第23話(後編) サイクロプス解体
目の前の惨状とポラの態度にリアーロは小さくため息を付いた。
二十五体分物素材を処理するのは体力敵に非常に厳しい。しかし、この金竜コンビになにを言っても無駄なような気がしたので、一体だけ解体することに決め、さっさと講座を始めることにしたようだ。
「今回の講座は、サイクロプスの槌と眼球魔石だ」
そう言って使用する道具を準備し始めた。
今回使用するのは、平タガネ、金槌、バール、筋切り包丁、フイゴ、麻ひもだ。
フイゴは、火の勢いを強くする風を起こす道具だ。二枚の板の間に蛇腹状に折りたたまれた革袋が付いていて、蛇腹とは反対側に細い管がついている。広げることで板面の吸入口から吸気し、縮めることで細い管から空気を勢いよく排出する。
「まずは、巨大な槌の解体だな」
そう言うとリアーロは、転がっている二五本の巨大な槌の一つを引きずりながら開けた場所に運んだ。
その大きな槌は、金属部の頭と木製の柄で構成されている。槌の頭は、打撃面と本体の色が違い、いくつかの部品で構成されているのが分かる。
「ふう、このとおり、めちゃくちゃ重い。だからバラして貴重な部位だけ持っていく」
オークの斧と同じ様に、槌の頭が抜けないように止めている楔を平タガネで殴りつけるようにして外す。
「ここはデカいだけでオークの斧と同じだ。次は頭の部分だな」
木製の柄を引き抜くと、次は頭の部分に取り掛かる。打面は、金属製のビスで止められている。そのビスの大きさも、他の部品と同じく人間サイズではない。出っ張りの部分だけでも子供の拳ぐらいある。リアーロはそのビスの頭を横から金槌で叩く。
ガン! ガン! ガン!
「まずはビスを叩いて浮かせる」
ハンマーで何度か叩くとビスが浮き上がり隙間ができる。その隙間にバールの釘抜き部分を差し込み力を込めて引き抜く。
「はぁ、はぁ、このビスは片側十二個ある……」
息を切らせながらビスをすべて抜き終わると、打面が本体からポロッと外れた。
「ちょっと休んでから、逆側をやる……」
巨大なビス十二本に体力を使い果たしたリアーロは、槌の本体に腰掛けて休憩を始めた。
へたり込んでいるリアーロにポラがそっと手をかざす。するとリアーロの体を黄色い光が包み変化が起こる。
「おお!? 疲れが吹っ飛んだぞ!?」
「体力回復魔法です! 先生頑張ってください!」
体力を取り戻したリアーロは、すぐに逆側の打面のビスを処理し本体から外した。それでもまだ、体力にかなりの余裕があった。
ポラの魔法があれば、二十五体分の解体をやれそうだとリアーロは考えを改めた。
「よし、解体は終わりだ。次は持ち帰るのを優先すべきパーツだな」
リアーロは、ばらした部品を地面に順番に並べて行く。
左から、槌の打面、槌の柄、槌のビス、槌の本体と並べた。
「左から順に持ち帰るべき順序だ」
木材である槌の柄の優先順位が高いことにポラが疑問を持つ。
「一番は、これミスリルですよね? それは分かるんですが、なんで木材が二番目なんですか?」
リアーロは、身長ほどもある木材を持ち上げ、立てると、この木材が何なのかを説明する。
「こいつは、マージエボニーって魔力と親和性が高い木材なんだ。硬い、軽い、魔力の通りが良いって三拍子で、杖の素材として価値が高いんだ」
そう言うと自分の背丈より長い木材を軽々持ち上げた。
「杖の材料ですか?」
ポラは自分の持っている杖に目をやり、この仕事を受けたきっかけを思い出す。
「まぁ、このダンジョンだと杖の素材としては四番手ぐらいの性能だな」
ポラは、それを聞くと自身の杖の素材を思い出していた。
「あの、世界樹の悪子っていうのは、どれぐらいなんですか?」
「お? よくその名前を知ってたな! あれは、このダンジョン最深部付近の物で、俺が取った二本しかこの世に無い超貴重品だ!」
ポラは、その一本を自分が持っていることをとても嬉しく思った。それと、同時にもう一本あることがとても気になった。多数出回っていれば気にならなかったかもしれないが、二本となると、どうしてももう片方が気になるのだった。
何やら悩んでいるポラに疑問を持ちながらもリアーロは持ち帰るべき順序の説明に戻った。
「三番目がビスだな。これはよくわからんが、錆びない鉄の材料になるらしい。そして最後の槌の頭の本体だが見てのとおりデカくて、とても持ち帰れない。それに素材は、鉄と鉛で価値も低い」
ベンチほどの大きさがある金属塊に腰掛けて、それをペシペシと叩く。
優先順位を告げ終わると、次はサイクロプスの眼球魔石の採取へと移る。瓦礫や木片で下半身がひき肉の様になったサイクロプスの頭へと移動する。
「次は、眼球魔石だ。こいつを取れば最悪、槌は置いていっても良いかもしれんほど高額だ」
筋切り包丁を持つとその切っ先をサイクロプスの大きなまぶたに向ける。
「魔石を取るには目玉を取り出す必要がある。最初の手順は、まぶたを切り落とすことだ」
筋切り包丁を眼窩に沿ってまぶたに切込みを入れる。以外と硬いようで、何度も同じところをなぞり少しずつ切り進めていく。
「一気に切ろうとして目玉を傷つけないようにしろよ、そうしないと魔石の品質が下がる」
丁寧に上まぶたと下まぶたを切り取ると、ギョロっとした大きな目玉が露出する。
「次は目を支える筋肉を切り離す」
目玉を横から手で少し押すと、目玉を支える筋のようなものが見える。
「この筋が目玉を固定してるんだ。だからこれを切り離す」
眼窩と眼球の隙間に包丁を何度か引くと筋が切り離される。逆側の筋も切ると目玉が眼窩の中で上下左右に若干自由に動くようになった。
「次は目玉の取り出しだな。このまま引っ張り出すこともできるんだがこいつを使えば、もっと楽になる」
リアーロは、フイゴを取り出すと管の先を目玉の隙間に差し込み空気を送り込み始める。
「こうやって空気を送り込むと、空気圧で浮かんで目の裏の柔らかい血管が剥がれるんだ」
空気を送り込む度に目玉が持ち上がってきて、最終的にはスポンッとワインのコルクを抜くような音と共に、目玉がボロンと、飛び出した。
眼窩から飛び出した目玉は、太い視神経で脳につながっている状態でプラプラと揺れていて、非常にグロテスクだった。
「よし! 目玉を取り出す理由は、この視神経を締めるためなんだ。無理に切り取ると魔石が脳に緊急事態として大量の魔力を送り純度が下がるんだけど、視神経をひもで縛り遮断すると、魔力の流出を防げるんだ。おっと! 切るのは一番ダメだぞ、切り口から魔力が溢れて、目玉がゲイザーっていうアンデット系の魔物になっちまう。ここは特にしっかり書いてくれ」
「はい!」
ポラは、森林で出会った雷撃を撒き散らす目玉の化け物を思い出し、真剣な表情返事をした。
麻ひもを取り出すと、視神経にグルグルと巻きつけて、これでもかと言うほどきつく縛っていく。
「一箇所だけでも良いんだが、保険として二箇所縛っておくと良いぞ」
太いサイクロプスの視神経を縛り終えると、ついに魔石の取り出しにかかる。
「横から見て透明な部分があるだろ? 角膜と言うんだが、そこを切り取る」
包丁を角膜の際に差し込みぐるりと切込みを入れると、透明の膜がずり落ち赤い水晶体が露出する。
「この赤い水晶体が眼球魔石だ。ここまでくればあとは魔石にへばりついてる神経を剥がすだけだ」
そう言って魔石を鷲掴みすると一気に引っ張り出して、こびりついている肉片を指でつまんで引っ張り全て剥がした。
「これで純度の高い魔石が取れた」
リアーロの手には拳よりも大きな赤く美しい魔石が輝いていた。
「これで今回の講座は終了だ」
講座を終えたリアーロにポラがねぎらいの声をかける。
「お疲れさまです! では、次に行く準備をしましょうか」
するとリアーロは、自分の背後を親指で指し示しながらこう言った。
「ポラちょっと待て、まだ二十四体あるぞ」
ポラは、ここに来て初めて、リアーロがやりすぎと言った意味を理解した……。
どうやら、二人には、まだまだ沢山の仕事が残っているようだ……。
◆
ダンジョン素材採取教本 第2巻
著者ポラ、監修リアーロ
目次
第6項 サイクロプスの槌と眼球魔石……24
初級 巨大槌の分解…………………………25
中級 巨大槌の部品価値の順位……………26
上級 眼球魔石の採取………………………27
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