列島 第四島 墓地島
第27話 スケルトン
ロングポールアジッターの講座を終えた二人は、砂島を脱出し次の島への橋を渡り第四の島に到着していた。
そこは、今までと打って変わって、薄暗くどんよりとしている。それは、この島の上空だけにある黒く分厚い雲のせいである。
橋を渡った先は、驚くことに道があり、遠くに鉄柵で囲まれた場所まで続いているのが見える。
「ここが第四島の墓地島だ!」
ポラは、突然墓地という人工的なものが登場したので、言葉を失っている。
「…………。 墓地があるって事は、ここに誰か住んでいたってことですか?」
「いや、誰も住んでいない。たぶん雰囲気作りの演出か、それとも、どっかから移設してきたのだろう」
リアーロは、腕組をしながら、うーんと唸る。
「このダンジョンは、どっかの誰かが厄介な魔物を捨てたゴミ箱じゃないかと、俺は思っている」
ポラはその言葉を聞いて、思い悩む。脈略無く散発的に出る魔物は、個別に捨てられた魔物で、生息地が決まっている魔物は、場所ごと捨てられたということだろうか?
そうなると目の前にある鉄作で囲まれた墓地も場所ごと捨てられたのだろうか?
「うーん。やっぱり
ダンジョン巨大生物派のポラは、少しがっかりしたように答えた。
「正直わからん。でも、神に管理を任された生物の体内ってこともあるだろ?」
リアーロは、お茶を濁すのに最適な折衷案を提示する。
「神が魔物を巨大生物の体内にポイ捨てして、その巨大生物が魔物処理のためにダンジョンとして入り口を開いているってことですね!?」
巨大生物派の活路を見出したポラは、リアーロの意見に飛びついた。
ポラが勝手に推論の結論に辿り着いてくれたので、すぐに本来の仕事へ移ることにした。
「さて! 良い推論も出たことだし中に入るぞ!」
リアーロは、鉄柵に囲まれた墓地を指差す。
「魔物は視線の通らない地中で生まれるんだ。奴らは入った途端にワラワラと土から出てくる。だから、出てこなくなるまで片っ端から叩くぞ」
「えっと、何が出るんですか?」
「スケルトンだよ」
ポラは首を傾げながら考えている。そして、数秒停止した後に眉をひそめる。
その表情を読み取ったリアーロは、ポラが声を発する前に素材について話だした。
「もちろん素材を取るぞ。人骨だって嫌悪感もあるだろうが、それは勘違いだって講座の時に教えるよ。とにかく今は中に入って、出てこなくなるまで討伐する」
そう言うとリアーロは先頭を切って墓地へと進んでいく。
鉄柵の扉を開けて中に入ると、至るところで地面がボコボコと盛り上がる。後を追ってきたポラが墓地に踏み込むころには、数多くのスケルトンが地面から這い出してきている最中だった。
「よし! 素材部位は大腿骨だ! 弱点は頭蓋骨だ叩き壊せば止まる!」
リアーロはバールを取り出し地面から這い出ようとしているスケルトンの頭蓋骨を叩き壊した。
「ええと! わかりました。とにかく今は倒します!」
ポラもスケルトンの素材について、考える事を後回しにして攻撃を始める。
骨に対して風や火が有効打にならないのでポラは、石を生み出して頭を撃ち抜く。派手な魔法で一気に決めようとも考えたが、素材まで駄目になるので二十以上もいるスケルトンに対しチマチマやるしか無いようだ。
二人は奮戦するも、討伐と地面から這い出る数が拮抗していて、数を減らせないでいる。リアーロの予想とは違い、ポラは意外に素材を残しながらの対多数戦に強くなかった。
数は変わらないが包囲網が狭まってきて、後ろを気にしないと危険なほど囲まれ始めた。
それに気がついたリアーロが、「素材は気にしないでいいから範囲魔法を……」と、まで叫んだところで意外な戦力が現れた。
「ムンナアアアア!」
それは、バンエリンとの戦いで戦力外通告をされていたムンナだった。ムンナは、背中のかごに入っていたロングポールアジッターの槍脚を両手に一本づつ持ちそれをスケルトンの頭の高さで水平に素早く振り抜いた。
均一化されたスケルトンの動きが仇となり、槍の範囲内いたスケルトンの頭蓋骨を全て叩き割った。
「ムンナちゃんすご~い!」
ポラが、見事なムンナの攻撃に称賛の声を上げた!
「ムナムン!」
ムンナは、嬉しそうにしながら更に槍を振り回し、スケルトンの群れを切り崩していく。
「そうか! そうやればいいんだね!」
ポラはそう言うと、石を飛ばすのをやめて、魔力で棒状の塊を作りそれをグルグルと回しながらスケルトンの頭の高さを飛行させた。その棒は見事に頭を捉え弾き飛ばし始めた。
ポラとムンナの活躍でスケルトンの数は一気に減り、ついに土から完全に這い出る前に倒せるほど余裕になった。そして、最終的にはもぐらたたきゲームの様になってしまった。
そして、ついにスケルトンが土の中から出てこなくなった。
「流石だな! ムンナがでてきてから射程の短い俺は何も出来なかったよ!」
リアーロがムンナの肩をペチペチと叩いて称賛する。
「ムンナちゃんのおかげで、簡単に倒す方法が解ったよ! ありがとうね」
ポラはムンナの大きくて柔らかいお腹に抱きついた。
「ムフー!」
ムンナは誇らしげに鼻息を荒くすると、槍脚をカゴに戻して、長い腕でポラを抱きしめた。
そんな二人の光景を見て和んでいたリアーロはハッとなりあわてて講座を開始する。
「さて、今回の講座は、スケルトンの魔骨だ」
リアーロは、周りに散らばるスケルトンの残骸から大腿骨を一本拾い上げた。
「とりあえず一番でかい足の骨、大腿骨を集めてくれ、この部位が一番魔力が高く効率がいいいんだ」
指示を受けムンナとポラが骨を拾い集めている間に、リアーロは道具を用意する。
今回使用する道具は、特大乳鉢と乳棒のセット、湧水杯、小麦粉、防水布だ。
特大乳鉢は、
「魔骨はこのまま持っていっても良いんだが、骨粉にしたほうが持ち運びやすい。このデカい道具が必要なだけでコツはない! ひたすら擦るんだ!」
そう言うと、ポラとムンナによって積み上げられた大腿骨の山から一本取り出し乳鉢に入れて砕いていく。
リアーロが、汗を流しながら骨粉を作る。ムンナは骨を拾い集め、ポラは、リアーロの様子を観察する。そして、金色卵のクーは余った骨を分解しながら食べている。
ゴリゴリ、ムナ!、じー……、ピュイー!
それぞれが、仕事をしているが、流石に量が多すぎた……。疲れ果てたリアーロは、手を止めた。
普通は外から攻撃し何匹か連れ出す。しかし、サイクロプスの事もあったので、初めから突っ込んだのだが、リアーロのその作戦は、いろいろと失敗したようだ。
「ふう……とりあえず、魔骨の粉は出来たから次に移る。少々難易度が高いが、こいつをもう一度加工すれば更に買取値段が上がる。小麦粉と水を混ぜて魔肥料玉に加工する。これは、ワーム肥料を遥かに超える効果があるんだ」
用途を聞いたポラは、戦いの熱が冷め、拾い集めていたのが人骨だった事を思い出した。
「あの、嫌悪感が勘違いだって言うのはどういう事なんですか……?」
ポラの疑問にリアーロは、大腿骨を上下左右を揃え丁寧に地面に並べ始めた。
「見てみろ。全て寸分の違いもなく同じ形だろ?」
そう言われて見比べた骨はたしかに、長さや太さが完全に一致していた。通常、背が同じでも骨はひとりひとり形が違うものだ。
「もしかして……これって……」
「そう、こいつはすべて同じ形をしたゴーレムだ。だから人間の骨じゃない。俺が発見してたら、こいつの名前は骨ゴーレムにしたな」
その説明にポラは納得したようで、「加工の続きをお願いします」と作業をすすめるようにお願いした。
リアーロは、ポラが無事納得したところで、作業を再開する。
「骨粉3、小麦粉1、水1の割合で混ぜる」
骨粉に小麦粉と水を加え練り始める。にちゃにちゃと音を立てながら、しばらく混ぜ、水分が均一になると手を止めた。
「あとは、肥料玉と同じく丸めて防水布の上に置く。すぐに変質が始まるから手際よくな!」
手際よく丸めて団子を作りあっという間に、全てを団子状に丸め防水布に置いた。
「さて、そろそろ始まるかな」
リアーロがそう言ってから少し経つと、初めに丸めた団子に変化が起きる。シューと音を立てて蒸気を噴出すると、団子はカチカチに固まった。
「魔力の作用で団子の外側が硬質化するんだ。これを土に埋めておけば、徐々に肥料が溶け出して三ヶ月は持続するんだ」
次々に蒸気を上げる団子をみながら、リアーロは、講座の終わりを告げる。
「これで今回の講座は終わりだ。残りの骨は持ち帰って加工してからギルドに売っておくよ。さぁ! スケルトンがまた出始める前にさっさと帰ろう」
残りの骨をムンナのカゴに入れると、すぐに墓地の外に出た。
「さて、ここまで来たら例のごとく、次の転送魔法陣に行ったほうが帰りが早いからこのまま第五島まで行くぞ!」
墓地以外は魔物が出ないので、すぐに最後の島へ渡る橋にたどり着いた。
「あれが最後の島ですか」
その石造りの橋の先には、他の島とは全く違う島が見えた。海岸はなく波打ち際が断崖で、まるで巨大な岩のような見た目をしていた。
「あの島は周りが断崖絶壁で、中はすり鉢状になってるんだ。そして転送魔法陣は、あそこにある」
リアーロが指を差した先は、橋の中間地点だった。そこは、橋の幅が太くなっていて中心に魔法陣があった。
「さて帰ろうか」
断崖絶壁を見上げるポラに声をかけるとリアーろは橋を渡りはじめる。それに続いてポラとクーを抱えたムンナが後に続く。
こうして、一行は帰路についたのだった。
◆
ダンジョン素材採取教本 第2巻
著者ポラ、監修リアーロ
目次
第10項 スケルトンの魔骨……40
初級 高魔力の部位……………41
中級 骨粉に加工………………42
上級 魔肥料玉…………………43
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