第31話 アダマスシェルタートル
いつものように、現地で待ち合わせ他二人は、一分も違わず無事合流する。今日は、少しだけポラのほうが早く到着したようだ。
リアーロは、ポラと軽く挨拶を交わすと、遠目からすでに見えていたポラが手にしている奇妙な物について訪ねた。
「あー……。その見た目がヤバい杖はなんだ?」
ポラは杖を軽く掲げると、鼻息を荒くして解説を始めた。
「よくぞ聞いてくれました! これは、昨日作った特殊魔法を使える杖です! その名もユーマユーマの杖です!」
リアーロはユーマと聞いて、よくよく杖見ると見覚えのある素材位がある事に気がついた。それは、ゴーレムを作ると言ってキープしていった湧魔心だった。
リアーロは、疑問に思いそのことについて聞いてみることにした。
「ゴーレムにするんじゃなかったのか?」
ポラは、一昨日の独り言を聞かれていたのかと思うと、少し恥ずかしくなった。初めはその予定だったが、リッチの素材を見て杖を作ろうと思いついたのだ。しかし、独り言を聞かれていると思っていなかっったポラは、特に何も言わなかったのである。
「勉強をするって言っただけで、まだ作れないです。それにリッチの素材が面白かったので……」
リアーロは、色々と納得した。よく見れば杖に使えあれている素材は、すべて墓地島の素材であった。[四階層焼き]ならぬ[第四島杖]と言ったところか。
勉強のための素材より、得意分野の思いついたことを優先する気持はよく分かる。現にリアーロも武器を新調するよりも先に、
「面白い使いみちを思いついたんだな」
「そうです。でもリッチの素材を見るまでは、ゴーレムの勉強に使うおと思ってましたよ……」
ポラは、未来への投資金を使い込んでしまったと知られてしまったような妙な気持ちになった。
表情の変化に気がついたリアーロは、すぐに話の方向を変える。
「それで、そいつはどんな、攻撃ができるんだ?」
ポラは、リアーロの一言で意識が新開発の魔道具の説明をしたい欲に大いに引っ張られる。しかし、このまま情熱を溢れ出させるのをぐっと我慢する。なぜなら相手が『ああ……』や『うん……』しか言葉を発しなくなる苦い思い出が蘇ったからであった。
「あー……。そうだ! ボスとの戦いまで秘密ですよ! ボスと戦うまでのお楽しみですよ!」
ポラの心の内を知らないリアーロは、ただ子供っぽく見えたその仕草を気にもとめず気楽に返事をする。
「そうか、楽しみにしてるよ」
二人は、橋を進み切り立った崖に空いた洞穴の奥にある大きな両開きの扉の前に立つ。この先に列島階層のボスであるアダマスシェルタートルがいるのだ。
この魔物に関しては、攻撃に失敗して素材をダメにするなんてことはありえないが、リアーロは事前に説明しておくことにした。
「この先にいるのは、アダマスタートルだ。世界最強の防御力を誇る生き物で、素材は傷つける事のできない頑丈な甲羅だ」
リアーロの説明にポラは、最強の魔法攻撃で挑もうかと考えたが杖があることを思い出す。しかしチャンスが有れば試したみたい。杖で倒しきれなかったら金竜を消し飛ばした最強魔法のクーゲルブリッツを短縮詠唱で使おうと考えた。
「そんなに硬いんですか?」
リアーロは、ニヤリと口元を緩める。
「実際戦ってみれば分かるよ。それまでのお楽しみだな」
二人はやり取りを終えると、目の前の大きな両開きの扉を一人一枚ずつ押し開ける。少々暗い洞窟内を扉の向こうから差し込む光が照らす。
明るさに目がなれてくると第五島の内部の景色が見えてきた。島の中央部の地形は、周囲が岩の急斜面に囲まれた円形の広場のようになっている。足元は乾燥した硬そうな土の地面だ。
広さはかなり広く、小さな村ぐらい収まりそうなほどだった。
そしてその中央には、周囲と不釣り合いに下草が青々と茂った小高い丘があった。
「……あれ? 魔力は感じるけど何もいませんね……」
リアーロは困惑するポラを横目で見ながら戦闘態勢へと入る。
「来るぞ、気を抜くなよ」
リアーロがそう声をかけた瞬間だった。小高い丘が爆発するように土塊を弾き飛ばし、あたりに土煙が立ち込める。
ギシャアアアアアアアアアアア!
土煙の中から耳をつんざく咆哮が聞こえる。
ポラはとっさに両手で耳を塞ぐ。しかし目線はそらさず土煙を見つめている。
ドスドスと大地を揺らしながら土煙の中から巨大なものが姿を表す。現れたのは見上げるほど大きな魔物だった。その魔物は、青空のように美しい青色をした甲羅を持つ巨大な亀だった。
これが、不壊の甲羅を持つ巨亀アダマスタートルだ。
「うわ! 大きな亀!」
ポラは、咆哮を上げ大地を揺らしながらこちらに突撃してくる巨大生物に臆すること無くぽやっとした様子だ。まだ到達まで距離があるのでかなり余裕の表情だ。
「よーし! この杖の出番だね!」
ポラは不気味に脈打つユーマユーマの杖を掲げると詠唱を始めた。
「
ポラの詠唱により杖は己の魔力を使い魔法を行使する。杖の先から赤と青の光の玉が放たれる。
「おお! リッチの魔法か!」
杖から飛び出た魔法を見てリアーロが声を上げた。
「そうです。それに、湧魔心の魔力で撃ってるので術者の負担が無いんですよ」
リアーロは、それなら自分にも使えると思い「おお!」と歓声を上げる。
二人がそんなやり取置している間に、二つの光球は規則性のない動きをしながら巨大亀へと向かっていく。しかし、亀に近づけば近づくほどその球が小さくなっていく。
ここでようやく思った以上に距離があるとわかった。
それもそのはずだ。亀のあまりの大きさに遠近感が完全に狂っていた。遠くて大きさが分かりづらいが、実際には二階建ての家より高く、横幅は家二軒ほどの幅がある。
ポラがその大きさに気がついた頃に、青が右前足に、赤が頭へと着弾した。
「全く効いてないね」
二つの球は、まるで以前リーアロがリッチの玉座に放った魔法のように小さく感じられた。放たれた魔法の温度変化は質量に対してあまりにも無力だった。
「ふむ……リッチは、コイツには勝てないな……」
リアーロは、迫ってくる巨大亀を気にもせず頭の中でリッチと巨大亀を戦わせるほど余裕があった。
その理由はこの亀のある致命的な習性を知っていたからであった。それは、ある程度先読みをして攻撃を放つ事ができないことであった。
「焦るなよ、あいつは、先読み攻撃ができない。ヤツが攻撃動作をしたらある程度移動すれば奴の攻撃は当たらん」
ポラは、リアーロのアドバイスになるほどと思い、攻撃動作に入ったのを見てから少し移動して杖を構え再度詠唱を開始した。
「彷徨う呪霊よ私と杖の魔力を糧に、私の敵を討ち滅ぼせ!
詠唱を省略せずに唱え、さらには魔力の供給先を杖と自身に指定することでさらに威力を高めていく。詠唱によって魔力を与えられたさまよう呪霊は、膨大な魔力を取り込み眩しく輝く。
先程の攻撃のようにすぐには動かず巨亀とポラの間にとどまる赤と青の輝き……。その輝きから何者かの声が発せられた。
「フハハハ! 兄者! この娘について回って正解だったであろう!」
「ふむ……。全盛期には至らないが9割ほどの力がある……。反対した我をよく説得してくれたな弟よ」
赤と青のあやふやな光は徐々に形を作りくっきりと姿を表し始めるた。
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