第23話(前編) サイクロプス討伐
----------お知らせ----------
今回は、六千文字を超える長い話になってしまいましたので、前後編に分割しました。
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バンエリンを解体し終わると、一人のハンターが駆け寄ってきた。
「おっと、もう終わってたかすまねぇな」
ハンターの男にリアーロが慣れた様子で対応する。
「気にするなたまたま居合わせただけだし、俺たちもこいつに用事があったからな」
解体された、バンエリンに近寄るとハンターの男は「皮を剥いだのか?」と疑問を投げかけてきた。
ポラが「知り合いなの?」と小声で聞くと、リアーロは、「この林にいる護衛だ」と答えた。
「ん? 皮を剥いでから棘を抜いた?」
きっと彼は、棘を一本一本抜いていたのだろう。そんな彼にリアーロは、先程の皮を剥いでから金槌で殴る方法を軽く説明した後に、ダンジョン素材採取教本の第2巻に掲載予定だと宣伝もしっかりしていた。
草むらへ逃げていた栗拾いをしていた人々が心配そうに覗き込んでくると、その男は、「次の休憩までは平気だ」と彼らの警備に戻っていった。
「あの人達は、どういう人達なのですか?」
「非戦闘員の栗拾いとその護衛だよ」
彼らは、護衛を雇い洞窟階層を突破し転移でここに通う戦闘が苦手な人々だ。危険はあるものの、その収穫量と季節不問の好条件はそれだけの価値がある。
そこで、じゃまになるバンエリンを退治するのが護衛であるハンターの仕事だ。先に林に入りバンエリンを狩り尽くすのだが、たまに全員の視線が切れ、林の隅にバンエリンが湧くことがある。
今回は、そんな事故のような現象に偶然に居合わせたようだ。本来なら事情を話して譲ってもらうつもりだったが、その手間が省けたのであった。
「へぇ~そんな場所もあるんですね」
「ああ、列島階層は目的地にピンポイントで行けるからな。こう言った場所もある」
イガ降り林のあれこれを説明し終わると、クーに食事をさせ次の場所へと向かった。
◆
草をかき分けながら一行は進む。先頭をリアーロが努めていたのだが、ムンナが長い腕を活かし器用に草をかき分けるのを見て先頭を交代した。
「ムンナ~ ムンナ~」
左腕でクーを抱えながら右手で器用に足元の草をなぎ倒していく。鼻歌交じりで軽々作業をした草地は、とても歩きやすく二人からとても感謝された。
お礼にとポラが撫でると気持ちよさそうに目を細める。どうやらムンナは撫でられるのがお気に入りのようだ。
しばらく進むと、草地が途切れ土がむき出しの場所に出た。
「あれ? 明らかな人工物があるんですけど……」
ポラが不審に思うのも無理はない。目の前には、丸太で作られた木の壁があるのだから。
その壁は、丸太の先端を尖らせた巨大な杭を連続で打ち込んだような作りになっており、少々隙間が空いているが、侵入を防止する役目は十分に果たしている。
「ここはサイクロプス村だ。その名のとおりサイクロプスが二十五匹住んでいる」
サイクロプスとは、一つ目の巨人だ。大柄な体に似合わず高度な鍛冶技術と社会性を持っている。
ここまで聞くと、交渉可能なように見受けられるが、彼らの極度の排他的思考と残虐性により取り付く島もない。
自分達以外の生物は、全て敵や食料と捉え一度見つけると、執念深く追い回し叩き潰すのだ。
「うわ! サイクロプスの村なんて国家討伐軍の派遣事案じゃないですか? 呼ぶのも面倒だし私が更地にしましょうか?」
「おいおい、落ち着けって地上にできれば、そのとおりだけど、ここはダンジョンだぞ!?」
ポラは、未だに列島階層に慣れていないらしく、屋外活動をしている気分になっていたようだ。
短く、「あ」とだけ言うと誤魔化すように「えへへ」と笑った。
「とりあえず、真正面から突っ込むと全員で襲いかかってくるから、どうにか一人だけ連れ出したいところだな……」
リアーロが顎に手を当てて考え込んでいると、ポラが声をかけた。
「サイクロプスの素材って何処ですか?」
リアーロは、村からの釣り出し方法を考えることに集中していたので、何の気にもせず素材部分を教えた。
「手に持ってるデカいハンマーとデカい目玉だよ」
そう言うとリアーロは、再び釣り出し方法の思考に囚われた。
「じゃ、いってきま~す」
そんな呑気なポラの声にハッと我に返ったときはもう遅かった。
ポラは、音もなく浮かび上がるとサイクロプス村の上空を旋回し始める。それに気がついたサイクロプスたちは、わけのわからない言葉を叫び始めた。
「あっららちょわ~」
「あーばだごめ、ばいっぱー」
「あ~ぬん!?」
「じょーん!」
壁の向こうでど、どしどしと足音を立てながら大勢の巨人が動き始めた。
リアーロとムンナが驚き留まっている……。
一方、上空のポラは旋回しながら色々と観察をしていた。
丸太杭の壁の内側には、巨人にふさわしいとても大きなログハウスがいくつも並んでいた。村の中央には巨大な煙突がありその周りには人よりも大きな金床やハンマーが何セットも設置されている。
ポラの眼下をドスドスと歩いているのは、黄色い肌で一つ目の巨人だった。
巨人の大きさは、成人男性の3倍ほどありかなり大きい。手には巨大な槌が握られている。鍛冶用のハンマーとは違い頭がかなり大きく両手持ちするためか柄も長い。
服はツギハギだらけのワンショルダーの毛皮を腰の紐で止めているだけだ。その腰の紐には、動物の頭蓋骨と思われるものが、いくつも括り付けられている。その中には明らかに人間の頭蓋骨も含まれていた。
そして、最も特徴的なのは、なんと言っても一つの大きな目玉だ。その大きさは、小脇に抱えるほどで、瞳孔は、赤く光を放っている。
「うわー。本当にいっぱい出てきた。ええと、いち、に、さん……。うん二十五匹いるね」
もう一度村の上空を一回りし村の中心付近で停止すると「やるか」と小さくひとりごち魔法を放ち始めた。
「おいおいおい! なにしてるんだ!」
未だに混乱の中にいるリアーロは上空にいるポラをみながら声を上げるが、その声は届くはずもなかった。
そして、それはついに始まった。
壁越しに見えるのは、見上げるほど大きな炎の柱だった。それを始めに巨大な氷塊の落下、降り注ぐ雷光。そして、元は住居だったと思われる木片を巻き上げる大きな竜巻……。
「終わりましたよ~。村の中に行きましょ~」
ポラは空を飛びながらゆっくりとこちらに降りてきた。
「ああ、うん……」
「ムナァ……」
リアーロとムンナは心の中で恐れと信頼のせめぎ合いをさせながらも、ポラに従い正面の入り口まで移動すると村へと入っていた……。
そこで、リアーロたちが見たものは、徹底的に蹂躙された村だった……。建物はすべてバラバラになり、そこら中に丸太が散らばっている。その中にチラホラとサイクロプスが倒れている。
左前方は炭化するほど焼け焦げたサイクロプスの山。正面奥の死体は半分凍りながら潰れている。右前方は稲妻のよな模様の火傷を負った死体があり、足元には木片や石が体中に刺さった死体があった。
そして、どのサイクロプスも顔だけは無傷だった。
バンエリンの講座中のやり取りで、自分に活を入れたポラは魔物に無慈悲な殺戮マシーンと化していたようだ。若年の心の振り幅の大きさが悪い方に働いてしまったようだ。
「ポラ……どう見てもやりすぎだ……」
「え?」
ポラはリアーロとムンナの顔色を見て自分が間違っていたかな? と思いかけたが、金色卵のクーが、「ピュイ~!」と歓喜の声を上げたことにより、その考えを引っ込めた。
「そうですかね? クーちゃんは嬉しそうだけど……」
そう、金竜であるクーもスケールがぶっ飛んでいたのだ。
「はぁ……。まあ良いか……。さて、講座を始めるぞ」
「はい先生!」
リアーロは色々と諦めた様子で解体を始めるのだった。
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