第17話 忘れないでね。



 今日は雨が降っていた。傘を差すため俺は鞄の中を漁る。そこには2本の折りたたみ傘。一本はいつも横に居た玲のために用意していた傘。自分では持ってこないで俺が差した傘にいつも入り込もうとしていた玲。でも一つの傘でははみ出だしてしまって濡れてしまうからもう一本の傘を渡して差させていた。「一緒の傘が良い」そういう玲に「濡れたら風邪引くから」と。そんな思い出のある折りたたみ傘。すっかり忘れて入れたままにしておいたそんな折りたたみ傘。

 今は学校が終わり川崎さんと下校している。学校帰りに雨なんて久しぶりの襲来を受けた気がする。予備の折りたたみ傘があるしもし川崎さんが持ってないならと尋ねてみる。「川崎さんは傘持ってる? 」そう聞くと「持ってるよ」と言って鞄から折りたたみ傘をだす。


 予備の折りたたみ傘を貸す必要はなさそうだ。




「川崎さん」


 俺は川崎さんに声をかける。そんな俺に


「なに? 」


 すぐに返事を返してくれた。


「俺、今度玲と話をしてみようと思ってるんだ」


 俺はそう切り出す。


「きっかけはこの間呼び出された夏川との会話なんだけどね。会話の内容は詳しいことは話せないけど玲のこと。知ってると思うけど俺と玲は幼馴染で。怪我する少し前に俺が告白して振られたんだよね。だから俺は自分が辛くなるのが嫌で近くにいることを拒絶した。

 それからしばらくして玲の様子がおかしくなって。今の玲は普通の玲じゃなくて。拒絶した俺が言うのもおかしいけれどそれでも気になってないなんて言えないし心配な気持ちがある。でもさ、振られて拒絶して逃げていた俺になにができるんだって。そんな捻くれた考えしていた。

 でも、夏川から玲と話をしてみてほしいって頼まれたんだ。頼まれてから動く俺って情けないところなんだけどちゃんと考えてほっとけ無いなって俺自身もやっぱり思ったから。だからきちんと話ししてみようと思ってるんだ」


 そんな俺の言葉を川崎さんは黙って聞いている。


「こんな話を川崎さんにする必要はないのかもしれない。でもなぜか伝えておきたくて」


 川崎さんは


「伝えてくれてありがとう」


 なぜかそんな事を言ってくれる。


「木崎くんが思ってること素直に話してくれて嬉しいよ。そういう本音を聞かせてくれるってことは私のこと信頼してくれてるってことでしょ? 」


 たしかにそう言われればと。何も思ってない人にこんな話はしないはずだもんな。


「しっかりと話してみてね。ただひとつだけいいかな? 」


「なに? 」


 俺は川崎さんに問い返す。




「わたしの場所だから。木崎くんの横。今はわたしの場所だから。忘れないでね」


 川崎さんは微笑んでそう言った。

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