FILE32 カレイドスコープ

 ピュア・イーグルは、超猛スピードで飛翔ひしょうした。


「うひゃー! すごく速い!」


『クイーン。ロズウェル上空に到着しました』


「え、もう⁉ たった1秒で着いたの⁉」


 わたしがおどろいている横で、オリバーが「ピュア。スターピープルたちの艦隊戦かんたいせんはどういう状況じょうきょうだ?」と聞く。


『ご覧の通り、マイター帝国軍の圧倒的有利です。味方の船は、ふくろだたきになっています』


「あ、アロ……!」


 船内から映し出される映像を見ると、100せき近い宇宙船がアロの船を包囲していた。


 アロは地球にいた仲間のスターピープルに救援を頼んだらしく、アロと一緒に戦っているUFOも15隻ほどある。でも、数はマイター・キング側のほうが多く、じりじりと追いつめられているようだった。


「アメリカ軍の戦闘機も出撃しゅつげきしてきたみたいだぞ!」


 アンドレが指差した方角を見ると、20機ほどの戦闘機が雨雲を突きぬけてやって来て、UFOに手あたり次第攻撃をしかけていた。


「アメリカ軍も、自分の国の上空でUFOたちが星間戦争スターウォーズをやっていたら、だまっていられないもんな……。でも、攻撃はぜんぜんきいていないみたいだ」


 オリバーが心配そうに言う。マイター・キングにち落とされなかったらいいけど……。


 プレアデス・クイーン

 マイター・キング

 アメリカ軍

 ロズウェルの町をおおう分厚い雨雲の上で、三つどもえの戦いが始まってしまった。


「わたしは戦争がやりたくて宇宙船を手に入れたんじゃない。争いを止めたいのに……どうしよう」


 わたしたそうつぶやくと、わたしの頭にアロのテレパシーが伝わってきた。


 ――ようやく来てくれたね。


 ――アロ! 遅れてごめん!


 ――キングのヤツが、君の船に気づいたようだ。ピュア・イーグルに総攻撃をかけてくるだろうから、気をつけてくれ。V字型の宇宙船が、キングの船フューアーファイターだ。


 ――ねえ、アロ。このまま戦争をしなきゃいけないの? キングの暴力に、わたしも暴力でやり返さなきゃダメなの? なぐられて殴り返しても、傷つく人が増えていく一方だよ。


 ――……前世の君は、敵側のスターピープルを少しずつ説得して、宇宙平和を実現させようとしていたと父から聞いている。ボクも、話し合ったらわかってくれるスターピープルは少なからずいると考えている。しかし、今この場の戦いを終わらせるには、ピュア・イーグルの秘密能力を発動させるしかないだろう。200年生きていた父ですら話にしか聞いたことがないその秘密能力は、とてつもない奇跡を起こすらしい。今の君にできるかどうか……。


 ――ピュア・イーグルの秘密能力? それでこの争いを止められるのなら、わたしチャレンジしてみる! だって、チャレンジしなきゃ、自分を変えていくことはできないもん!


 ――へぇ~。ずいぶんと成長したじゃないか。よし、やってみな。方法は君の船のサポートAIが教えてくれるはずだ。ボクは、マイター帝国どもが君の邪魔をしないように時間稼ぎをしてあげるよ。


 アロとのテレパシー通信を終えたわたしは、ピュアに「ピュア・イーグルの秘密能力って何?」と聞いた。


 ピュアからその能力の内容を教えられたわたしは、


「そんな魔法みたいなこと、できるの⁉」


 とおどろいた。


『はい、可能です。ただし、この秘密能力は多用すると宇宙に時空のゆがみを発生させかねないため、プレアデス・クイーンは500年に一度しか使わないと決めていました。507年前に一度使っているので、現在は使用可能です』


「そ、それって、かなり危険な大技なんじゃ……。わたしだけならまだしも、オリバーたちまで危ない目にあわないかな……」


「オレたちは平気さ。やってみよう、ナナミ。君と出会ってからビックリするような事件が起きてばかりだから、さらにビックリなことが起きても、オレたちはぜんぜん驚かないよ」


 オリバーがウィンクをしながら、わたしをはげます。


 そう……だよね。わたしも、ここまで来たらもう迷っちゃダメだ。オリバーたちの町を守るためにも、全力でがんばらなきゃ。


「今から、エンジンキーにパワーをそそぎこみます! みんな、さっきみたいに手伝って!」


イエッサーりょうかい!」


 みんなが、再びわたしの手をにぎってくれた。


 ……行くよ? みんなでエンジンキーにパワー注入‼



 ミタケ・オアシン‼



『ピピピ……。能力発動まであと3分……』


 ピュアがカウントダウンを開始した。


 ピュア・イーグルのボディが、ぽわぁ……と虹色のオーラを発し始める。


 ――クイーン! 戦場にあらわれて1分もたたないうちに、あの反則技を使う気か⁉ ふざけるな、オレとマジメに戦え!


 キングの怒りの声がテレパシーでわたしの脳に伝わって来る。


 め、めっちゃ怒ってる……。まあ、反則技といえば反則技だし、怒っても仕方ないか。


「ナナミ! V字型の宇宙船が、20機ぐらいの船をしたがえてこっちに飛んで来るよ!」


 敵艦てきかんの接近にいち早く気づいたタリーが、そう叫ぶ


「V字型の船……キングのフューアーファイターだ! エネルギーためてる時に攻撃してこないでよぉ~!」


 わたしがあわあわあわてていると、アロの宇宙船サンダーウォーリアーが船底から雷を飛ばし、キングの船たちに攻撃をしてくれた。


 雷撃らいげきをまともにくらい、10機ほどがダメージを受けて後方に退く。


 アロは残りの10機にも雷を飛ばそうとする。

 しかし、その時、アメリカ軍の戦闘機がサンダーウォーリアーにミサイルを撃ってきた。ボディは平気だったけど、船がわずかにれる。そのせいで、アロの攻撃はねらいが外れ、敵にかわされてしまった。


 雷撃を回避かいひした敵機たちが、ピュア・イーグルにビームを飛ばしてくる!


 ズガガガガーーーン‼


「はにゃにゃ! まともにくらっちゃった!」


『ご安心を。損傷率そんしょうりつは0%です』


「ほえ~。ピュア・イーグルって、ものすごく頑丈がんじょうなんだね」


『当たり前です。この船は、プレアデス・クイーンの専用機なのですから。有象無象うぞうむぞうの宇宙船の攻撃など、かわす必要もありません』


 ピュアがほこらしそうに自慢した。


 ――おのれ、クイーン! 調子に乗るなよ!


 今度は、マイター・キングの船フューアーファイターが、炎のオーラを身にまといながら突撃してきた。


 ブーメランみたいに機体をぐるんぐるんと激しく回転させ(キング、目が回らないの?)、船ごと体当たりをしてくる。


 サンダーウォーリアーがまた雷を飛ばして、その攻撃を妨害ぼうがいしようとしてくれたけれど、燃え盛るブーメランと化したフューアーファイターは、雷撃を受けてもへっちゃらのようだ。そのまま、スピードを上げてこちらに突っこんで来る。


「何かすごそうな技だけど……これもかわさなくて平気なんだよね? エネルギー注入に集中、集中♪」


『えっ、ちょ……』


 ドッガーーーーーーン‼


 バキ、ベキ、ボキ~~~‼


「ぎゃーーー⁉ 船の左翼さよくがポッキリとれたぁ~⁉」


『なぜ回避しなかったのです! アホですか!』


「ピュアがかわさなくてもいいってナナミに言うから……」


 パニックになっているわたしにかわり、タリーがそう文句を言う。


『フューアーファイターは、ピュア・イーグルにも大ダメージをあたえられる攻撃特化型こうげきとっかがたの恐ろしい船なのです! あの船の攻撃だけはかわしてください!』


「かわしたくても、左翼が折れて船のコントロールが……」


『エンジンキーに、船を修復しゅうふくせよ、と命じてください。そうすれば、粉々こなごなになった船のカケラは飛んで戻り、約3秒で完全修復できます』


「あっ、そうか。アロが教えてくれた船の修復機能か。よーし……。船を直してぇ~!」


 わたしが念じると、地上へと落下しつつあった船のカケラたちは、銀色の輝きを放ちながら飛来して、


 ガチャガチャ、ガチャーン!


 と、あっという間に元の翼の形になった。


『能力発動まであと1分です』


 よ、よし! あともうちょいだ!


 ――させるかー! 手下たちよ、ピュア・イーグルだけに攻撃をしぼれ!


 キングは手下のスターピープルたちに命令して、ピュア・イーグルに攻撃を集中させた。


 四方八方から飛んで来るビームを、わたしはピュア・イーグルの大きな翼でペシン、ペシーンとはじき返していく。


 アメリカ軍の戦闘機までこっちに寄って来て、わたしに攻撃を始めていた。アメリカ軍はどっちが敵で味方とか区別がつかないから、がむしゃらにUFOを追いはらおうとしているのだろう。


 ――ねえ、マイター・キング。惑星侵略なんてバカなことはやめて、話し合おうよ。あなたは何を手に入れたくて、征服者せいふくしゃになんかなったの? 力で人をねじふせても、あなたは孤独なんじゃない? 対等な仲間がいないなんて、絶対にさびしいと思う。


 ――だまれ、平和ボケ女王! ……なぜこのオレが鉄仮面で顔を隠しているかわかるか? 他人に自分の心を読まれないためだ。この世界で、自分以外に信用できる者などいない。他者は、自分と少しちがった者がいたら、傷つけ、迫害はくがいし、仲間外れにする。オレは、そんな息苦しい世界が大嫌いなのだ。だから、オレは全宇宙の惑星を支配する王となると決めた。オレが全宇宙の民たちを手下にすれば、オレはもうだれからも傷つけられない。仲間など、いるものか!


 ――……事情はよくわからないけど、あなたも昔だれかにいじめられたことがあるのね。あなたみたいになる前に、わたしは大切な仲間たちと出会えたからよかったけど……。もう終わりにしましょう、マイター・キング。傷つけ合っても、悲しい思い出が増えるだけだよ。


 ――うるさい! クイーン、オレと勝負しろ‼


 フューアーファイターが、再び炎のブーメランとなって突撃してくる。


 でも、もう遅い。エネルギー注入は終わった。


『ピコーン! 能力発動が可能になりました!』


「よし……。みんな、やるね?」


 わたしは、オリバー、タリー、アンドレの顔を順番に見る。みんなは、笑顔でコクンとうなずいてくれた。


 わたしはエンジンキーをぐいっと前に押し出し、こう叫ぶ。



カレイドスコープ万華鏡‼」



 呪文がとなえられると、ピュア・イーグルが放っていた虹色のオーラは大爆発を起こしたように弾け、上は空、下は雲を赤や、黄、青、緑、紫、水色、オレンジ……など様々な色で染め上げていった。まるで、この世界が万華鏡まんげきょうの中に閉じこめられたかのように、見渡す限りカラフルな景色となった。


 ――う、うわー⁉ 赤い空間の中に吸いこまれていくー!


 ――何だ、これは⁉ 青い空間に船がのみこまれる……!


 スターピープルたちの悲鳴が、わたしの脳に伝わってくる。


 アメリカ軍の戦闘機たちも、様々な色の空間に吸いこまれていった。


 プレアデス・クイーンの秘儀ひぎのひとつ、カレイドスコープ。

 戦闘中の敵を強制的に生まれ故郷に送り返してしまう大技だ。


 ――チクショウ! こんな小手先のやり方でオレの野望を阻止そしできると思うなよ‼ クイーン、次こそはおまえを……。


 最後までねばっていたマイター・キングの怒声も、途中とちゅうで聞こえなくなった。フューアーファイターが、紫の空間にのみこまれたのだ。


 アメリカ軍の兵隊さんたちは、自分の出身地に飛行機ごと戻っちゃうだけ。


 スターピープルたちは、どんなに遠く離れた星でも、故郷の星に強制帰還きょうせいきかん。たぶん、当分は戻って来られないはず。


 でも……いつかは、侵略者たちは地球に再びやって来る。


 今度は、500年に一度の大技カレイドスコープは使えない。マイター・キングが地球に戻ってくるまでに、わたしがもっと強くならないと――。

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