第33話 久々に泣いた気がする。
初めて彼女、千歳を見たとき「お人形みたいだ」そんなふうに思った。そしてそんな千歳を目で追いかけてしまう。幼いながらも千歳のことが好きになったんだってわかってしまった初恋の日。一目惚れ。
小学生時代は体も心も幼くてどうしても素直になれなかった。そんな俺は千歳から離れて過ごしたまに近づいてはいたずらをしてしまう。側にいたいのに矛盾した行動。今になって思う。馬鹿な俺だったなと。それでもたまに可愛いと彼女に言えばニコッと微笑みを返してくれた……ように思う。
中学生になってそこそこ俺の見た目が良いせいかチャラい奴らとつるむようになる。本当は彼女の側に居たかったけどつるむ友達から離れれば、多分俺はぼっちにされると抜け出すことは出来なかった。そんなの友達じゃないと言われてしまえばそうかも知れないけれど一緒に居た時間は楽しいものでもあったわけで。
また、中学生になったその頃から千歳は変わってしまったと思う。人と関わらなくなった千歳は愛想さえもなくなって見た目だけを褒めてくる男たちをより避けるようになっていた。
それでも俺はほとんど付き合いの無くなったそんな千歳と会話するには一目惚れしたその姿を伝えるのが俺にとっては一番なわけで……見た目を褒めて何かしら話しかけようと突っ走ったっけ。そう、中学になっても変わらない馬鹿で子供なそんな俺。
そんな俺でも付き合ってと告白したりもしたもんで。まあふざけた告白になってしまっていたけれど。「可愛いっ付き合って」と軽い感じで。ほんと真剣には告白が出来なかったなぁって。
中学を卒業して高校が別になってしまった。そのため千歳とまったく会う機会がなくなってしまった。諦めなきゃいけないのかなあとしばらく悶々としていたと思う。それでも高校での新しい友達と過ごすうちに少しずつ心が落ち着いて行っていたと思っていた。
ある日千歳を見つけた。知らない男と一緒に歩いているのを。それを見てしまった俺はなんでと思った。あれだけ男を避けていた千歳に彼氏ができたのか? と悔しい思いが満ちてしまった。
それから少し頭が混乱していたと思う。気付いたときには彼女に連絡を取り付き合ってくれと告白していた。
普通に呼び出しても俺と会ってくれないことはわかっていたので連絡をとった後に千歳の通う高校の校門前で待つことにし何回も会っては気持ちを伝え続けた。彼女いわく「彼とは付き合っていない」とのことだったので千歳が他の男と一緒にいるそんな姿をもう見たくないと押しに押しに押しまくってしまった。
だけど彼女はまったく振り向いてくれない。まったく俺に興味がない。そのことが彼女との会話からより一層わかってしまう。
それでも諦めたくないと頑張ってみたけれど……
あの男が現れて終わってしまった。
いやあの男が出てきたことでなく
“彼女からあの男にキスをした”
それが終わりの合図だった。
俺、黒川 純が恋を諦めなきゃいけないとそう思わせたそんなそんな出来事だった。
彼女から望むものではないのならどうにかなると思っていた俺だった。
だけどあいつのことを彼女は望んでいたんだって。
わかってしまったから。
いつものふざけた態度で俺はその場を後にした。
そして、その後に俺は久々に泣いてしまったようなそんな気がする。
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