第33話 たたずむ騎士

 声の方を振り返ると年配の騎士が歩いてくるところだった。


「光魔法を使える魔術師が不足していると聞いたので駆け付けました」


 俺たちが旅の商人であることと、妹であるユリアーナが光魔法の使い手であることを年配の騎士に告げた。


「光魔法が使える魔術師は歓迎だが、子どもを最前線に行かせる訳にはいかない。騎士団の後方で待機していなさい」


『おじさんたちが守るから安心して回復に専念できるよ』と人の良さそうな笑顔で、騎士団が築いたバリケードのさらに後方にある幕舎を示した。


 ありがとうございます、騎士さん。

 そして、ごめんなさい。


「教会に運ばれてきた瀕死の冒険者に頼まれたんです。『最前線の怪我人を少しでも救って欲しい』って」


「ありがとう。でも、気持ちだけで十分だ。戦うのは我々大人に任せなさい」


 だめだ、人が良すぎる。

 そして話が通じなさすぎる。


「いま、俺たちがあそこに行けば前線は維持できます」


 七体のオーガ相手に次第に押され気味になってきた冒険者たちの防衛ラインを親指で示した。

 騎士が言葉に詰まる。


「それに俺たちは冒険者ギルドに派遣されて来た訳じゃありません。純粋に街を守りたいから、大切な人を守るために立ち上がったんです。どこで戦うかは俺たちに選択権があるはずです」


「ギルドの依頼じゃなかったのか……」


 適当にカマをかけてみたが、騎士の顔を見る限り正解だったようだ。

 もう一押しというきもするが……。


 時間が惜しい。

 さっさと、騎士との問答を切り上げるとしよう。


 大人に対して失礼とは思いますが……。

 ごめんなさい、親切な騎士さん。


 口調と態度をダークヒーローモードに切り替える。


「あんたは知らないだろうが、俺は一流の魔術師だ。俺ならアンデッド・オーガを倒せる」


「違いますよ! シュラさんは超一流の魔術師です! いいえ、あたしの中では英雄です!」


 何か言おうとした騎士が、口を開いたままで固まった。


「分かっているじゃないかロッテ」


「へへへー」


 嬉しそうにするロッテから騎士へと視線を戻す。


「聞いての通りだ。超一流の魔術師である、この神薙修羅がいまからアンデッド・オーガを倒してくる! お前たちは安心してオーガの殲滅せんめつに専念しろ」


「あたしたちのことは見なかったことにしてね」


「騎士様、そういうことで、ひとつよろしくお願いします」


 何も言わずにたたずむ騎士にそう言い残して、俺たち三人は防壁を越えた。

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