第32話 赤と青
赤と青の輝きがはっきりとした形を取り始める。アダマスタートルも何事かと警戒して攻撃を中断し光の玉を見つめる。
この場にいるものすべての注目を集める中で、現れたのは鱗に覆われた4本足だ。その先には鋭い爪がついていてそれだけで獰猛な生き物だとわかる。次に現れたのは翼膜のついた大きな羽だ。そして咆哮とともにその生物の顔が現れるとその正体が明らかになった。
それは、赤い鱗と青い鱗の竜であった。
後頭部へと伸びる大きな2本の角が生えた恐ろしい頭をこちらへと向けた。
ポラは、唖然としていたがすぐに警戒してユーマユーアの杖を手放し手を自由にした。
リアーロは、現れた2匹の竜の強さを感じ取りポラを気にしながらも、ムンナの手を引きクーを脇に抱えるとすぐに2匹の竜から距離をとった。
2匹の竜は巨亀の攻撃を太いしっぽで軽くいなすとこちらを向き話しかけてきた。
「金竜を従えし娘よ。構築している物騒な魔術をやめてくれ……。我らは敵対する気はない」
ポラは、何者にも気が付かれないように注意をはらい構築していた魔法を見破られ驚く。
「兄者! 話は亀を片付けてからゆっくりしようや」
「それもそうだな。しばらく待ってくれ、すぐに召喚の盟約を果たそう」
青と赤の竜は大声で威嚇する巨亀に向き直る。そして、再び攻撃動作をとった巨亀を気にせず青竜が詠唱を始めた。
「凍れ、凍れ、動きを止めよ。我らに立ちはだかる不届き者を跪かせろ。
青竜の口から放たれた青い光が亀を通り抜ける。亀は以外にも素早く手足を引っ込め甲羅に籠もり防御の構えをとった。しかし周りの土埃や飛ばされた小石ごとその場で凍りついた。
亀は氷に包まれているが、中までは凍っていない。なぜなら甲羅には強力な魔素反発作用があるからであった。ありとあらゆる魔法は、アダマスタートルの甲羅に触れることはできない。そして強力な攻撃は物理的のものであっても必ず魔力が伴うものだ。それ故に魔素反発作用こそ不壊の甲羅が不壊である一番の理由だった。
「ふん……相変わらずこの亀は宝の持ち腐れだ……」
凍った亀に特に反応せず赤竜は詠唱を始めた。
「燃えろ、燃えろ、存在を焼失せよ。我らに立ちはだかる不届き者を焼き殺せ。
赤竜から放たれた赤い炎が氷を砕き巨亀を貫く。
閃光は首を縮めた甲羅の隙間……とはいえ、その巨大さ故に防御の大穴となっているので容易に入り込む。本来なら拡散される炎は甲羅のせいで逆に内部に炎が閉じ込められあっという間に頭を焼き尽くした。
燃え盛る亀を見てポラが納得したようにつぶやいた。
「聞いた話では強そうだと思ったけど、甲羅にこもっても大きすぎて防御が隙だらけだなんて……。どおりで強敵として名前を聞いたことがないわけだ……」
ポラは、ただ大きなだけで攻撃も防御も穴だらけなんて、とんだ見掛け倒しだ……とがっかりした。そしてすぐに2匹の竜に興味が移る。
「さて? それで、あなた達は一体なんですか?」
甲羅の口から炎を立ち上らせる大きなだけのザコに興味を失ったポラは、2匹の竜に話しかけた。
「金竜を従えし娘よ。我は、兄の炎竜」
「そして俺は、弟の氷竜だ」
「「お主の魔力を糧に物質世界に干渉できるようになった」」
ポラは首を傾げながらも2匹の竜を見つめる……。そして、何かひらめいたような顔で
「おすわり!」
2匹の竜は、その言葉に強制的に従わせられるように腰を落とした。その姿はまるで忠犬のようであった。流石にしっぽは振っていないが……。
「せんせー! この二匹は完全に私の制御下ですから安全ですよ!」
それを聞いたリアーロはすぐにムンナとクーを連れてポラの近くへと戻ってきた。
「味方なら問題ねぇ! さて、次は俺の番だな!」
なにか言いかけた竜たちをポラが「先生の講座が終わるまでおしゃべり禁止です!」
と魔力で縛り付ける。
リアーロはなんだか悪い気がしながらも処理袋を取り出しいつものように解体の準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます