第34話 キスをして見えたもの。



 しばらくして俺は千歳とともに喫茶店から出ることにした。そして帰路についたわけなのだがふたり揃って無言のまま。なにか言いたいけれど言えないそんな雰囲気で。それでもなにか伝えたいと俺は千歳に口を開き


「あんまり役に立たなくてごめんな。結局は千歳の行動が黒川を諦めさせたわけで。だけど……ひとつだけ言えば……ありがとな」


 言葉足らずの俺の言葉だから千歳にありがとうの意味は多分わからないと思う。それでもなにか言葉で伝えられたことに俺はすこし安堵する。


「ううん来てくれただけで嬉しかった。一緒に居てくれて嬉しかった。側にトモがいてくれて……じゃ今日はここで別れるね。また明日。トモ」


 そう言って足早に千歳は走り去っていった。




 その日の帰りにふたりはキスの話題を一切出そうとしなかった。




 俺は家に帰り夕飯を食べ風呂に入り、母さんと会話をと日常の夜を過ごす。だけども部屋に戻ってひとりになると心が揺さぶられるように苦しくなった。


 なぜかなんてわかっていた。千歳のことが好きに好きになっていく自分。こんな短期間にと思えるけれどいつもそばに居てくれるそんな千歳が愛しくて。


 だけど……今日、千歳とキスをして

 頭に浮かんだこと


 千歳を好きだという気持ち。

 

 そして……玲にごめんと思った気持ち。

 まさかとおもった。

 まだ玲が出てくるんだって。まだ淡いながらも残っているんだって。


 もう玲のことは諦められていたと思っていた。幼馴染に対しての思いだけに変わったと思っていた。それがどうだ。


 最低だろ。俺って。 


 こんな俺のままじゃ千歳を好きになっちゃいけなくなるって



 答えを出さなきゃ 答えを出さなきゃ




 そんな思いが心を蝕むも俺はただがむしゃらに目を瞑って眠りについた。

 

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