FILE30 ニューメキシコの荒野

 ロズウェルの町は、突然たれこめ始めた分厚い雨雲におおわれていた。


 雲の上では、マイター・キングの船フューアーファイター火の戦闘機とセレポ星人たちの船サンダーウォリアー雷の戦士がにらみ合っている。


 ――町に攻撃はさせないぞ、マイター・キング。ナナミが船を取り戻すまではボクたちが相手だ。


 アロがテレパシーを飛ばし、キングに勝負を申しこむ。


 キングはニヤリと笑い、


 ――いいだろう。だが、もうすぐオレの手下どもの船がけつけるぞ。それまでに、クイーンは自分の船を見つけ出せるかな?


 と、アロを挑発した。


 ――ボクは、ナナミとその仲間たちを信じている。


 ――クックックッ。おまえたちセレポ星人は、クイーンに負けないぐらいお人好しだな。……無駄話むだばなしはここまでだ。『マイター帝国』の首領しゅりょう、マイター・キングが相手になってやる。さあ、来い!


 キングが高らかにそう名乗った。


 スターピープル同士が宇宙船で決戦をする時は、おたがいの組織の名前と船の艦長の名前を名乗るのが宇宙での作法なのである。


 つまり、プレアデス・クイーンのグループに所属しているアロも名乗らなければいけなかった。


「……なあ、アロ。どうする?」


「われわれの組織名って、たしか『プレアデス・クイーンと愉快ゆかいな仲間たち♡』だったよな?」


「かっこ悪すぎて、名乗りたくない……」


 アロの後ろにいるセレポ星人たちが、もじもじしながらそう言う。


(しまったなぁ~。「ボクたちの組織名ダサすぎるから、変えて」ってナナミに言うのすっかり忘れてた。どうしよう……)


 アロは悩んだ挙句あげく、「まあ、後でナナミたちに許可をとればいいか。彼らのグループ名を使わせてもらおう。ボクたちだって、彼らの仲間なんだし」とつぶやき、マイター・キングにこう名乗るのであった。


 ――わが名は、宇宙の平和を守る『ロズウェル・ユニオン』のメンバー、アロ・セレポ! いざ、尋常じんじょうに勝負!









 わたしたちは、宇宙船ピュア・イーグルを求めて、トゥインクルの運転でロズウェルの北西を目指していた。


「とりあえず、この砂漠の荒野を突っ走ればいいのよね?」


「あっ、もうちょい右に行ってくれるかな。ジャンプから『目的地カラ、ソレテキテルゾ。右ダ、右』って通信が入ったから(メガネ、クイッ)」


 助手席に座るアンドレが、小型の通信機を左耳にあてながら、トゥインクルに指示を出す。


 ドローンモードのジャンプは、ひいおじいちゃんが描いた地図の写真をアンドレによってインストールされている。わたしたちの真上を飛んで、目的地からそれそうになったら注意してくれているのだ。


 ……ん? 急に雨が降ってきたよ?


「うひゃぁ! 土砂降どしゃぶりだ! 雷こわーい‼」


 後部座席の真ん中に座っているタリーが、左右の席のわたしとオリバーの手をにぎって叫ぶ。


「ジャンプ! いったん車に戻れ。雷に打たれたら大変だ」


 アンドレが通信機でジャンプに命令した。


 本当にすごい雷雨だ。タリーだけじゃなく、アンドレの頭と左右の肩に乗っているチュパカブラたちも、「ちゅぱ~……」と鳴きながらおびえている。


「まずいな。トゥインクルの中古の車で目的地まで行けるか怪しくなってきたぞ……」


「トゥインクルって言うな! あと、中古車って言うな! これ、おじいちゃんからゆずってもらった歴史ある名車なんだぞ!」


 トゥインクルがプンスカ怒ったけど、オリバーの心配はもっともだった。


 ただでさえ、岩だらけの険しい荒野なのだ。道と言える道もない。大雨で地面の砂がぐしゃぐしゃになったら、車の走行は非常に困難になるはずだ。


 とか思っていたら……。


「うげっ! 車がぬかるみにはまった!」


 案の定、車がストップしてしまい、オリバーが叫んだ。


「わ、わたしに任せて!」


 わたしは車から飛び降り、ぬかるみにはまったタイヤに手をかざした。


 ……アロが言ってた。パワーアップした今のわたしなら、ちゃんと集中したら炭酸ジュース無しでも力を上手に使いこなせるって。


念動力サイコキネシス‼」


 ぐごごごごーーーっ‼


 やった! 車を浮かすことに成功した!


「あ、アンビリバボー信じられない!」


 トゥインクルがビックリ仰天ぎょうてんする。あっ、トゥインクルは初めて見たんだっけ、わたしの力。


 でも、トゥインクルだったらわたしたちの味方だし、大丈夫だよね。


「すごいよ、ナナミ。ありがとう!」


「ナナミ、カッコイイ!」


 オリバーとタリーも車から降りて来て、わたしをハグしてくれた。


「あ、あわわ。2人とも恥ずかしいよぉ~。えへへ……」








 嵐の中、荒野を駆けぬけることおよそ1時間半。


 そろそろ、目的の巨岩(に化けているプレアデス・クイーンの船)がある場所の周辺に着いたはずなんだけど……。


「豪雨のせいでまわりの景色がぜんぜん見えないし、ジャンプを空に飛ばすこともできない‼ しまったぁ~、雨が降った時のことをうっかり想定し忘れていた‼ なんてこった~‼」


 アンドレが頭を抱えてそう叫んだ。

 ……そういえば、アンドレって、ふだんは頼れる参謀だから忘れがちだけど、うっかり屋さんだったんだよね……。


 いったい、どうすればいいの?


「あれ? ナナミ、胸のあたりが何か光ってるよ?」


 困り果てていると、タリーがそう言いながらわたしの胸元を指差した。


 ほえ? な、何なの、このピンク色の光は。


 あっ、ひいおじいちゃんからもらったわしの翼のペンダントが光っているんだ……!


 わたしが首にかけていたペンダントを手のひらにのせてよく見ると、ピンクの宝石がピコピコと点滅していた。その点滅は、強くなったり、弱くなったりしている。


「それはUFOを動かすためのエンジンキーなんだろ? つまり、そのペンダントの光が強くなればなるほど、UFOに近づいている……ということにならないか?」


 オリバーが鋭い指摘をして、わたしとタリーは「なるほど!」とうなずいた。


「トゥインクル! あっちの方向に車を走らせて! 光がどんどん強くなってる!」


「だーかーらー! トゥインクルキラキラって呼ぶなーっ!」


 トゥインクルはわたしにそう怒鳴りながら、車を疾走しっそうさせた。








「あっ! きっとあれだよ! でーーーっかい岩がある!」


 タリーが前方を指差す。


 岩……というか、巨大な怪獣がうずくまって眠っているような、圧倒的あっとうてきな大きさだ。


「ここで本当にいいの? あれのどこがUFOなのさ」


 ただの自然風景にしか見えないトゥインクルが、うたがわしげに首をひねる。


 すると、アンドレが「たぶん、ここでビンゴだよ」と言いながら車の右側を指差した。


「見てごらん。あそこに、マイター・キングがボクたちを妨害ぼうがいするために送りこんだ番犬がいる」


「え? ……あっ! メン・イン・ブラック‼ そうだった、あの人たちキングにあやつられているんだった!」


 わたしが叫んだ直後、ブラックメンたちが光線銃をってきた。


 あれをくらったら、まずい!


 わたしはとっさに手をかざし、虹色に輝く光の壁を作った。


 ビームは、光の壁を貫通かんつうすることができず、消滅する。


 ブラックメンたちの「な、何だと⁉」とおどろく声が聞こえた。


「あいつら、またナナミをいじめる気だな! 許せない!」


「落ち着いて、オリバー! 今はあいつらとケンカしている場合じゃないよ! あれを見て!」


 タリーがオリバーをなだめ、車の左側の窓を指差した。


「あれは……UFO⁉ しかも、1つや2つじゃない! UFOの大艦隊だいかんたいだ!」


 驚きのあまり、わたしの声が裏返る。


 雲の切れ間にチラリと見えたUFOの影が5、6機。


 黒雲の下を低空飛行しているUFOも7、8機ほどある。


 円盤型や葉巻型、三角型、球体型、ドーナツ型、ひし型など、バリエーション豊富なUFOたちがロズウェルの町の方角を目指して飛んでいた。


 雲に隠れて見えないけれど、きっと目に見えている2倍……ううん、3倍の数はあるにちがいない。


「もしかして、マイター・キングの手下のスターピープルたちか⁉」


 アンドレがそう叫ぶ。


「たぶん、そうだよ! 早くアロを助けに行かなきゃ!」


 タリーの言う通りだ。あんなUFOの大軍、アロのUFOだけじゃ勝てっこない。


「みんな、早くUFOを動かそう! ……あれ? でも、ちょっと待って? 今ふと気づいたんだけど、UFOの動かし方とか知らないのに、わたし、どうやってアロを助けに行くの?」


 アロは「いずれプレアデス・クイーンとしての記憶を取り戻す」とか言っていたけど、今のわたしは前世の記憶とかまったく覚えていないし……。


 ダメじゃん! UFO動かせないじゃん!


 ああ~! わたしってばポンコツだから、アロにUFOの運転の仕方とかぜんぜん聞いてなかったよー! わたしのバカーっ!


 ポンコツ! ポンコツ!

 ポンコツ! ポンコツ!


 わたしは、半泣きになりながら自分の頭をたたいた。


「ナナミ、落ち着いて? すぐにくよくよしちゃうのは君のよくないクセだよ。大丈夫、オレたち仲間がついているんだから」


「お、オリバー……」


 オリバーにギュッと手を握られて、パニックになりかけていたわたしは冷静さを取り戻した。オリバーの手、いつも思うけどあたたかくて安心する……。


 タリーも、わたしとオリバーにそっと手を重ねて、


「失敗したら、何がダメだったのかみんなで考えればいいんだよ。これは、ナナミだけのチャレンジじゃない。あたしたち仲間で挑むチャレンジなんだもん」


 と、優しい声ではげましてくれた。


「そ……そうだ。ナナミは1人じゃない。やってみよう、一緒に。ぐ……ぐお~、手が届かない~!」


 助手席のアンドレが必死に手を伸ばすけれど、後部座席のわたしたちに届かなくて涙目になっている。


 わたしたちは笑いながら、体を前にかがめてアンドレとも手を重ね合わせた。


 じ、じ~ん……。これが、友情パワー……!


「ねー、君たち? あそこの黒ずくめのおじさんたちが、ものすごい形相ぎょうそうでこっちに向かって走って来てるわよ? そんなのん気なことをやっていて、いいの?」


「はにゃにゃ⁉ すっかり、自分たちの世界に入っちゃってた!」


「あんたたちは、ちゃっちゃとUFOを動かしなさいな。わたしは、このワンちゃんたちを使って、おじさんたちと遊んでるから」


「え? トゥインクル1人で大丈夫⁉」


トゥインクルキラキラ言うなっつーの‼ ……あのおじさんたちなんでしょ、わたしの可愛い弟分のオリバーをボコボコにしたのって。元ベビーシッターのお姉さんとしては、弟をイジメた悪者にきっちり落とし前をつけてやりたいのよ」


 ベキボキと拳を鳴らしながら、トゥインクルは車から降りた。さすがは、オリバーとタリーの姉貴分なだけのことはある。


「よっしゃ! ワンちゃんたち、戦闘モードとかいうのになりなさい!」


「ぢゅばぁぁぁーーーっ‼」


 トゥインクルが命令すると、可愛い3匹の子犬(?)たちは、鋭い牙を生やした大型犬サイズに変化した。


「うおっ⁉ あんたら劇的に変わるわね⁉ ……じゃあ、なんか適当に炎でも吐け‼」


 いや、そんな大ざっぱな命令を出しても……。


 ビリビリビリーッ‼


「うぎゃ~‼ しびれるぅ~‼」


 ええーっ⁉ 炎じゃないけど口から小さな雷を出したーーーっ⁉


 雷が直撃したブラックメン1号は完全にノックアウト!


「みんな、今のうちに走るんだ!」


 オリバーの号令と同時に、わたしたちは「イエッサーりょうかい!」と叫びながら雨の中を走り出す。


 今日は動きやすい服に着替えるひまもなく緊急出動したから、朝からはいていたスカートのままだ。全速力で走りにくい。ドジなわたしは、ぬかるんだ地面で何度も転びそうになった。でも、オリバーがしっかりとわたしの腕を握ってくれていたおかげで、何とかこけずにすんだ。


「待て! 逃がさないぞ、悪のエイリアンめ!」


「コラー! 人ニ銃ヲ向ケルナ! オ仕置キダ!」


 ウサギモードのジャンプが、ブラックメン2号のお腹に強烈きょうれつなタックルをくらわせた。


 2号は「ぐべぇ⁉」と叫び、たおれる。


 さらに、チュパカブラたちの雷攻撃をくらい、気絶してしまった。


「よーし。このおじさんたちをどこか遠くにポイしてきなさい!」


 トゥインクルがそう言うと、チュパカブラたちはブラックメンの2人をサッカーボールみたいにゲシゲシりながら転がしていった。どこまで行くつもりなのかはわからない。


 ブラックメンたちが撃退げきたいされたころには、わたしたちは巨岩――プレアデス・クイーンの船の真下にたどりついていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る