チビッ子でとんでもなくがんばり屋さんのヒロイン桜子が、困難を乗り越えていくのが可愛らしく微笑ましいです。
意地っ張りな許嫁の妹菜々子の心を溶かしてしまう、お日様のような桜子。そんな桜子でも歯が立たないほど心を閉ざしてしまっている許嫁。彼の心を開くことはできるのか? 桜子の頑張りをみてください。
面白おかしいエピソードの笑いがありまくりーの、かと思えばスペイン風邪で家族をなくしていたというシリアスな設定があったりと、起伏に富んだお話で、子どもから大人まで楽しめると思います。
背景になっている大正時代の様子もすごくよくわかって、面白くて勉強になる作品です。
年の差カップルならぬ、身長差カップル。
長身とおチビさんの凸凹コンビというのは、昔から見栄えがするので数多いですが、本作は単なる見栄えだけでなく、実際の「大正時代の身長データ」から資料を引っ張り出して、人物像の外見に「裏付け」を持たせています。
この一点だけでも、すでに小説の「厚み」が違いますね。
とにかく、舞台背景・人物設定が徹底しています。
時代考証も凄まじいです。大正時代の街並み、世俗、道徳観など、丹念に書き込まれた描写の数々が、作品世界の説得力に花を添えています。
まさに大正時代が花やいで見えるのです。タイトルに偽りなし。
当時あった飛び級制度で東京へ進学、という基本設定からして巧い。この時代だからこそ書ける妙味です。
そこで出会った許嫁・柳一や小姑・菜々子、学校の同級生など、さまざまな人間関係に悩まされるヒロイン桜子。
現代モノだと陳腐な展開ですが、大正時代だと新鮮なのです。
当時の恋愛観や男女観が、現代と異なる障害を生み、軋轢を生み、王道なのに斬新な読み味を与えてくれる……これには舌を巻きました。
ふだん少女漫画や児童小説を読み慣れている女子小学生も、本作に新味を感じるでしょう。
往年の名作に『はいからさんが通る』がありますが、本作は平成の『はいからさん』だと言えます。
子供向け恋愛なのに、緻密な取材力のおかげで、大人の鑑賞にも耐えうる作品力。親子そろって読書できる……児童小説のお手本ではないでしょうか。