FILE31 ピュア・イーグル

「え~と……。とりあえず、わたしの念動力サイコキネシスでみんなの体を浮かせて、岩の頂上にのぼってみました」


 タリーが「もしかしたら、頂上に起動スイッチがあるかも!」と言ったから、試しにのぼってみたんだけど……それらしい物はないみたい。


 さて困った。次にどうしよう。


「お、おい! ロズウェルの町の方角を見てみろよ!」


 アンドレが急に大きな声を上げ、南東の空を指差した。


 たくさんの雷がピカピカ光っているように見える。……いや、ちがう。あれは――。


「アロがマイター・キングのUFO艦隊かんたいと戦っているんだ!」


 オリバーが緊張した声でそう叫ぶ。


「アロがやられたら、町のみんなが危ないよ! ママやお義父とうさんも……」


 タリーは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「急いで、岩に化けている宇宙船を再起動させなきゃ。でも、どうしたら……」


 わたしは、手のひらの上のペンダントを見つめながら、そうつぶやいた。


「ねえ、ナナミ。君の家で作戦会議中に、アロはこんなことを言っていなかったかい? たしか……『スターピープルがエンジンキーを媒介ばいかいにして船のカケラにエネルギーを注入すれば、バラバラになった船も一瞬で修復しゅうふくできる』って」


 オリバーが、何か思いついたのか、わたしにそう言った。


「うん……。『マイター・キングはエンジンキーのその能力を使って、アメリカ軍が隠し持っている自分の宇宙船を取り戻すはずだ』とも言っていたね」


「エンジンキーがあれば、そんなミラクルを起こせるんだ。だったら、ナナミが持っているエンジンキーでもできるんじゃない? 岩山に突き刺して、『船よ、動け!』と念じながらエネルギーを注ぎこんでみたらどうだろう」


「おおっ、なるほど。それは、やってみる価値がありそうだな」


 アンドレがオリバーの意見に賛成し、タリーもうんうんとうなずく。


「たしかに、こわれた宇宙船を修理するやり方と同じようにしたら、眠っている宇宙船も再起動させられるかも……。よし、やってみるよ!」


 意を決したわたしは、わしの翼のペンダントを天高くかざした。


 アロは、宇宙船に乗りこんで戦いに出向く直前、このペンダントをステッキに変形させていた。たぶん、宇宙船を動かす時は、これをステッキに変えて操縦そうじゅうするのだと思う。


 だったら、わたしもステッキに変えてみよう!


「むにににぃ~‼ ステッキに変わってーっ‼」


 わたしは顔を真っ赤にして、強く強く念じた。


 バチバチ! バチバチ!


 頭の中で激しい電流が流れる。く、来る……!


 ピカーーーッ!


 ペンダントは、神々しいオーラを放ち、ピンクのステッキへと姿を変えていく。


 ステッキのデザインは、それぞれの船のエンジンキーによってちがうらしい。わたしのステッキの装飾はアロみたいな水晶玉ではなく、大きな鷲の羽飾りだった。かぎの形になっているステッキの下の部分には、ピンク色の宝石がはめこまれている。


「ワーオ! ナナミも姿が変わっちゃった!」


「ナナミ、可愛い!」


 オリバーが感嘆かんたんの声をあげ、タリーがはしゃぎながらわたしに手鏡を渡してくれた。


「これが、わたしの……プレアデス・クイーンの真の姿……」


 頭に燦然さんぜんと輝く小さな王冠。

 純白のドレス。

 風にひるがえる真紅のマント。

「ザ・女王様」といった感じの衣装だった。


 体にも、大きな変化がある。

 元から長かったわたしの髪は、信じられないほど長くながーく伸びていた。たぶん、わたしの身長よりも1.5倍ほど長い。あまりにもいきおいよく伸びたため、髪をまとめていたシュシュのゴムがぶちっと破れてしまった。しかも、髪の色は光沢こうたくのある桜色へと変色していた。


 瞳の色も変わっている。青い瞳の中にオレンジが少し混ざっていて、まるで地球アースの海と陸を思わせるような色合い――アースアイの瞳だった。


「は、はにゃにゃ! こんな目立つ姿で、9月からアメリカの学校に通うの嫌だよぉ~! みんなにいじめられちゃう!」


「めっちゃ威厳いげんのある見た目なのに、中身はあんまり変わってない……」


 オリバーたちがあきれた顔をしながら、そうつぶやく。


 え、ええと……コホン。気を取り直して、今からUFOを再起動させるね!


「て……てりゃ~!」


 わたしはステッキの鍵になっている部分を足元の岩に突き刺した。そして、「船よ、動け!」と念じる。


 バチバチ! バチバチ!


 再び頭の中で電流が流れだした。でも……。


「何も起きない……」


「おかしいな。なんでだろう?」


 オリバーが首をひねる。


 みんながしばらく考えこんだ後、ロズウェル・ユニオンの参謀であるアンドレが、メガネをクイッとさせてこう言いだした。


「ナナミはまだプレアデス・クイーンとして完全には目覚めていないから、一人でこの船を起動させるのは難しいのかも知れない。だったら、ボクたちも手伝おう」


「でも、あたしたち超能力使えないよ?」


「これは、ボクの推測なんだが……。ナナミは超能力を発動させる時、脳内で電流が流れるそうだな?」


「え? うん」


「実は、ボクたち地球人も、何か行動したり考えたりする時、脳が微弱びじゃくな電気を発して、細胞同士で情報伝達をしているんだ。脳の電気信号を受信して動く義手とかも、実際に作られている」


「そうなの⁉ 脳ってすごい……」


「脳は、いまだに未知の部分が多い。スターピープルたちは、そんな脳の未知の部分をうまく引き出して、強力な超能力を使っているのかも知れない。だから、地球人のボクたちだって、脳に流れる電気信号を意識しながら念じたら、ナナミの100分の1ぐらいの力は出せるかも」


「なるほど! その100分の1の力と、オレたちの友情パワーを足せば、絶対に成功するはずだな!」


 オリバーが指をパチンと鳴らし、元気よくわたしの手に自分の手を重ねた。


「よ~し! あたしもやるよ! あたしはスターピープルの末裔まつえいだもん! 50分の1ぐらいの力は出してやる!」


 タリーも、わたしの手をガシッとつかむ。


「やろうぜ、みんな。チャレンジしなきゃ、何も始まらない。Yes we can‼」


 最後に、アンドレがわたしたちと手を重ねる。


 アンドレの理論が正しいのかどうかわからないけれど……。


 でも、なんでだろう。みんながこうやって手をにぎってくれていたら、わたしにも根拠こんきょのない自信がわいてきたような気がする。


 いつもネガティブなわたしが、今だけはポジティブになれている。


 ロズウェル・ユニオンの仲間たちとなら、きっと何だってできる……!


「みんなで気合いを入れる時の合言葉を決めよう。そのほうが、オレたちの心がひとつになりやすい」


「オリバー、それナイスアイディア! だったら、運命的な出会いをしたあたしたちにふわさしいあの言葉にしようよ」


「それが一番いいみたいだな(メガネ、クイッ)」


「みんな……いくよ? いっせーの……」



 ミ タ ケ オ ア シ ンわたしに関わるすべてに祝福を ‼



 わたしたちは力の限り叫んだ。そして――。


 ズ……ズゴゴゴゴ‼


「はにゃにゃ⁉ 岩がれ始めた‼」


「あたしたちの足元が光ってる!」


「岩肌が銀色にり変わっていくぜ!」


「たぶん、本来の姿に戻りつつあるんだ(メガネ、クイッ)」


 こ……これは……!


 UFOが、いつわりのベールを脱ぎ捨て、真の姿をあらわした。


 銀色に輝くボディはアロの船と同じだ。


 一番の特徴は、鷲が雄々しく翼を広げているような2つの巨大な翼。


 船の前の部分はくちばしのように鋭くとがり、赤い両目が光っている。


 船尾せんびは鳥のしっぽみたいで、7つのライトが虹色の輝きを放っていた。


 わたしは「空飛ぶ円盤というより、超巨大な鷲って感じだね。でも、とっても美しい……」とつぶやいていた。


「あたしたちアメリカ先住民は、鷲は神様にもっとも近い存在だと信じてるの。たぶん、プレアデス・クイーンの宇宙船と地球の鷲には、何らかの関係があるんだよ」


「そのなぞは、ナナミが成長してプレアデス・クイーンの記憶を取り戻したら、わかるはずさ。さあ、船に乗りこもう」


 オリバーにそう言われて、わたしは「うん」とうなずく。


 すると、わたしたちの足元に白く輝くサークルが出現して、わたしたちをのみこんだ。


「い、一瞬で不思議な部屋にワープした⁉ ここって、宇宙船の中?」


「たぶん、船の持ち主であるナナミが『船の中に入りたい』と念じたから、船が入れてくれたんだろうな(メガネ、クイッ)」


 つまり、この銀色の壁に囲まれた円形の部屋が操縦室ってこと?


 操縦するための機器とか、何もないみたいだけど。


 というか、外の景色すら見えない。いったい、どうしたら……。


 うん? わたしの足元に、鍵穴かぎあなみたいなくぼみがあるぞ? エンジンキーの鍵の形とピッタリ合いそうな……。


「ここにステッキを差しこんで操縦するのかも。試しにやってみよう。えいっ! ……うわっ⁉ 急に壁が消えて、外の景色が見えるようになった!」


 どういうシステムなのかわからないけど、360度の全方位すべて見える。天井や床も透明になって、死角はいっさい無いみたい。


『プレアデス・クイーン。お待ちしていました。ワタシはこの船のサポートAI、ピュアです。早速、呪文を唱えて船を起動させてください』


 船内に、機械的な女性の声がひびいた。


「AIつきの宇宙船だって⁉ く……くわしく調べたいから、後でこの船を解体させてくれ‼」


 だ、ダメだってば、アンドレ……。


「あの……ピュア、だっけ? 呪文って、つまりパスワードだよね? わたし、まだ前世の記憶が戻っていないから、わかんないの」


『そういう時のために、クイーンはエンジンキーにご自分の記憶の一部を閉じこめています。エンジンキーを握って強く念じれば、あるていどの船の動かし方はわかるはずです』


 え? そうなの? 前世のわたし、ナイス!


 よ、よ~し。エンジンキーちゃん、パスワードを教えてちょーだい! ふぬぬぬ~!


 ビビビビッ! チーーーン!


 ハッ⁉ ほんの一瞬だけど、マイター・キングの宇宙船と戦っている75年前の自分の姿がビジョン映像で見えたような気がする……。


 たしか、あの日も、わたしはUFOを動かすためにこう唱えていたはず……。


「宇宙の大いなる神秘プレアデス・クイーンが命じる‼ 起動せよ、ピュア・イーグル汚れなき鷲‼」


 わたしは、高らかにそう叫んだ。


 その直後――巨大な機体が、大いなる翼を広げて浮上を始めたのである。


「飛べ! ピュア・イーグル!」


「あっ。あたしたち、トゥインクルをひろっていくの忘れてる」


「ほえ? ……あーーーっ! しまったぁー! と、止まれ、ピュア・イーグル!」


『すみません、もう飛行を開始してしまいました』


「うわぁ~ん! 後でトゥインクルに怒られるぅ~!」


 わたしが泣きわめくと、地上から「トゥインクルキラキラじゃなくてオードリー・ヘップバーンって呼べぇ~!」という怒鳴り声が聞こえたような気がした。


 じ……地獄耳……。

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