洞窟 第五階層

第14話 ボス階層挑戦ー前日

「これが転移魔法陣ですか」


 ポラが、しゃがみこんで転移魔法陣を観察している。


「初めて見るのか?」


 腕肉を二本担いだリアーロは、早く入ってほしいなと思いながら声をかけた。


「ふむふむ、座標指定型じゃなく対応型で、魔力証文を記録するタイプだね。接触によってトリガーが開放される仕組みだね。あれ? 第五階層第二というのもあるね」


 驚いたことにポラは、ただみているだけで、魔法陣からどんどん情報を読み取っている。ポラが言っていたとおり、ボスを倒した向こう側の部屋にも転移魔法陣があり、一度倒せば、次回からは倒さなくて済む構造になっていた。


「その通りボス部屋の先にもう一つある。それにしても攻撃魔法だけじゃなく魔法全般いけるのか? ポラはすごいな」


 これにはリアーロも驚きを感嘆の声を上げる。実際見ただけでここまで解析できる魔道士はそうは居ない、一体何故この仕事を受けたのか、ますますわからなくなってきた。


「それほどでもあります」と自慢気に胸を張る姿はただの可愛らしい少女だ。


ポラは、ある程度魔法陣を観察すると「もう良いか」と魔法陣に入った。


すると、ポラの頭の中に女性の声が響く。


<第五階層第一ニ到達、個人識別完了。地上ヘ転送シマスカ?>


「します!」


 そう言うと魔法陣の上に乗ったポラは、青い光りに包まれ姿を消した。続いてリアーロも魔法陣に乗り<地上ヘ転送シマスカ?>の問に「ああ、頼む」と短く答えると地上へと転移する。


 二人が転移した先は、ダンジョンの前だった。貸しグリル屋とは逆の神殿のような場所だった。


「ふぅ、流石に腕肉二本は重いな」


 リアーロは、神殿の床に腕肉を置くと肩をグルグルと回し凝りをほぐす。


「へぇ、ここが出口だったんですね」


 先についたポラは、神殿をペタペタと触っている。きっとこの神殿も魔法関連のものなのだろうと思い色々と調べている。


「ポラ、腕肉を売るところに取りに来るように呼びに行くから、それを見張っててくれ」


「了解です」


 ポラに見張りを指示したリアーロは、急ぎ何処かへ走っていった。


 建物自体は普通の石造りであったためすぐに興味がそれ、大きな肉塊のほうが気になり始めた。


「そう言えば先生、このお肉美味しいって言ってたよね……」


 貸しグリル屋には行かず、売ると言って何処かへ言ってしまったので少々残念に思っていた。


 しばらくすると他のハンターグループが、転送魔法陣から出てきた。


「ふー! みんなおつかれ、戦利品はギルドで売って明日金を山分けするから、今日はここで解散だ」


 取り分の相談をして今日の仕事は終わりのようだ。疲れた様子で神殿の外へと向かおうとすると、彼らは腕肉とその横にいるポラに目を留める。


「お? 見たこと無いお嬢さんだね。もしかしてこれはスマッシュエイプの腕肉かな?」


 リーダーらしきハンターに声をかけられたポラは、警戒しながら「そうです。仲間が買い取ってくれる人を呼びに行ったんです」と仲間がいるアピールをしつつ答える。


「おおーやっぱりそうか、何処に売るか言ってたかな?」


 ポラは知らないと首を振る。


「あー何処かな? お前ら予想つくか?」


 ハンターたちのリーダが後ろにいる他メンバーに問う。


「四階層焼きを出せるのは、[銀竜亭]か[山猿屋]それと[片手落ち亭]じゃないか?」


 この男が上げたの店名は、どれも料理店だ。銀龍亭は老舗の料理屋で、山猿屋は居酒屋だ。最後の片手落ち亭は、引退ハンターが開いたハンターのたまり場になってる店だ。


「銀龍亭は出来るけど、パーティーに貴族でも居なきゃ、やらんだろ?」

「そうだ! 売りにいったハンターの名前を聞きゃ予想がつくだろ!」


 リーダは、名前を聞く手があったか! とすぐにポラに質問する。


「売りに行った人はなんて名前の人かな?」


 ポラは少し迷ったが、悪い人たちではなさそうなので、リアーロの名前を出した。


「リアーロって聞いた覚えがあるな」

「ほら! 一年ぐらい前にどっかのパーティのボス討伐の宴会だよ」

「山猿屋が過去最高の素材だったって言ったときのハンターか!」


 ハンターたちは、ポラをそっちのけで話し合い結論を出した。


「お嬢ちゃんは、もしかして明日第五階層にいくのか?」


 その問いにポラはコクリとうなずく。


「よっしゃ! 今すぐ山猿屋に行け! 明日の夕方に予約を入れてこい! 他のハンターパーティに知られるなよ!」


 すると、男たちのひとりが、全力で外へと走っていった。


「ありがとうな、お嬢ちゃん! おかげで明日はごちそうにありつけるぜ」


 ポラは何が何だか分からなかったが、お礼を言って神殿から出ていく男たちに悪い気分はしなかった。


 その男たちと入れ替わるように、リアーロが人を連れて戻ってきた。


「ポラおまたせ、こいつが腕肉を買い取ってくれる山猿屋の主人だ」


 リアーロが紹介した男は、毛むくじゃらで大きなスキンヘッドの男だった。猿と言うよりクマのほうが似合いそうな男だ。


「明日のボス初討伐の宴会をやらせてもらう山猿屋のカレーバーグだ。よろしくな嬢ちゃん。」


 ポラはカレーバーグの言葉でハンターの男たちが言っていた意味が、ようやく解ってきた。どうやら明日、第五階層を攻略したら宴会が開かれるらしい。そこで出されるのが、腕肉を使った四階層焼きというものだということを察した。


「蜜袋、腕肉、ランニングオニオン……この第四階層の食材を使った料理でボス討伐を祝うのがこのダンジョンの伝統なんだ!」


 リアーロは、やっとポラに打ち明けた。肉の味を楽しみにしていたポラは断然気合が入った。


「ははは! リアーロの取ってくる素材は完璧だ! 歴代最高の味にする自信があるぜ!」


 リアーロとカレーバーグは、ガッチリと腕相撲をするような形で握手すると「頼んだぜ」「任せておけ!」と共に気合を入れていた。


「よし! ポラ! 今日は解散だ!  明日に備えて十分に休むように!」


「はい先生!」


 二人は、万全の状態でうまい飯が食えるように体調を整えるのだった。


 普通の新人パーティと違いボスを討伐できるか心配する者は、ひとりも居なかった。




山猿屋ダンジョンレシピ 第1巻

著者:ポラ 監修:山猿屋店主、カレーバーグ


より抜粋


 第6項 ボス討伐宴会料理~絶品四階層焼き!


材料……ハニーアントの蜜袋1袋、スマッシュエイプの腕肉二本、ランニングオニオン一匹。


作り方


1.調味液を作る。秘伝のタレ(第2項参照)にランニングオニオンのみじん切りとハニーアントの蜜を入れ、とろみが出るまで、冷やしながらよくかき混ぜる。


2.スマッシュエイプの腕肉に調味液(1)をまんべんなく塗り込む。


3.調味液を塗り込んだ腕肉(2)を冷暗所で一晩寝かせる。


4.一晩寝かせた腕肉(3)を鉄板に載せ弱火でじっくり焼く。


5.下面を焼くと同時に火吹杖ひふきつえの中火で上部からも同時に加熱する。


6.腕肉の中心の骨から骨髄が垂れてきたらベストな焼き加減です。



 今回は、偶然ボス討伐の宴会に居合わせた店の客に振る舞われる[四階層焼き]の紹介でした。気になる方は、新人パーティの動向を探り、我が[山猿屋]にぜひご予約を!



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