第22話 やっとみつけたものだから。
私、千歳はパニックになった。よく知らない男性生徒に告白されて抱きつかれそうになって、足を躓いて気付いたら非常階段2階から落ちていた。次には目の前が真っ暗になってしまいとてもとても怖くなった。
気が付いたらどこにも怪我もなく無事な私が居た。そして私に怪我がなかったのが誰かの上に落ちたからだとわかったのは、わたしの下から男の人のうめき声が聞こえたから。「ごめんなさい、ごめんなさい」私はひたすら謝った。それは私のかわりにその男の人が怪我をしていたことがわかったから。「ごめんなさい、ごめんなさい」もうその時はその言葉しか頭に浮かばなかった。その言葉しか発することができなかった。
昔から私は見た目で判断されていたような気がする。そのためか私の心と触れ合ってくれるそんな人はろくにいなかったように思う。何もしてないのに同級生の女の子からは嫌味を言われてばかりだった。よくわからない理由で。「可愛こぶって」とか言われてもわけがわからない。私はただ普通に過ごしていただけなのに。
そのせいか私はひとりで居たいと思ってしまっていた。次第にひとりになるのが当たり前になった。
中学生になってから告白されることが多くなった。別に仲良くしているわけでもない男子生徒から「可愛いから」「綺麗だから」と付き合ってくれとなぜか言われて。
あなたにわたしの何がわかるの? ろくに話したこともないのに。見た目だけで付き合うとか馬鹿じゃないの?
そのせいか断る理由が「ごめんなさい」ではなく、次第に「無理です」になってしまった。
そして……中学が終わる頃には、もう周囲に興味がなくなってしまった。私を本当の意味で見てくれる人がいるとは思えなかったから。
高校に入っても変わることはなかった。そう今までどおり、今までどおり。
病室で私が怪我をさせた彼にあった。謝るしか出来なかった。彼を見たら落ちたときのことを思い出してパニックになった。泣いてしまった。
そして……知らず知らずのうちに彼の胸の中で泣いていた。
そんなとき彼は頭を撫でてくれた。優しかった。温かかった。良く知らない彼だけど包まれていたいそんな感覚を私にくれた。
1つ気付いたこと。
彼の私を見る眼って他の人のような眼差しじゃなかった気がする。見た目だのそんなことに捕らわれない優しいそんな眼だった。
ただ、一生懸命慰めようとしていて泣き止まない私にすこし困った感じもしていたけれど。
怪我をさせたのは私なのだから怪我が治るまで手伝いたいとその気持ちはあったけれど、実際には私は興味が湧いていて彼の側に居てみたかった。私を見てほしくなった。そんな理由もあったわけで。
彼は幼馴染と距離を置くために私に側にいてほしいとお願いしてきた。ちょっと「むっ」とした私だけれど側にいる口実は何でも良い。なぜか許してあげるわと偉そうなこと考えてしまった私。
そして彼と過ごす時間はそんなに喋ったりするわけじゃないけれどなぜか一緒にいるだけで心地よい時間だった。ずっとずっとこうしていたいそう思わせる時間だった。
怪我がもうすぐ治るらしい。彼は「手伝いはもう良いから、一緒に居なくてもいいからね」と言ってくれた。でも離れたいと思うわけがない。でも私から言うのはちょっと恥ずかしい。だから彼に言わせてみせた。そんなわけできっと私の本音を知ったとしたら彼はずるいと言ってくるだろう。
彼が水崎さんを心配をしていることはわかっていた。気にしないようにしていたことも。私になにかあったとき、同じように心配してくれるのだろうかとちょっと嫉妬してしまった。それでも元気のない彼は嫌だから。だから彼から水崎さんと話をするって言われたときもすぐに「わかった」と返事を返せた。
幼馴染の関係をやり直すことにしたらしい。だから水崎さんとこれから一緒になることも多くなるんだって。そんなのは別に構わない。誰がいようと私は彼の側にいるだけ。
そう……
私の気持ちは変わらない。
私の気持ちは変わらない。
やっとみつけたものだから。
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