FILE29 ロズウェル・ユニオン、出動

 わたしの家の地下室――。


「え? 何? どーいうこと? ナナミが宇宙人の女王様で、侵略者が地球をねらっていて、そいつをやっつけるためにはナナミの宇宙船を見つけ出さないといけない⁉ ……ごめん、言っている意味がわかんない」


 指でこめかみを押さえ、トゥインクルはそう言った。頭痛がするらしい。


 わたしたちは、トゥインクルの力を借りたくて、うちの家に呼び出した。

 そして、オリバーが早口でこれまでのいきさつを説明したんだけど……。


 たしかに、ワケワカメなことばかりだから頭が混乱しちゃうよね。簡単に受け入れてもらえるはずがない。


「タリー。SF小説を読まないわたしにもわかるように、簡潔かんけつに説明してよ」


「ざっくり言うと、あたしたちがピンチだから助けてほしいの」


「なるほど。あんたたちが困ってるのね。うん、わかった」


 簡単に受け入れちゃった……。


「えっと……。話の内容をほぼ理解していないのに、いいの? 危険なんだよ?」


「まあ、元ベビーシッターのお姉さんだからね。オリバーとタリーが困ってるなら、犯罪以外は何でも力になるよ」


 トゥインクルは、あっけらかんとわたしにそう答えた。このお姉さん、やっぱりいい人だなぁ~。


「すまんのぉ、トゥインクルキラキラちゃん。ワシがぎっくり腰になったせいで、この子たちを宇宙船がある場所まで車で連れて行ってやれんのじゃよ。ナナミの瞬間移動テレポーテーションはどこにジャンプするかわからんし、アロのパワーでは遠くまで飛べないうえに1日数回しか瞬間移動テレポーテーションが使えないらしいのじゃ。だから、あんたの車で連れて行ってやってくれ」


 ちなみに、最初はアロが「ボクのUFOで運んであげるよ」と言ってくれたけど、「プレアデス・クイーンの船を探すためにニューメキシコの荒野を低空飛行でうろちょろしていたら、UFOを警戒しているアメリカ軍に見つかるからダメじゃ!」とひいおじいちゃんが怒ったため、却下きゃっかとなった。


「よくわかんないけど、わかった。でも、UFOじいさん。ひとつだけいい?」


「ん? 何じゃ?」


「前から何度も言っているけれど、わたしのことはオードリー・ヘップバーンって呼ん……」


「それでじゃな、トゥインクルキラキラちゃん。これを見てくれ」


 ひいおじいちゃんは、トゥインクルのやたらとこだわるオードリー・ヘップバーン呼びの要求をスルーし、ビリヤード台の上にニューメキシコ州の地図を広げた。


「ワシの記憶では、巨岩に化けたプレアデス・クイーンのUFOが眠っているのは、だいたいここらへんじゃ。ほれ、ここの赤丸でかこったところ」


「……これ、丸が大きくてざっくりすぎない?」


 わたしが文句を言うと、ひいおじいちゃんは「だ、だって、75年も前のことだから記憶が曖昧あいまいなんだもん……」と半泣きになった。


「ボクのジャンプを連れて行けば、大丈夫さ。ドローンモードで、空の上から怪しい巨岩を探そう」


「アンドレ、ナイスアイディアだ! 早速行こう!」


 ロズウェル・ユニオンのリーダー格であるオリバーが出撃しゅつげきの号令を出すと、わたしたちは腰を浮かせかけた。


 でも、その時――突然、アロが緊張した声でこう告げた。


「……ナナミ。ロズウェル上空の宇宙船内で待機している仲間のセレポ星人たちが、テレパシーで重大な情報を伝えてきた。どうやら、マイター・キングが自分の船を取り戻したようだ。しかも、テレパシーで自分の手下たちを呼んだらしい。侵略の最初のターゲットは――ここロズウェルだ」


 わたしたちは「ええ⁉」とおどろきの声を上げた。

 そんな中、トゥインクルだけはのん気そうに「そーいえば、このイケメンだれ?」とつぶやいている。


「ど、どうすればいいの?」


「ボクは、君が宇宙船を見つけるまで、ボクの船サンダーウォーリアー雷の戦士でキングと戦って時間かせぎをする。この町に被害がおよばないように努力はしてみるが、キングの船フューアーファイター火の戦闘機は宇宙最強クラスの強さをほこる。対抗できるのは、プレアデス・クイーンの船ピュア・イーグルしかない。なるべく早く、船を発見してくれ」


 アロはそう言うと、ズボンのポケットにしまっていたペンダントを取り出した。


 雷がモチーフのペンダント……。

 もしかして、UFOのエンジンキー⁉


「はぁぁぁ‼」


 アロが鋭い声で叫ぶ。すると、雷のペンダントにはめこまれていた黄色の宝石がピカーッと光り、ペンダントは銀に輝くステッキに早変わりしていた。


 ステッキの上の部分には水晶玉があって、水晶玉の中では小さい雷たちがバチバチと青白く発光している。下の部分はかぎみたいな形をしていた。


「……ていうか、アロ! その姿は⁉」


 エンジンキーが変形したのとほぼ同時に、アロの姿も変わっていた。


 灰色グレイの肌。大きな頭。そして、アーモンド型の黒い目……。地球人たちが一般的に「エイリアン」と認識している、グレイタイプのエイリアンそのものだったのだ!


 あっ、いちおう言っておくと、はだかじゃありません。ピッチリとした銀色のスーツ(セレポ星人の宇宙服?)を着ています。


「セレポ星人もいちおう低レベルの変身能力があってね。これが本来の姿で、ボクは地球人の10代前半の少年と20代半ばの青年……2種類の姿に変身が可能なんだ。……君たち地球人には、やっぱり不気味に映るかな?」


「そんなこと、ぜんぜんないよ‼ めっちゃ、かっちょいい‼」


 スターピープル大好きなタリーが、大喜びしてはしゃぐ。


 オリバーも「やっぱり、スターピープルはグレイタイプだよな!」と興奮こうふんして、アンドレは「あとでサインしてくれ‼」と懇願こんがんしていた。


 ひいおじいちゃんは「へ、変身じゃと⁉ ふおおお! 小説のネタがわいてきたぞーい!」と何かメモしていた。


 唯一ゆいいつ、トゥインクルだけは「すごい! 一瞬でコスプレしたよ、このイケメン!」とよくわかっていないみたいだった。


 わたしは、ちょっと面食らっている様子のアロにニコリとほほ笑みかけた。


「うふふ。大丈夫みたいだよ? なんてったって、ロズウェル・ユニオンのみんなは不思議大好きな悪ガキたちだもん」


「フフッ。そのようだね。彼らは本当に頼もしい仲間だ。……じゃあ、行って来る。君たちの護衛ごえいにボクのペットたちをつけるから、役立ててくれ」


 アロはそう言い、わたしたちの前からフッと消えた。それと同時に、


「チュパチュパ~!」


 ダークグリーンの子犬……もといチュパカブラたち3匹がポン! とあらわれて、わたしとオリバー、タリーの頭に乗っかった。


 すごく可愛いけれど、この子たち戦闘モードになると……。


「アロは仲間がいるUFOに戻ったようじゃな。おまえたちも、早く行くんじゃ。セレポ星人だけでは、マイター・キングには勝てんぞ。帰りが遅くなっても、おまえたちの親には何とか適当に言いつくろっておいてやるから、心配するな」


「うん、わかった。……ひいおじいちゃん。わたし、ポンコツな女の子だけど、がんばってみるよ。マイター・キングに、わたしの大事な仲間たちがいるこの世界をこわされたくないもん」


「ナナミ……。う、うおおおーーーん! おまえが何者であっても、ナナミはワシの可愛いひ孫であることには変わりないぞぉ~!」


「ひ、ひいおじいちゃん、ぐるじい……」


「い、いてて⁉ ま、また腰がぁ~!」


 ひいおじいちゃん、腰を痛めているのに急に抱きついてなんかくるから……。


「よーし! ナナミに抱きついているUFOじいさんを引きはがしたら出発だ。ロズウェル・ユニオン、地球の平和を守るために出動‼」


 オリバーが号令をかけると、タリーとアンドレが「イエッサーりょうかい!」と叫びながら、ひいおじいちゃんをわたしからちょっと雑に引き離した。


「いたたた⁉ こらー! 年寄りはもっと大切にあつかわんかー!」

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