第32話 耐性
突然、吐き気に襲われた。
生きたオーガの腹を割いて内臓をむさぼり食うアンデッド・オーガから、思わず目を逸らしてその場にしゃがみ込む。
オーガの断末魔の咆哮が
喉の奥まで戻りかけた胃の内容物が鼻孔を刺激する。
リバースしそうになるのを寸前のところで堪えていると、傍らから平然とした口調の声が聞こえた。
会話の主はロッテとユリアーナ。
「オーガも食べられたくないから必死ですねー」
「アンデッド・オーガが追い付いたら冒険者も食べられるんじゃないかしら?」
「お腹が空いているみたいだし、大きい肉に向かうと思います」
「冒険者たちはそうは思ってないみたいよ」
ユリアーナの視線が食事中のアンデッド・オーガから、強行突破しようとするオーガと交戦中の冒険者へと移った。
「後衛担当の方の視線がアンデッド・オーガに向いてるような気がします」
どうやら俺が一番グロ耐性に欠けるみたいだ。
無理もないか。
召喚前から含めて、生死を賭けた戦いどころか、断末魔の声すら聞いたことがない。
己の平穏だった半生を振り返っていると、顔色を豹変させたユリアーナが突然俺に話しかけた。
「たっくん、見つけたわ!」
見つけた? 何を見つけたんだ……?
「まさか……」
「あのアンデッド・オーガが二つ目の神聖石の持ち主よ」
ユリアーナの射抜くような視線がアンデッド・オーガに向けらる。
傍らのロッテが息を飲んで口をつぐんだ。
「アンデッド・オーガを先に叩く」
「願ってもない選択よ」
俺も同じ選択をしておいて何だが……、神聖石が最優先のユリアーナらしい、清々しいくらいに冒険者たちの損害を鑑みない答えだ。
「アンデッド・オーガという脅威が排除されれば、冒険者や騎士団もオーガの撃退に集中できる。それに、オーガたちも逃げ道ができれば森へ逃げ帰るかもしれないだろ」
一応、それらしい言い訳をして話を続ける。
「錬金工房の能力を悟られないような戦い方をするつもりだが、それでも目撃者からできるだけ離れた場所で戦いたい」
「冒険者たちにはオーガの対応に追われもらいましょう」
言葉を選べよ、女神様。
「ユリアーナは光魔法で怪我を負った冒険者たちの回復を頼む」
「任せて。そう簡単に防衛ラインを崩壊させたりしないわ」
「ロッテはユリアーナの護衛だ」
「はい!」
「アンデッド・オーガは俺が派手に倒す」
「派手に?」
ユリアーナの顔に不安の表情が浮かんだ。
「派手に倒せば俺たちの強さが証明できる。不正騎士や悪代官でも強いヤツにそうそう無茶な要求をしてこないんじゃないのか?」
「やってみる価値はあるわね」
納得するユリアーナの傍らで、ロッテが頬を染めて瞳を潤ませる。
「シュラさん、あたしのために……」
ロッテのためというのもあるが……、頬を染めて身体をくねらせるのはやめようか。
不審そうな顔をした騎士団員が近付いてくるだろ。
「何も心配するな。すべて俺に任せておけ」
「はい」
今度は自分の両肩を抱きかかえたまま身体をよじりだした。
「お前ら、そこで何をしている!」
騎士の声が響いた。
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