第12話 公用語

 盗賊の一人からアジトの場所と戦力を聞きだすのにそう時間はかからなかった。


 ユリアーナ曰く。


「所詮、盗賊。命を対価に脅せば、義理も根性も罪の意識すらないから簡単に口を割るわよ」


 その通りだった。

 自分の命惜しさにベラベラとしゃべる。


 こちらが聞いてもいない情報まで教えてくれた。

 浅ましい大人を目の当たりにすると、青少年としては『ああはなりたくない』と本心から思う。


「さあ、盗賊のアジトに乗り込むわよ!」


 盗賊のアジトを急襲しようとかけ声をかけたのが十分程前のこと。


 俺とユリアーナの口から洩れたのは諦めの言葉だった。


「そろそろやめないか? これ以上時間を無駄にするわけにはいかない」


「そうね、ちょっとハードルが高かったかもね」


 荒ぶる二頭の馬を錬金工房に収納した。


 聞きだした連中のアジトに馬で駆け付けようとしたのだが……、それが大きな間違いだった。

 一度も乗馬なんてしたことがないのに何故乗れると思ったのだろう。


 他人のせいにするつもりはないが、ユリアーナの軽いノリに惑わされた気がしてならない。

『乗ったことはないけど、見たことはあるんだし、何とかなるでしょ』とはユリアーナ。


 結局、なんともならなかった。

 七頭の馬全て試したが歩くことすらままならない。


 端的に言うと、半数以上の馬に乗ってすぐに放り出された。


「歩くしかなさそうね」


 盗賊たちのアジトはここから五キロメートル程先にある洞窟。


「ユリアーナ、提案と言うか相談がある」


「五キロメートル歩くのが嫌だとか言わないでよ。盗賊を掴まえて騎士団に突きだしたら報奨金が貰えるのよ」


 先程の尋問で、盗賊団のボスを含めた五人の盗賊たちに賞金がかかっていることを聞きだしていた。

 さらに盗賊が盗んだ財産は討伐した者に所有権が移ることも確認済みだ。


「先立つものは必要だし、善行を積んで大金を得られるんだから反対するつもりはない」


「じゃあ、歩きましょう」


 そう言って歩きだす彼女の背に言葉を投げかける。


「盗賊の持っているスキル」


 そこで言葉を切ると、案の定ユリアーナが即座に反応した。


「何か面白そうなスキルでもあったの?」


「全員、公用語のスキルを持っていた」


「当たり前じゃないの」


「そのスキルを馬に付けられないかな?」


 声帯が違うからしゃべることはできなくても、こちらの命令を正しく理解することができるようになるかもしれない。

 理解できれば俺たちでも馬に乗れるはずだ。


 公用語を理解できなくなった盗賊の末路を想像すると若干の罪悪感を覚えるが、これも因果応報と諦めてもらおう。


 振り返ったユリアーナの口元に笑みが浮かぶ。


「盗賊が公用語を理解できるよりも、馬が公用語を理解できる方がずっと価値があるわ」


 予想はしていたが迷いがない。


「言いだしておいて何だが、反対しないんだな」


「公用語スキルを失った盗賊には、女神であるあたしから感謝の祈りを贈りましょう」


 胸の前で両手を組むと静かに目を閉じる。


「それだけ?」


「過分な同情は禁物よ」


「それじゃ……」


 俺は盗賊の公用語語スキルの剥奪を試みることにした。

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