第17話 自由と成功
ポラは、別荘で一人過去の記憶を再生しながらペンを走らせる。
文章構成に悩み、挿絵とのバランスを何度も確かめる。ときにはリアーロの意見を聞きベテランが普通だと思い説明を省いたものを洗いだしていく。
協力しているときは熱が入るが、一人でいるときはどうしても気が抜ける。そんなときは、リアーロ持ってきたオーガのトロフィーを眺める。
きれいな朱色を見るたびにポラは、執筆の熱が蘇る。
「初めて自分の意志で始めたことだもんね。頑張らなくっちゃ!」
ポラは昔のことを思い出していた。
◆
ポラは、山奥の魔道士の隠れ里で育った。周りは全員魔道士で常識というものが欠けていた。
自分の意志など無く魔導の道を進み、言われるがまま修業をし魔物を討伐してきた。彼女が今まで成した事は、すべて強制されたことか頼まれたことで、一度も自分か何かをしたいと思った事はなかった。
いや、そうならないように育てられていたのだ。隠れ里は、外界との接触をたち常識を捻じ曲げている。
そんなポラに転機が訪れたのは、金竜討伐依頼だった。そこで初めて外部の人間と会う。
隠れ里の案内役に言われるがまま王城へと連れて行かれ、王から依頼を受けるとポラは、討伐準備を進めた。
金竜の居場所は探知魔法ですぐに分かった、城の後方を守る大きな山脈の頂上で眠っている。
居場所がわかると、ポラはすぐに城前の広場に出て攻撃準備を始めた。
隠れ里の魔術師と連携して討伐に向かう予定だった王国騎士団と王国魔術師が囲む中、一人だけ前に出たポラはすぐに詠唱を始めた。
ざわつく周囲の人々を無視して詠唱を続けていく、騎士たちは不安に思い魔術師たちは、聞いたこともない詠唱と込められていく魔力の多さに近づいてはいけないと注意喚起をしていた。
ポラは一時間ほどかかる詠唱をして最大火力の攻撃を放った。
「凝縮された空の果ての黒よ、その力を解き放て。クーゲルブリッツ」
バチバチと雷のような音を立てる眩しい球体が現れた。それは、炎とも光とも区別がつかない輝きとゆらめきを持っていた。
その眩しい球体が近くにあるだけで、皮膚が焼けるような感覚がある。魔術師たちが下がらせた距離では足りず更に遠くへ引いて城壁に張り付くほど遠ざかる。
ついに放たれた最大火力の魔法は、雷のような轟音と断末魔を残し金竜を山頂ごと消し飛ばした。
残骸などは残らず接触した物質は凄まじい高熱により全てこの世から消えて無くなった。
時が止まったように動けなかった人々を一人の老魔術師の言葉が動かした。
「おお、金竜の気配が消えておる……」
そこからは、ポラを英雄として祭り上げる宴が始まった。遠征用の食料を荷解きし、市民に振る舞い王都を上げてのお祭り騒ぎとなった。
ポラは宴会を楽しむ人々に戸惑いながらも、入れ代わり立ち代わり、いろいろな人に話しかけられる。
「ぜひ我が魔術師団に!」
「こいつの言うことなんか聞いちゃダメだぜ! 人ってもんは自由に生きるのが一番だ! まぁ、嫁が見つかるまでの話だがな! ハハハハ!」
魔術師団長と騎士団長の会話にポラは首を傾げた。
「自由って何?」
その言葉に、王を初めとした重鎮たちは隠れ里の案内役を睨みつけた。その案内役が重鎮たちの殺気がこもった視線に耐え、震える手を押さえながらもながらも、ポラと騎士団長の話しを遮ろうとする。
彼もまた自由など知らず、言われた任務を遂行している。依頼をこなし里を運営する金を稼ぐだけで、外部の人の話に耳を傾けてはならない。そんな掟を律儀に守る。
しかし、その行動も強引な騎士団長には通じずポラに、自由について語り尽くした。
そこで、ポラは初めて、自分の意志で自由に生きる、ということを知った。自由のリスクについても聞かされたが、盗賊や魔物が自分を害せるとも思えず気にしないことにした。
王からは金竜討伐勲章を初め、国内のどこでも自由に行ける関所通行権や、大金をもらい自由になった。
隠れ里の案内役に、もう戻らないとつたえると掟を理由に引き止められた。ポラは魔術師団長から聞いた悪知恵を働かせ、彼を「隠れ里が消えてなくなれば良いんですか? 一時間待ってもらえますか?」と脅して振り切った。
しかし、突然自由と言われて、どうして良いか分らなかったので、とりあえず攻撃魔法の成果を見ようと、金竜討伐の跡地に行った。そこである物を見つけ、金竜が脅かした王都では生活できないと思い自由の旅へと出発した。
フラフラと国内を回り、行き先で金竜討伐勲章を見た人々から魔物の討伐を頼まれ。それを瞬時に解決するとその夜に宴会をする、そんなあてもない生活を続けていた。
「こいつは懐かしいのう。ワシが作った最高傑作じゃないか」
ある街のハンターギルドに立ち寄ったときだった。ポラが持っている杖をみて老人が駆け寄ってきた。
その老人が言うには、この杖は、採取が非常に難しい世界樹の悪子と呼ばれる魔物の素材を使っているらしく、この世に数本しかない最高のものだということを聞いた。
そしてその最高傑作に欠かせない材料を採取した人物にまで話が及ぶ。
「[全種の洞窟]があるウリキドという街にいるリアーロってハンターじゃ」
生まれてから親よりも長く共に時を過ごした杖……。その製作者に会ったポラは、リアーロとハンターにとても興味を持ち次の旅先を決めた。
そしてポラはついに、ウリキドに到着した。
すぐに、ハンターギルドに向かった彼女の目に飛び込んできたのは、一枚の張り紙だった。
<執筆できる方募集。ベテランハンターのリアーロの解体技術を本にまとめてくれる人材を募集しています。戦闘が予想されますので、戦力を用意できない場合はこちらで護衛を用意することも出来ます。>
ポラは、誰に命令されたわけでもなく、頼まれたわけでもなく。
その張り紙を壁から引き剥がすと急いで窓口に突き出した。
「これやります!」
子供としてあしらわれそうになったが、隠れ里で書いた魔法の基礎をまとめた資料と単独金竜討伐勲章を見せることによって教本作成依頼を勝ち取ったのだ。
◆
オーガのトロフィーを見て過去を思い出していたポラは、再び筆を執り一心不乱に教本をまとめ上げた。
出来上がった原稿をギルドから紹介された出版社に渡す。
出版社とは、転写士と呼ばれる複製を作ることが出きる魔道士が、多数在籍する新聞や本を扱う会社である。
そこに原稿を提出すれば、後は待つことしかできない。
そして時は経ちついに教本の発売日を迎えた。
ギルドの待合室の一角には、机の上に山積みになったダンジョン素材採取教本、第一巻がある。それを手売りするのは、筆者である青い髪の少女だ。「おっさんがいても邪魔なだけだろ」と監修は販売を辞退した。
しかし、待合室の隅でソワソワしながら様子をうかがっていた。そんな彼に勇気づけられた少女は、声を張り上げる。
「素材採取教本です。この本を読み、そのとおりに採取すれば収入が上がること間違いなしですよ!」
初めの頃は全く売れなかったが、蜘蛛絹糸の採取講座に立ち会ったハンターが一冊購入したのをきっかけに、飛ぶように売れ始めた。
「皆様! ご購入ありがとうございます! 初版は、完売いたしました!」
大盛況のうちに初版は売り切れた。それからは、ギルドの素材買取窓口で常に販売される様になった。
教本の作成は、大成功に終わった。新人ハンターが持ってくる素材は、格段に品質が上がり、ハンター、ギルド、製造業者からとても感謝された。
ポラとリアーロは大いに喜び密かに祝杯をあげた。しかしその小さな祝杯は、やがて周囲の人々を巻き込んだ大宴会になり、出版で潤ったポラのポケットマネーで客たちが店の酒を飲み尽くすまで宴会は続いた。
ポラは、初めて自分から始めたことが大成功に終わり、最高の時を過ごした。
酔いつぶれる客たちの中で意識をたもっていた主役の二人が満足そうに語り合う。
「この仕事やってよかったな」
「はい! みんな先生のおかげです!」
「いや、これは二人の功績だよ。誇っていい素晴らしい仕事だ」
その言葉を聞いたポラは笑顔なのに涙が頬を伝う。
「あれ? 嬉しいのに変だな……」
戸惑いながらも溢れ出る涙を拭う、しかし不思議と悪い気はしなかった。
「嬉しいときも涙は出るんだぞ、遠慮してないで泣けばいい」
ポラは、初めて嬉し泣きをしたのだった。
自分を魔法を見ても恐れず、魔法を見た前後で変わらぬ態度で接するリアーロを信頼し、胸に顔をうずめると気が済むまで泣いた。
◆
その後、質のよい素材が増えたことで、いろいろな方面に良い効果が波及していくと共に、二人の名は広まっていった。
そして、[全種の洞窟]の洞窟階層を抜けた先の
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