第03話 振られた振られた言わないで。



 誰かが俺を見ている。

 じっと見ている。

 俺が知らない、いやわからない。

 そんな君のその目には大きな雫が溜まっている。

 ごめんなさい、ごめんなさい

 唇の動きからそう言っているように見える。


 君は何も悪くないから


 泣かないで……泣かないで……




 俺は目が覚めた。ここはどこだと思い起き上がろうとするが右腕がすごく痛くて起き上がれない。俺はどうしたんだっけと思いだそうとする。

 そういえば放課後に掃除の時にゴミ捨て場に向かってたんだっけ。

 そして……非常階段近くを歩いてたんだっけ。

 そして……上から女性の悲鳴が聞こえて……

 あれ? そこから思い出せない。

 思い出そうと努力するけれども頭がぼんやりとした感じでどうもうまく記憶が出てこない。仕方がないのでとりあえずここはどこかと腕が痛くて起き上がれないので横になったまま周りを見渡してみる。見た感じどこかの病院のようだ。いかん、頭がまだぼんやりとしてよく思い出せない。


 ガチャ


 ドアを開けて人が入ってくる。よくみればうちの母さんで少し不安そうだった顔が一気に明るくなったように見えた。


「あっよかった。トモくん気がついたのね。怪我をしたって聞いた時はほんとびっくりしたわ。トモくん、非常階段の2階から落ちてきたクラスメイトを助けようとして受け止めたらしいけど無理したようで右腕骨折しちゃってるのよ。でも見た感じ元気そうなようね。よかったわ」


 母さんは一気にたたみかけるように話しかけてきた。そりゃそうだ。怪我をしたって聞いたら心配したよな。申し訳ない母さん。そうそう母さんや玲にはトモくんと呼ばれちゃってます、はい。


「母さんごめん。俺、ちょっと記憶が曖昧でよく憶えてないんだよね。学校の非常階段付近で女性の悲鳴が聞こえて……あっ女性が落ちてきたんだ。それを助けようとして……その人クラスメイトだったのか。でこのザマかぁ。俺かっこ悪いわ」


 ある程度の記憶が蘇りその出来事に対してすこし落ち込んだ。かっこよく助けられなかったのね、俺。


「しょうがないわよ、いきなりだったんでしょ? あっそうだ。一応玲ちゃんとあなたが助けたクラスメイトさんが来てるけどどうする? 顔合わせられる? まあ玲ちゃんとは会いたくないだろうなあ。振られちゃったわけだし」


 はぁ……玲に振られたこと母さん知ってるんだよね。とりあえず玲を家に上げないでほしいってお願いしたんだけど「なぜ? なんで? 」と理由を聞かれて吐かされたんだよねえ。断れないし母強しだよ、ほんと。


「うん、玲には帰ってもらって。申し訳ないけど会いたくないというか振ったやつのところに来ないでほしいよ。何考えてるんだろう、ほんと。振られた男がせめてとお願いしたことくらい聞いてくれてもいいだろうに」


「玲ちゃんも幼馴染だし心配してくれたんでしょう? まあ申し訳ないけど幼馴染で付き合いがあったといっても母さんも可愛い息子を振った子に会いたいとは思わないからなぁ。他人に冷たい親だと思われるかもしれないけどね」


「母さんの言葉、嬉しすぎて心に沁みるからもう言わないで。というか振られた振られた言わないで、結構来るから」


「わかったわよ、もう言わないわよ。さて玲ちゃんは面会断るけど一応来てくれたからお礼だけは言っとくわよ。それでクラスメイトさんのほうはどうする? 」


 母さんは落ちてきたクラスメイトと会うかどうか尋ねてきた。


「わざわざ来てくれてるんだよね?ちゃんと会うよというより顔見てないからクラスメイトの誰かわからないんだよね。まあ会えばわかるでしょ」


「りょーかい。なら母さんはふたりに話をしてくるわ、ちょっと待ってて」


 母さんはそう言ってドアの外へと出ていった。


「いいかげんに玲はどうにかならないかなあ……しんどい。振られた痛みもまだ残ってんだぞ、ほんとに……」


 俺はため息をつきクラスメイトがくるのを待つのだった。

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