第11話 理由なんて必要ない。



 川崎さんは放課後になるとすぐ俺の側まで来ていつものようにじっと見つめてくる。なぜか川崎さんは自分から「帰ろう」とは言わない。俺が何か言うまで見つめている。いつも思う。このじっと見つめる川崎さん、当初は困ってたけど今じゃこう思える。可愛すぎだよなあって。おっと見とれていても仕方がないので「川崎さん帰りますか」と促す。

 そして、川崎さんに「はい」と返事をもらって帰りだす、ここのところのパターンです。


 今まであまり考えていなかったが、怪我が治ればこの生活も終わりなんだなあと。俺がいて横に川崎さんがいて。以前は俺がいて玲がいて。玲とはにぎやかに喋りながら帰っていたけれど、川崎さんと帰る時は俺が喋れば返してくれる以外はほんとうに静かで自分から話しかけてくることがない。でも話さなくてもなんというか居心地の良いそんな時間、空間を不思議と与えてくれる。


 そういえば川崎さんに癖があるのがわかった。普段はじっと見つめてくる川崎さん。でもなにか言いたいときがある時はなぜだか眉がピクピクする。それが可愛いので見とれてしまって尋ねるのが遅くなる。眉ピクピクじゃなくて話しかけてくれればいいのにと思うものの可愛い姿に飽きは無し。なんだか最近の生活、川崎さんで染まってきたなとふっと笑ってしまう。

 振られてぼっちしてた時の寂しい状況と大違い。今は心にゆとりがあって。まだ忘れられたわけじゃないけれど。それでも思い出す時間がほとんどなくなったと実感できる。


「川崎さんありがとう」


 思わずお礼を言ってしまう。それくらい川崎さんには怪我以外にも助けられてる。


「何についてお礼を言われたかわかりませんがどういたしまして」


 話しかけて返してもらう。ほんとにほんとに心地よいね。


「あっそうそう今度の通院で多分ギプスが取れると思う。そしたら後はリハビリじゃないけれど動かす練習をしながら生活できるようになるらしい。ギプスをはずしたら動きは悪いけど普通に生活する程度には動かせるって話だから今週で川崎さんの手伝いは終わりね。今までありがとう」


 川崎さんに腕の具合と手伝い終了の話を告げる。


 すると川崎さんは話さないモードになってじっと俺を見つめてくる。

 そして次第に眉をピクピク。


「どうしたの? 川崎さん」


 そう尋ねると、


「本当に終わりでいいですか? 」


 川崎さんが尋ねてきた。そりゃ今の生活を気に入ってるかどうかと聞かれれば気に入ってますよ、はい。川崎さん可愛いし見飽きないし。それでも俺のために時間を費やすのはなんか申し訳ないし。


「んー。川崎さんといるの楽しいよ。それになんていうか落ち着く感じ? なにもしなくても話さなくてもこうやってのんびり歩くだけで良いって言える、そんな感じ。

 あと川崎さんに前も話したと思うけど、俺ってうちのクラスの玲に告白して振られたんだよね。ちょっとその後しんどい時期だったんだよ。そういう時期に川崎さんが落ちてきた。有っちゃいけないことだったけどあれがあったからこうやって仲良くなった。川崎さんに会えたから今の俺があるって言えるんだよね。それでも怪我が治ったらもう俺に付き合う必要ないし、実際ここまでしてもらって申し訳ないと思ってるし。無理もしてほしくないしね。まあ助かったと言うか……ありがとう。そうだね。ありがとうかな」


 俺が今思っていることをそのまま告げた。


 川崎さんはちょっと困った顔をしながら、


「別に義務や手助けとかそういう理由がなくても別にいいんです。居てほしいかほしくないかそれだけです。それと私は木崎くんと一緒にいると嬉しいですよ? 」


 


 川崎さんはじっと見つめるその目を逸らしそんなことを僕に言った。

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