第16話 情けないな俺って。



 昼休み、いつものように川崎さんと昼食を取りまったり時間を過ごしていたところに珍しくある人物に声をかけられた。


「木崎、悪いけど少し話があるんだが」


 川崎さんにかと思っていたがどうも俺に用事がある様子。

 

「どうした夏川? 珍しく俺に話しかけてくるなんて」


「ちょっと話したいことがあってな。ここではまずいんで屋上につきあってくれないかな? 」


 声をかけてきたクラスメイトはクラスの中心といってもいいくらいの人気があるやつで。名前は夏川 智なつかわ さとし、流石に俺でも名前くらいは覚えている。


 川崎さんがついてきたそうにしていたが人に聞かれたくない感じなので「ステイ」ではないが待っててもらうように言い聞かせた。

 

「悪いな木崎。申し訳ないがお願いしたいことがあってな。俺ではちょっと無理なんで」


  屋上につくとすぐに夏川はそう俺に話す。


「夏川にできなくて俺にできることとか思い浮かばないな? とりあえず内容を教えてくれ。判断できないわ」


 そんな頼みごとなんて思い浮かばない。とりあえず聞いてみることにする。


「すぐわかるかと思ったけど。頼みたいのは水崎さんのことだよ。木崎が怪我して川崎さんと一緒に過ごすようになってから、水崎さんがほとんど誰とも話さなくなって。木崎とのことが多分関係してるんじゃないかなって思ってさ。元気づけてほしいってところまでは無理だったとしても話くらい聞いてみてもらえないかなと思って」


 夏川はどうも玲を心配している様子だった。俺もわかってはいた。川崎さんと一緒に過ごすことになってから玲は俺に近づかなくなった。そして玲にいつもの元気はなく誰にも話しかけず静かに席に座っているだけになったことは。それでも俺は拒否していたわけで、今更なにかするというのも変な気がして。そうわかってても何もしなかった俺は自分の事ばかりだったってことで。


「木崎、俺さ水崎さんに告白したんだよ。まあ振られちゃったわけだけど。水崎さんが心配だからそのことについても聞いてみたけどさ。「大丈夫」と言われて教えてくれなかった。だからさ、幼馴染の木崎に頼むしかないかなって。助けてやって欲しいんだ」


 夏川の言葉を聞いて思う。俺とは違い相手を思いやるやつなんだって。俺は自分自身がこれ以上傷つかないために玲から離れた。振られて諦めた。逃げた。そして時間が経った今でさえ手を伸ばさない。そりゃ振られるよな、こんな俺。夏川の言葉につくづく思い知らされる。俺って自分の事ばかりだったんだよなって。


「俺、玲には振られてるんだけど。それでも俺になにかできると夏川は思っていると? 」


 夏川に思ってることを聞いてみる。


「まあな。今までいつも一緒にいたお前らを俺は羨ましく思いながらも良い関係だなって思ってた。まあお前らが離れたからチャンスがあるかなと思って告白してみたわけ。上手くは行かなかったけれど。そうと言って水崎さんを簡単に諦める気はないがな。おっと、話がそれたけど今まで見てきたふたりの関係。それが理由かな? 」


俺は夏川の話が途切れるまで黙って聞いていた。そして


「ふう、夏川は男前だな。俺は振られて諦め避けて逃げた。でも夏川は振られても諦めず助けようとして。そりゃ俺なんか振られるわけだって思っちまうよ」


 俺は夏川に素直に称賛の声を伝えた。俺ができなかったことをすることに。


「いやさ、俺が木崎の立場で幼馴染の関係なら逃げてたかもしれないと思う。だって今まで長い時間を使って築き上げた関係で振られるわけだから。俺の場合はまだなにもないわけで落ち込むことはそうないんだよ」


 夏川はなぜか俺をフォローするようなことを言う。ほんとこういうやつがモテるやつなんだろうな……


「ふぅ、わかったよ。なにができるかわからないけど玲と話をしてみるよ。うん」


 夏川にそう伝えると「頼む」と俺に頭を下げた。



 


 夏川のその姿を見てつくづく思ったことを口にする。

 

「はぁ、情けないな俺って」


 俺はそう呟いた。



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