第29話 伝えることの大切さ。
今日は珍しく千歳からふたりで食べたいと伝えられたので、玲や夏川たちに断りを入れふたりで屋上で昼食を取ることにした。
いつものように静かに食事をとるふたり。だけど少しぎこちない雰囲気が漂っているそんな感じがした。原因は声をかけられない俺のせいだと思っていたが千歳もなにか思いつめた顔をしていて、もしかするともう一緒に居られないなんてそんなこと言われるのかもしれないと俺は緊張してしまっていた。
「トモ、話があるの」
珍しく千歳から口を開いた。あの自分からなかなか口を開かない千歳が。そのせいか本当に大事な話なんだとわかる。
「珍しいね。千歳から話をしてくるなんて。それで話って? 」
緊張しながらも千歳に話をするよう促した。
「うん。最初はね、トモを困らせるんじゃないかって不安で何も言わずに居たんだけど。私、最近放課後にトモと一緒に帰るの断って校門で待つ男の人と一緒に出かけてたでしょ? 彼についてきちんと話しておこうと思って。水崎さんに言われたの。きちんと話すべきだって。言わないことのほうがトモを困らせてるって。トモが不安になってるよって言われたわ。水崎さんってほんとトモのことわかってるなあって思った。私ってあまり周囲を気にせず生活してきたから周りの人のことなんてあまり考えられなかった。馬鹿だよね。一緒にいるトモに何も伝えないなんて」
そして校門の男、黒川について説明を受けた。
「そういうわけで呼び出されたときトモもいると迷惑かける気がして。だからひとりで行ってたの。本当にごめんね」
俺も馬鹿だなあって思った。不安になって、いやそれよりも信じているつもりでいても居なくなるんじゃって完全には信用出来ていなかった。情けないね。ほんと。
「ううん、こっちがごめんって言わないといけない。千歳のこと信じてるつもりだった。でも別の男が千歳を待っていて「用事がある」という言葉だけで何も言わずに男とともに千歳が俺の目の前でどこかに出かけて行く姿を見て。そんな情景見ていたらその男とともに千歳が俺の元から居なくなるんじゃないかって。不安になって怖くなって、そしていつか千歳から一緒に居られないって言われるような気がして」
「ううん、私がきちんと伝えていれば心配させることなかったの。ごめんね。許してくれる? 」
千歳は心配そうに俺を見つめる。
「許すも何もそばに居てくれるってわかったんだから。それで十分だよ」
俺は千歳の頭をなでて、そう言った。
しばらく目をつむって撫でるのを受け入れていた千歳。
落ち着いたようで、また千歳は口を開く。
「今回のことでわかったの。言わなくてもわかることもあるけれど伝えないとわからないこともたくさんあるって。ほんと人を避けてずっと生活してきたから伝えることの大切さってわかってなかった。これもトモのおかげだよね。いつもありがとう」
千歳は上目遣いで俺の目を見てそう言ってくれた。
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