第04話 いつまでなでるの?
しばらくしてドアからひとりの女性が入ってきた。外見を褒めるとしたらどこですか? と聞かれたら全部! と答えてしまいそうなそんな女の子。だから学校でモテる。おまけに他校の人からも告白されていると聞いたことのあるそんな女の子。
けれども彼女はひとりでいることが多い。普段から物静かでいつも席で本を読みまわりの人と関わろうとしない。そういえば告白の返事が「ごめんなさい」ではなく「無理です」と一言で軽くシャットアウトしてしまうらしい。
うむ……ちょっと困った。
あの……川崎さんが病室に入ってきてから……会話なく5分近く経ってるんですが……川崎さんはただ俺を見つめるばかり。俺も川崎さんと会話するのは多分初めてなのでどう声をかけていいのやら困惑して。ふたり無言のまま時だけが過ぎていく。
そんな中、川崎さんが動き出す。目に大粒の雫を溜めて。
川崎さんはどんどん近づいてきて俺の顔に綺麗な顔を近づけてくる。近い近い。だけどそんな体勢になった今でもほんとに川崎さんは喋らない。何がしたいのかわからなかった。それでも大粒の雫を落としてしまいそうな川崎さんを見ていると俺は何も出来なかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
川崎さんはいきなり綺麗な顔を俺の胸に埋めてきて初めてつぶやいた。俺に怪我をさせて相当混乱しているのかもしれない。申し訳なく思っているのかもしれない。そういえば病院で気絶から目が覚める前に夢を見ていた気がしたけどその夢の姿が川崎さんとダブる。もしかすると俺が気絶している間の出来事が夢として現れたのかもしれないなとふとそう思った。
だから俺はなんとなく彼女を慰めたくて
「気にしなくていいから、だから泣かないで」
そう言って思わず川崎さんの頭を撫でてしまう。
川崎さんは拒絶することなく目を瞑って俺に頭を撫でられるのを受け入れていた。いや、たしかにもう泣かせたくなくて頭撫でちゃったけど……えっ目を瞑って受け入れちゃうの? えっと……この後どうすりゃいい? 困ったな……
とりあえず川崎さんも落ち着いたようだしはやく会話しなくちゃな。
「川崎さんは怪我がなかった? 助けようとしておいてなんだけど気絶してしまったからどうも記憶が曖昧でわからなくなっちゃって。何もなかったらいいんだけど。それだったら俺の怪我も役立たなかったわけじゃないとちょっと思えるからね」
かっこ悪い俺を恥ずかしいなあと思いながらも軽く流してほしいような言い方で聞いてみた。
「無事、ケガはないわ」
一言川崎さんはそう言った。
「本当にごめんなさい。私、他人との会話が苦手で上手く伝えられないかもしれないけれどわからないことがあったら何度でも聞いて」
川崎さんがどうも言葉少ないのは口下手っていうこともあったんだろうなと今の言葉を聞いて思った。
会話を始めたけれどよくよく考えたらまだ俺は川崎さんの頭撫で撫で状態で会話を継続している。これいつ止めればいいのかな……まあ嬉しいか嫌かと言えば嬉しいのかもしれない。うむ。綺麗な子は正義! ですね。
ガチャ
ドアが開き母ちゃんが入ってきて一言
「あらっ母さんお邪魔だったかしら? 」
ニヤッと笑いからかうように俺に言う。
「母さんふざけないで。川崎さん、俺に怪我させたことで相当参ってるみたいだから」
ちょっと母さん、怒るよ?
「そうだったの? ふざけてごめんなさいね。えっとお名前聞いてなかったわ。川崎さんでよかったかしら」
「うん、そうだよ」
川崎さんでなく俺が母さんに返事を返す。
「了解。ん、なら母さんは今日はもう帰るわ。そうそうトモくん起きたから明日一応いろいろと検査して問題なければ明後日退院してもいいそうよ。とりあえずまた明日来るわ。川崎さんもまたね」
母さんはそう言い残し帰っていった。
さてと川崎さんはまだ俺の胸に顔埋めてる……そして俺はまだ頭撫でてるけど……そろそろきちんと話をしないとな。とりあえず川崎さんは怪我をしてないから落ちてきた理由なんてどうでもいいし、俺に気を使う必要ないし、早く川崎さんに元気になってもらうこと。まずはそれだなあ。
俺は川崎さんと何を話そうかと考えをめぐらした。
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