第29話 神聖教会
重傷を負ったシスター・アンジェラと子どもたちは神聖教会に運び込まれてるとのことだったので、若いシスターに説教されている最中のロッテを伴って教会へと向かうことにした。
大通りをしばらく走ると、いままで黙り込んでいたロッテが泣き出しそうな顔で俺を見た。
「シスター・アンジェラを助けてくれますよね?」
答えたのはユリアーナ。
「シスターや子どもたちだけじゃなく、他にも怪我人は大勢いるんでしょ? 助けられるなら全員助けるわ」
孤児院を出るときは、『あまり目立つ真似はしたくないのよね』と言っていたユリアーナだが、力をセーブするつもりはないようだ。
ロッテが再び黙り込んだので、彼女の気を紛らわすついでに訊く。
「シスターが孤児院の子どもと一緒に、魔物の出現するような森に出掛けるのは普通のことなのか?」
「割とよくありますよ。住民たちでお金を出し合って冒険者を護衛に雇うんです――――」
これに孤児院のシスターや子どもたちも同行させてもらっていた。
森の浅いところにある薬草や野草を採取するのは日常のことだという。
採取した薬草を錬金術師ギルドに卸すことで貴重な臨時収入となるし、果物や野草は普段の食卓に上る。
「――――年長者の何人かは弓や槍を使えるので、鳥やウサギを狩ることもあるんです」
随分とたくましいな。
年に何人かの死人や怪我人がでるのは織り込み済みのことだが、それでもここ数年は孤児院の人間が被害に遭うことはなかった。
例年にない甚大な被害で他のシスターたちも気が動転してしまったのだろう。
「教会です」
ロッテが緊張した様子で口にした。
教会に着くと行きがけに通りかかったとき以上に大勢の人々で溢れ返っていた。
「怪我人です! 怪我人を通しますから道を開けてください!」
冒険者らしき人たちが運び込まれ、辺りは痛みを訴える声と肉親や知人を心配する悲痛な声とが入り混じっていた。
「孤児院の者です! 通してください! シスターや子どもたちが教会の中にいるんです!」
ロッテの声が周囲の喧騒に掻き消された。
「光魔法が使えます! 治療の手伝いをするので通してください!」
人々の視線が俺に集まり眼前に道が拓けた。
「行くぞ!」
ユリアーナとロッテを伴って教会へと飛び込んだ。
教会の中も混乱をしていた。
怪我人たちが無造作に横たえられ、教会の神父やシスターたちが悲壮な面持ちで走り回っている。
「重傷者と軽傷者の区別をする余裕もないみたいね」
「妹は光魔法が使えます。治療のお手伝いをさせてください」
治療を申し出る傍ら、ロッテにシスター・アンジェラと子どもたちを探すように指示する。
「見つけたらすぐに知らせろ」
小さくうなずいてロッテが足早に奥へと向かった。
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