第7話 トンネルワーム
ジャイアントモッキングバードの講座を終えて次の日、休みもなくまた、リアーロと、ポラの二人は、ダンジョンへと潜っていた。
「なんか、いつもより人が多いな」
第二階層に降りてから数分で、すれ違った人数は昨日の倍以上の十三人となっていた。
「そうですね、早くこの階層を終わらせたいですね」
二人は、混雑している理由がわからず、首をひねるばかりだった。二人は知ることは、無いがその理由は、リアーロの採取した蜘蛛絹糸の影響だった。
昨日の講義に参加したハンターがギルドに蜘蛛絹糸を持ち込むと、買取担当のサブリナが「一級品キター」と叫びながら何度もハンターの目の前で飛び跳ねた。
その度にサブリナの
そのせいで、この階層にハンターが殺到していたのだった。
二人が通路を抜け小部屋に出ると、あの声が聞こえてきた。
「止めろ! この糞鳥がああー!」
また、モッキングバードか、そう思って周囲を警戒すると、罵倒をしていたのは、ハンターだった。
ハンターは、バードイーターとモッキングバードが戦っているところに割り込んでいったようだ。
「うわああ! 蜘蛛の尻は止めろ! 食うんじゃない!」
それは、モッキングバードが、バードイータを殺し、ついばんでいるところだった。
「……先生。 バードイータが、バードに食べられてます……」
「そうだな……。きっとこのダンジョを
リアーロが言った言葉にポラが反応する。
「先生は、ダンジョン
ハンターの攻撃を回避しながら蜘蛛尻を食い進める鳥を横目に、二人はダンジョについて諸説ある中の何派なのかということを話題にする。
ダンジョン
「ん? ああ、そうだな。俺は多分そうだと思う。ポラは違うのか?」
「私は、ダンジョン巨大生物派ですね」
ダンジョン巨大生物派というのは、その名の通りダンジョン自体が生物で人間の出入りで何かしらの利益を得ているという推論だ。
「そうか、何処かの誰かが決定的な証拠を出してくれると良いな」
どうやら、ポラは激論を交わしたかったようだが、リアーロは、割とどれでも良い派だったようで、会話が自然消滅した。
自分が興味ないなら相手に喋らせれば良いのに、会話のキャッチボールを放棄し、投げ返された球をバットでかっ飛ばしてしまった。
会話がなくなり、しばらく歩くと、ポラが急にリアーロの腕を引っ張った。
「おっと! どうした?」
リアーロが、振り向きポラを見ようとしたそのとき、ボコッと地面が盛り上がるようにして弾け、土が舞い散った。
普段のリアーロなら気がついていたのだが、人が多くて無駄に歩き回っていたことで集中力が切れていた。ポラが腕を引いてくれなかったら、まともに不意打ちを食らっていただろう。
「なにか出ます!」
ポラは、土に空いた穴をじっと見つめる。
「よっしゃ! この階層ラストの魔物が来た!」
急に空いた地面の穴からズルズルと這い出てきたのは、トンネルワームだった。
横縞の入った筒状の茶色い体。先端には、ウネウネとなにかを探るように動き回る触手が四本生えている。そいつは鎌首をもたげ、こちらを挑発するように触手をウネウネとさせている。
「素材部位は、皮と中身だ。中身はぐちゃぐちゃでも構わないが、皮は傷つけないでくれ!」
ポラが小さくうなずくと、ワームは、見えないなにかに引っ張られるように空中へ吊り上げられた。
そしてお尻側を起点に、勢いよく振り回され地面へと叩きつけられる。
ビタン、ビタン、ビタン! ワームは振り回されて右! 左! 右!と三度地面に叩きつけられた。
ピクリとも動かなくなったワームをポラが足蹴にして死亡確認をする。そして、親指を立ててグッといいねのポーズをした。
「……。よし! 今回の講義はトンネルワームのゴム皮と肥料団子だ」
討伐方法には一切触れず、処理袋からいそいそと道具を取り出す。
取り出したのは、
ローラー絞り機は、円柱状の木が二本ありその間を通すことで、絞ることができる道具だ。普通は、奥様たちが洗濯物を絞る時に使われるものだ。
リアーロは、
「こいつの皮は、ブヨブヨしたゴムのような皮だから普通の刃物じゃ切れない。いろいろ試したがハサミが一番切りやすかった」
ジョキ、ジョキ、ジョキ。ブヨブヨした刃物で切りにくそうな皮は、鋏だと簡単に切断されていく。
一周切り終わると、触手がついた頭を遠くに投げ捨てる。
「あれ、まだ生きてるから注意な」
ポラは、その言葉に驚き投げ飛ばされた頭をじーっと見ていると、人の気配を感じなくなったのか、動き始めた。そして器用に触手を動かし土の中に潜っていくのが見えた。
「キモ」
ポラの一言に苦笑いをしながら、リアーロはワームの切り口の下に防水布を広げた。
「次は、内臓の絞り出しだ。内臓は、固めて肥料として使えるから防水布の上に集めておく」
ワームのお尻をローラーに噛ませると、付属のハンドルをぐるぐる回して絞り出していく。
本来は、絞られる方が、移動するのだけどワームは重い。なので、ローラーを持ちハンドルを回しながら自ら動くことで内蔵を破壊しながら絞り出していく。
入り口までローラーを通すと、土と内蔵が混ざった焦げ茶色の物体が防水布の上に絞り出された。これが、肥料団子になるのだ。
「肥料は後回しで、簡単なゴム皮の処理からしていく」
チューブのようになっているワームのゴム皮に湧水杯で水を注ぎ込む。尻の方は、活躍筋が活躍したまま死後硬直しているので、入り口だけを押さえる。
すると、水入りの風船のようになり、動かす度にジャボ、ジャボと音がする。
「でかいだけでゴブリンの胃と同じ方法だ」
ある程度揺らすと、押さえていた手を放し水を捨てた。そしてもう一度、尻の方からローラーにかけて水を切っていく。
「次は劣化防止処理だ、使うのは砂だ。皮だからといって塩を使うんじゃないぞ。水分が出すぎてカチカチになって使い物いならなくなるからな」
ポラの「はい、わかりました」という返事を聞くと、リアーロはゴム皮を裏返しにし始めた。
「こうやって内側を外側にするんだ。そして
サラサラと袋から砂が落ちて、ブヨブヨの皮に付着していく。全体にまんべんなくまぶすと、再び皮をひっくり返す。
「これでゴム皮の劣化防止処理は終わりだ」
そう言いながらワームのゴム皮をまるでカーペットを丸めるように端から転がして小さくするとカバンに入れた。
「あとは、肥料団子だな。これは砂と混ぜて丸めるだけで簡単だ。しかし、意外と手間がかかるから捨てていっても構わないところだが、上級者としては持って帰りたい一品だ」
防水布の焦げ茶の物体に砂をどんどん混ぜ込んでいき、ある程度の硬さになったところで、小さく団子状に分けていく。
量が多いので、ポラも手伝い二人でコネコネしながら泥団子を作っていく。
泥遊びのようなことをすると、二人は童心を思い出し自然と笑顔になった。ポラが思い出したのは数年前、おっさんはうん十年前と違いこそあるが、その笑顔は同じだった。
全て団子にすると、もう一度上から砂をまぶし団子同士がくっつかないようにして完成だ。
「よし! 今回の講義はこれにて終了だ」
そのまま防水布で肥料団子をくるむと鞄にしまい、次の魔物を求めて、混み合う第二階層を後にするのだった。
トンネルワームの死体がきれいに無くなったのを見て、ポラは、小さくつぶやいた。
「あの子の出番はなかったか」
◆
ダンジョン素材採取教本 第1巻
著者ポラ、監修リアーロ
目次
第6項 トンネルワームのゴム皮と肥料団子 ……23
初級 ゴム皮の取り方 ……24
中級 ゴム皮の劣化防止処理 ……25
上級 肥料団子の作成 ……26
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