FILE27 みんながいる「世界」

 オリバーは、これ以上ないほど怒りくるっていた。


 いつも優しげな顔をしている彼とは、まるで別人みたいだ。いじめっ子からタリーを守っていた時のあのきびしい表情よりも、さらに顔がけわしくなっていた。


「この野郎‼」


 そうえた彼は、ブラックメン2号になぐりかかった。


「チッ! このクソガキが!」


 まさか子供がエイリアンをかばって攻撃してくるとは思っていなかったのか、ブラックメン2号はあわてて光線銃をかまえ、ビームをった。


 でも、地球人のオリバーには何の意味もない。ビームはオリバーの体をすりぬけ、消えていった。


「女の子を化け物って呼ぶな! 失礼だろ!」


 そう叫びながらオリバーは飛びかかり、ブラックメン2号の顔を殴った。


「バカか貴様は? あいつらはエイリアンなんだぞ? 不思議な能力や乗り物を使う怪物なんだ。わけのわからないヤツらを地球でのさばらせておくのは、われわれ地球人にとって非常に危険なことなんだぞ!」


 ブラックメン2号はそうわめき、オリバーをり飛ばす。でも、オリバーはくじけずにすぐ立ち上がり、またいどみかかった。


 何度も殴られ、蹴られ、それでもオリバーは立ち――涙を流しながら吠えた。


「わけがわからなかったら、やっつけてもいいのかよ! 相手の悪いところばかり見て、いいところは探さなくていいのかよ⁉

 オレは、学校の先生や大人たちから『人の個性をリスペクト尊敬する気持ちを持てば、いろんな国のいろんな人と仲良くなれる』って教わったぜ?

 それなのに、あんたら大人は、子供にそんなことを言っておいて、だれかをいじめてばかりじゃないか! 差別してばかりじゃないか! 大人のあんたらがそんなふうだから、子供たちもマネしちゃうんだよ!

 そのせいで、オレの可愛い妹が学校でいじめられる! ナナミみたいな心の優しい子が、みんなに仲間外れにされて、『わたしはダメダメな女の子だ』ってかんちがいしてしまう!

 オレはくやしい! 悲しい! 納得できない! 彼女たちが何をした⁉ なぜ彼女たちの素敵な個性をリスペクト尊敬しようとしないんだよ‼」


「しつこいぞ、クソガキ‼」


 ブラックメン2号は右腕を大きく振り上げ、オリバーを思いきり殴ろうとした。「やめて!」と叫びながら、タリーが2号にしがみつく。


「邪魔だ、小娘! どけ!」


「がぶ~~~っ‼」


「いてぇーーー⁉ こいつ、オレの手をみやがった!」


「ふーんだ! ナナミをいじめるヤツは、絶対に許さないんだから! あたしは、世界中の人が敵に回ってもナナミの友達だもん! なんてったって、あたしたちアメリカ先住民にはスターピープルこそが先祖だっていう伝承があるんだもんね! 『ミタケ・オアシンわたしに関わるすべてに祝福を』! あたしは、ナナミとの出会いを心の底から祝福しているんだ! ナナミと友達になれて、本当に良かったって思ってるんだ! 友達をイジメるな、バカーーーっ‼」


 た、タリーまで……。


 そういえば、タリーから教わったミタケ・オアシン――ひとつひとつの運命の出会いを祝福し、大切にする――ってどこかで聞いた言葉だと思っていたけど、プレアデス・クイーン……つまり前世のわたしがひいおじいちゃんに言った言葉と同じだったんだ。


 もしかしたら、クイーンは、大昔にタリーのご先祖様たちと何らかの交流があって、その時にひいおじいちゃんに言ったことと同じ言葉を彼らに伝えていたのかも。そして、タリーたちの世代までちゃんと受けがれていたんだ。


 わたしとタリーが友達になったのて、本当に運命的だったんだ。


「み、みんなぁー! くそぉ~、はなせよこの野郎! 事情がぜんぜんわからないけど、ナナミを連れて行くなんて許さないぞ! ナナミは、ボクたちロズウェル・ユニオンのメンバーなんだ! スターピープルだろうが、地球人だろうが、そんなの関係あるかよ! 一緒に冒険をした仲間なんだ! ロズウェル・ユニオンの友情をなめんな!」


 アンドレも、ブラックメン1号の拘束こうそくから何とか逃れようと、必死にあがいている。


 み、みんな……。

 わたしなんかのためにそこまで……。


「ナナミ。これでもまだ、『わたしはダメダメな女の子なんだ』って、自分を否定するのかい? あんなふうに想ってくれる仲間が3人もいるのに」


 アロが、苦しげな声でわたしにささやく。


「たしかに、君は前の学校でとても辛い目にあった。君を理解しようとしないヤツらに、押しつぶされそうになった。

 ……でも、世界のすべてが君を否定するはずがないんだ。君を傷つけるヤツらだけが、君の住む世界にいるわけじゃない。ちゃんと目を開いて、あたりを見回せば、いるんだ。君の心強い仲間が。君は、ひとりぼっちじゃないんだ。救いようのないダメダメなヤツなわけ、あるものか。

 本当にダメダメなヤツというのは――人を傷つけて、屈伏くっぷくさせて、平気で笑っている卑怯者ひきょうもののことを言うんだ」


「アロ……」


 わたしは、自分をいじめたおおぜいの人たちがいる地球のためには戦えないと思っていた。わたしを傷つける人たちのことばかり考えていた。


 ……自分を愛してくれる大切な仲間のことを、ネガティブ思考のわたしはすっかり忘れていたんだ。


 傷つけられた過去と完全に決別することは、たぶん難しいと思う。

 給食のパンの中にあった石をんでしまった時の痛みを、わたしは絶対に忘れられない。


 わたしは、わたしを苦しめた「世界」が、好きになれない。でも……。


 今のわたしには、オリバーがいる。タリーがいる。アンドレがいる。わたしのことをちゃんとわかってくれるロズウェル・ユニオンの仲間たちがいるんだ。


 この出会いは、きっと運命だ。わたしはみんなとの出会いを大切にしたい。みんながいるこの「世界」を守りたい。

 

 そのためなら、恐くてもがんばれる……!


「わたしの仲間をイジメないで‼」


 わたしは両手をかざし、両目をピンクに光らせた。


 オリバーとタリーの首根っこをつかまえていたブラックメン2号が、わたしの念動力サイコキネシスで遠くへ吹っ飛ぶ。


「ぐはぁぁぁ⁉」


「うわっ、こっちに来るな……うげぇぇぇ⁉」


 飛ばされた2号の体は1号にぶつかり、2人のブラックメンは折り重なってたおれた。その直前に1号から逃れたアンドレは、ずり落ちたメガネを直しながら走り、わたしたちと合流した。


 2号の巨体を何とかどけて起き上がった1号が、「ば……バカな……」と声をわななかせてつぶやく。


「光線銃をくらって、あのエイリアンは平気だというのか⁉」


「当たり前だ、地球人。あんなのでプレアデス・クイーンをたおせるはずがない。彼女をたおせるのは、このオレだけだ」


「だ、だれだ⁉」


 ブラックメンたちがそう叫んで振り返ると、彼らの背後に1匹のコヨーテがいた。


 コヨーテ……?

 あっ、マイター・キングが化けてるんだ!


 わたしがそう直感した通り、コヨーテは赤いフードをかぶった鉄仮面の男に変身した。


「地球人。その宇宙船のカケラとエンジンキーはオレの物だ。早く返せ」


「こ、コヨーテが人間に変身しただと⁉ さては貴様もエイリアン……」


だまれ。つべこべ言わずに渡すんだ。オレは、地球侵略をもくろむプレアデス・クイーンをたおすために戦っている正義のスターピープルだ。おまえたちのために戦ってやっているのだから、さっさとソレをよこせ」


 マイター・キングは、頭ごなしにそう命令する。一瞬、ピカピカッと目が赤く光るのが見えた。すると――。


「お……おお! あなたは、オレたち地球人の味方だったのか!」


「だったら、これはあなたに返そう! お願いだ、あの凶暴なエイリアンの女から地球を守ってくれ!」


 う、ウソ……。


 なんで、そんな簡単に信じちゃうの?


 あんなあっさりと、地球を守ってくれるスターピープルだと信用するなんて、おかしいじゃん……。


「くそっ。あれは、マイター・キングお得意のマインドコントロールだ。相手を洗脳して、自分の言いなりの人形にする恐ろしい力なんだ。あるていどの力を持ったスターピープルなら洗脳はきかないが、超能力に対して無力な地球人ならば一度に20人はあやつることができる」


「ええ⁉ じゃあ、トレイシー・トゥルーさんも、あの洗脳パワーであいつのことを正義の味方だと信じ込まされていたというわけ⁉ 亡くなるまでの62年間、ずっと洗脳され続けていただなんて……ひどすぎるよ!」


 心の優しいタリーが、涙ぐみながらそう叫ぶ。


 マイター・キングはハハハハと笑い、


「だまされるほうが、バカなのさ」


 と、ものすごく残酷ざんこくな声で言った。


 な……なんてヤツ。人の心をもてあそぶなんて、許せないよ!


 ――さてと、これで地球侵略に必要な物がそろった。プレアデス・クイーンよ、おまえはまだピュア・イーグルを見つけていないのだろ? ならば、この勝負はオレの勝ちだな。わが宇宙船を75年ぶりに復活させ、3日以内にこの惑星を滅ぼしてやる。


 わたしの脳内に、マイター・キングのメッセージが流れてくる。


 それは、まぎれもない宣戦せんせん布告ふこくだった。


「黒服の君たちにも、地球を守る手伝いをさせてやろう。オレについて来い」


「わかりました!」


「正義のスターピープル、バンザイ!」


「あっ! ま……待ちなさい!」


 わたしが超能力で止めようと手をかざすと、キングは炎の矢をわたしに飛ばしてきた。


 う、うひゃぁ~⁉ 不意打ちだったから、光の壁を作れない!


 わたしはあわてて身をひるがえし、炎の矢をかわす。スカートのすそがちょっとだけ焦げてしまった。


「こ……この……!」


 わたしはもう一度手をかざす。でも、次の瞬間には、キングとブラックメン2人の姿は、わたしたちの前から消えていた。


瞬間移動テレポーテーション……⁉」


「ヤツはその能力を持っていない。ただ、ヤツは自分や手下を何にでも変身させられる能力を持っているから、透明人間にでもなって逃げたのかも知れない」


 アロが、そう教えてくれた。


 すると、アンドレが悔しそうに首を振り、「見失ってしまったのならどうしようもないな。あのブラックメンたち、近くに車をとめていたから、今ごろそれに乗って遠くまで逃げているはずだ」と言った。


「透明人間って……わたしがずっとなりたかった職業(?)なのに‼」


 おどろきのあまり、わたしは思わずそう叫ぶ。


 アロはクールな顔を若干じゃっかんゆがめ、「ナナミ……」とあきれたような声を出した。


「アホなことを言っていないで、大急ぎで君の宇宙船を見つけ出すんだ。マイター・キングは、おそらく短時間で、アメリカ軍が回収・保管している自分の船を取り戻す。ヤツの強力な宇宙船に対抗できるのは、プレアデス・クイーンの船ピュア・イーグルしかない」


「でも、マイター・キングは、船のカケラとエンジンキーしかないのに、どうやって宇宙船をアメリカ軍からうばい返すの?」


「その説明はあとだ。とにかく、いったんナナミの家に戻ろう。作戦会議をするんだ」

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