第25話 男の影。



 名前呼びをするようになってから俺と千歳の距離が近づいたと思っていた。だけどそう思っていたのは俺だけだったかもしれない。


 しばらくしてから千歳は俺との帰りをたまに断るようになった。「用事があるから」と。そして用事があるときには必ず、校門前にイケメンな男が千歳を待っており一緒にどこかへ行くようになった。


 そのせいで確かに朝の通学や学校では一緒にいるのだけれど千歳を見るとどうしても校門前で待つ男の影がちらつくようになってしまった。


 でも俺はただそれを眺めるしかなかった。なぜって? 千歳が何も言ってくれなかったから? いやそうじゃないね。俺に聞く勇気がなかったから。


 そして次第にそのほころびが少しずつ俺自身に現れるようになった気がする。それは千歳に話しかけるのが怖くなったから。いつ終わりが来てもおかしくないと変な考えをしてあの男の影に震えてしまう俺がいたから。


 以前以上に千歳と会話ができなくなってしまったんだ。




 今日も千歳は「用事がある」と校門で待つ男の元へと向かう。

 それを「わかった」と淡々と答える俺だった。




 玲は俺に声をかけてきた。


「ごめん。今日は私も用があるから」


「ああ、夏川とだろ。楽しんでこいよ」


 俺は淡々と返す。感情がこもらない。


「そんな事言わないでほしいなあ。私と一緒に居たいって言ってくれればいるのに、もう」


 ぼそっと玲は俺に聞こえない程度の声でなにかつぶやいた。


「夏川くんとは友達だよ。それに他の友達もいるし。変な勘ぐり止めてよね」


 玲はちょっと困ったように言う。


「そうか。まあ、顔の広い玲なら友達多くいるだろうからなあ」


「トモくんも行く? 」


 玲は、心配そうに聞いてきた。


「いや俺は良いわ。帰るよ」


「わかった。気をつけてね」




 そう言って、玲は、夏川たちの元へと向かっていった。

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