FILE33 ナナミ

 戦いの後、ウソみたいに雨がやみ、ロズウェルは青空を取り戻した。


 わたしたちは、ピュア・イーグルを操作して、帰りをずっと待っていたトゥインクルを迎えに行った。置き去りにしたことをめちゃくちゃ怒られましたです。はい……。


 ブラックメンたちは、荒野のど真ん中でまだ気絶していた。アロの話によると、チュパカブラの電撃ビームには異星人に関する記憶をぜんぶ消す力があるらしい。だから、彼らがアメリカ政府にわたしのことを報告する心配はないみたい。


 その後、「ピュア・イーグルをどこに隠そう?」ということが問題になった。こんな巨大なUFOを家の庭にしまっておくことは無理だからだ。


『仕方ありません。またカモフラージュ機能で岩山に化けて、次の出動があるまでニューメキシコの荒野で待機していましょう』


「悪いね、ピュア。……あっ。だったら、船の部品カケラをわたしが1枚だけ持っているよ。そうすれば、アロから教わった船の呼び出し機能が使えるし」


『たしかに、クイーンがエンジンキーと船の部品カケラを1枚持っていたら、どんな遠い場所からでもこの船を呼び出すことはできます。でも、カモフラージュ機能は、船の部品カケラの1つでも欠けていると使えないのです』


「え? つまり、岩山に化けている間は遠くから呼び出せないってこと? 高性能なUFOなんだから、そこらへんもうちょっと何とかならなかったのかなぁ~……」


『宇宙船を隠す基地の1つも持っていない甲斐性かいしょうなしの女王に言われたくはありませんね』


「す、すみません……」


 サポートAIに嫌味を言われてしまった……。

 だって、わたし中学生だもん。秘密基地とか持っているわけないじゃん……。


 その後、わたしは前よりもロズウェルの町にできるだけ近い地点にピュア・イーグルを隠し、トゥインクルの車でみんなと家に帰ったのだった。








「21世紀のロズウェル大事件」から3日たった。


 テレビは、ロズウェルの上空にUFOの大艦隊だいかんたいがあらわれたことを報道するニュースばかり流れていた。


 その日、町は豪雨で、雷鳴がものすごかった(雲の上でUFOたちがビームをち合う音も混ざっていたと思うけど)。

 だから、多くの人は家に閉じこもっていて、住民のだれもがUFOをはっきりと目撃できたわけではないらしい。


 ただ、軍の戦闘機が雨雲に向かってビュンビュン飛んでいくのを窓から見たという人は少なからずいた。


 そして、雲の切れ間から見えた謎の虹色の輝きや、複数のUFOを撮影することに成功した人も……。


「ロズウェルの上空を飛行中だったパイロットが、気がついたら遠く離れたワシントン州の自分の故郷に着陸していた……という怪事件が起きています。

 このような事例が、他にも同日にロズウェルで発生しているようです。彼らがどんな任務にんむにあたっていたのかは、パイロットたちは黙秘もくひしており、政府もまだ明かしていませんが、3日前のロズウェルでのUFOさわぎと無関係ではないでしょう」


 リビングで、お父さんが「そんなバナナ……」とつぶやきながらテレビを観ている。


「その日、UFOの大艦隊と戦っていたのはわたしだよ」なんて、お父さんには当分言えそうにないなぁ……。まだ信じてないっぽいし。


 わたしは苦笑しながら、ひいおじいちゃんの腰に湿布しっぷをはってあげた。


「とほほ。まだ腰が痛いわい。来週からヨーロッパへ取材に行く予定なのに……」


「ひいおじいちゃんにはまだまだ長生きしてほしいから、あんまり無理しないでね」


 わたしはひいおじいちゃんにそう言うと、2階の自分の部屋に戻った。


「髪とか目、普通に戻ってよかったよ。ピンクの髪で学校に行くのは抵抗あるもん」


 自分の黒髪をいじりながら、わたしは部屋のドアを開ける。


「やっほ~。ナナミ、窓開けて」


「お、オリバー⁉」


 オリバーが、窓の外で手を振っていた。

 家の横にある木をよじのぼって、バルコニーに飛び移ったらしい。


 危ないことをするなぁと思いつつ、わたしの心臓はドキドキしていた。窓から王子様が入ってくるのって、とてもロマンチックだもん。


 わたしが窓を開けると、オリバーはテヘヘと悪戯いたずらっぽく笑いながら中に入って来た。


「急にどうしたの?」


「うん。ナナミにこれを渡したくて」


 オリバーはそう言い、わたしの首に手を回してペンダントをかけてくれた。


 これは……わしの翼のペンダントだ。

 ピュア・イーグルのエンジンキーとそっくり。

 エンジンキーのほうはピンクの宝石だったけれど、こっちは青く輝く石みたいだ。


「タリーのお母さんがアクセサリーショップをやっていてね。エンジンキーによく似たペンダントがないか探したら、ラッキーなことにあったんだ。ちょうど、5年前に埋めた貯金箱が手元に戻ってきたし、今の手持ちの小遣こづかいと合わせて、ナナミのために買ったんだけど……気に入ってくれた?」


 オリバーがちょっと心配そうにわたしの顔をのぞく。


「男の子からプレゼントをもらったのなんて初めてだから、とってもうれしい……。でも、どうしてエンジンキーと似たデザインを選んだの?」


「エンジンキーのピンク色の宝石は、プレアデス・クイーンを象徴しょうちょうしている。一方、オレがおくったペンダントの青い石は、地球さ」


「地球……。そういえば、青く美しい水の惑星みたいだね」


「君がもしもプレアデス・クイーンとしての使命に押しつぶされそうになった時は、その青い石を見て思い出してほしいんだ。君は宇宙の平和を守る女王であると同時に、ボクたちの仲間である地球人の女の子だということを。辛いことがあっても、オレたちロズウェル・ユニオンのメンバーがいる。何があっても絶対にオレたちが力になるから、1人でかかえこまないでくれ。

 ……ええと、君にそう伝えたくてここに来たんだけど……。な、ナナミ? もしかして、泣いてる? オレ、何か気に入らないこと言っちゃった?」


「う……ううん。オリバーの優しさが、うれしくて。ありがとう、オリバー。実はちょっと悩んでいたの。マイター・キングが言っていたように、わたしは小手先こてさきの方法でしかスターピープルたちの戦いを止めることができなかった。次にキングがあらわれる前に、平和的に宇宙戦争を止める方法を考えなきゃ……ってもんもんと考えていたの」


「ナナミ……」


 オリバーは、いつものようにポンポンとわたしの頭を優しくなでてくれた。


「宇宙の平和なんて、君1人で守る必要ない。オレたちみんなで、何とかしよう。オレたちは仲間じゃないか。ロズウェル・ユニオンの友情で、宇宙の平和を守ろうぜ」


「……そうだったよね。わたしはもう1人じゃなかったんだ。わたしには、オリバーたちがいるんだもん。助けてほしい時は、ちゃんと言うよ」


 オリバーの熱い視線を感じて、わたしたちは見つめ合う。そして――。


「やあ、クイーン。取りこみ中みたいだけど、ちょっといいかい?」


「ふえ⁉ あ、アロ⁉」


 いつの間にか、わたしのベッドに灰色グレイの髪の少年が座っていて、わたしとオリバーはギョッとおどろいた。


「悪いね。オリバーがナナミのほっぺたに顔を近づけようとしていたから、ちょっと待とうと思ったんだけど、目の前でチューされるのはボクも気恥きはずかしいからさぁ」


「もー! 何やってるのさ、アロ! あたしたちは決定的瞬間を見たかったのに~!」


「キスまであと一歩だったのに、残念だな」


 げーーーっ! タリーとアンドレまでバルコニーにいる~!


「そ、そそそれで、アロは何の用事でナナミの部屋に来たんだ?」


 オリバーが珍しく動揺どうようしながら、話題をそらした。


 わたしは恥ずかしさMAXで頭が沸騰中ふっとうちゅう……。


「あー、うん。報告が遅れたんだけどさ。君たちの仲良しチームに、ボクたちクイーン派のスターピープルも加わることにしたんだ。これからよろしくね」


「ええ⁉ スターピープルたちがロズウェル・ユニオンのメンバーに⁉」


 これには、わたしたち4人全員がおどろいた。


「マイター・キングは必ず戻って来る。勇気ある地球の少年少女の君たちとボクたちスターピープルが結束して戦わなければ、ヤツには勝てない。なんてったって、君たちはプレアデス・クイーンの力の源だからね。共に宇宙の平和を守ろう、ロズウェル・ユニオンの諸君」


 アロはベッドから立ち上がり、オリバーに手を差し出す。


「……オーケー! でも、二度とオレとナナミがいいムードになっている時に邪魔しないでくれ」


 オリバーがアロの手をにぎり、タリーとアンドレも手を重ねる。そして、みんなが笑顔でわたしに視線をそそいだ。


 ……こうやって、笑い合って協力しあえる仲間ができるなんて、本当に信じられない。


 わたしは、この運命の出会いに感謝したい。ミタケ・オアシン。わたしに関わるすべてに祝福を。


「ロズウェル・ユニオンの友情は無敵だもんね! みんなで、がんばろう!」


 そう明るく言いながら、わたしはみんなの手に自分の手をそえる。わたしの胸の上では、2つのペンダントがピンクとブルーの輝きを放っていた――。




 わたしの名前はすばる七美ななみ

 宇宙の大いなる神秘プレアデス・クイーンの生まれ変わり。

 だけど、中身はポンコツな普通の女の子。

 この町ロズウェルで、仲間たちと元気に冒険しながら、宇宙の平和を守ってみせます!

                                     


   



         

                 了

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ロズウェル☆ユニオン 青星明良 @naduki-akira

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