと撃ちこんだ。


 炎をまとった鉱石の弾丸は、本来なら魔力とスキルで『硬化』されるはずのオーガの皮膚を容易く貫き、硬質な骨砕いて致命傷を負わせる。

『回復』や『再生』といった生き延びるためのスキルを失ったオーガはそのまま絶命した。


 よし、イメージ通りだ。

 辺りが静まり返る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る