FILE28 フューアーファイター
ナナミたちが家で作戦会議をしていたころ――。
マイター・キングは、ロズウェル北西の荒野にいた。
そばには、洗脳で手下にしたブラックメンの2人がいる。
「フン……いまいましい。記憶を取り戻していないプレアデス・クイーン相手に、意外と手こずってしまった。わが船を取り戻したら、すぐに手下のスターピープルたちに集結命令を出してやるぞ」
マイター・キングには、宇宙にたくさんの手下がいる。地球の各地にも、キング配下のスターピープルが人間のふりをして暮らしている。
彼らを呼び寄せて手伝わせたら、もっと簡単に宇宙船を取り戻すことができたはずだった。
しかし、キングは自分以外の者は絶対に信用しない主義である。たとえ手下でも、キングが宇宙船を自力で取り戻すことができないと知れば、
「75年も眠っていて、オレたちに宇宙侵略の仕事を任せっきりにしていたくせに。そんな頼りないリーダーは、もう裏切ってしまおう」
そう考えるヤツらがあらわれるだろう、と警戒していたのである。
だから、キングは、宇宙船をアメリカ軍から自力で奪い返し、その後で手下たちを地球侵略のために呼び寄せたかったのだ。
「マイター・キング、オレたちは何をすればいいのですか」
「何なりとご命令ください」
洗脳されているブラックメンたちが、マイター・キングに尊敬の
キングは赤い目を
「プレアデス・クイーンは、ヤツの宇宙船を回収するために、75年前に自分が墜落した場所へと向かうだろう。前世の記憶がなくても、彼女ならば必ず目的の場所にたどりつくはずだ。君たちは、クイーンが船を取り戻さないように、待ち伏せして
「宇宙船が隠されている場所とはどこですか?」
ブラックメン1号が質問すると、キングはテレパシーでビビビッと船の位置情報を伝えた。
「船の位置は、君の脳内に送った地図の情報の通りだ。75年前に自分の船が墜落した時、オレはすぐにその場を高速で
「わかりました!」
ブラックメン2人が自分たちの黒い車に乗って走り去ると、キングは空をキッとにらんだ。
そして、炎のペンダントを右手に、船のカケラを左手に持ち、天へとかざす。
「くわぁぁぁーーーっ‼」
キングの叫び声が、天と地を
その直後、ペンダントが
ステッキの上の部分では炎が赤々と燃えている。そして、下の部分は、
これが、マイター・キングの宇宙船を起動するエンジンキーの本来の姿なのである。
キングは船のカケラを空中に放り投げ、ステッキの鍵になっている部分で突き刺す。そして、ぐいっと
「宇宙の征服者マイター・キングが命じる。起動せよ、
船のカケラは、銀色に輝き――遠く離れた場所にある宇宙船の他のパーツを呼び寄せ始めた。
同時刻。
アメリカ・ネバタ州南部の半砂漠地帯。
この地には、アメリカ政府が2013年までその存在を公式には認めていなかった軍の秘密基地エリア51がある。
UFOマニアたちの間では、「ロズウェル事件で回収したUFOの残がいとエイリアンの死体は、最終的にここに輸送された」というウワサがまことしやかに流れていた。
その秘密基地の内部で、今まさに大事件が起きようとしていた。
「カーター博士。何をそんなに心配そうにしているのですか?」
助手の若い女性が、銀色の宇宙船を見上げているカーター博士にそうたずねていた。
カーター博士は、アメリカ軍から宇宙戦闘機の開発を任されている天才である。20年前に亡くなった父親もその開発に関わっていた。
これまでに、カーター博士と父は、ロズウェル事件で回収した宇宙船の残がいを調べ、その技術を取り入れてきた。おかげで、アメリカはアポロ計画で有人宇宙船を月へ降り立たせることに成功したのである。
だが、天才であるカーター博士がいくら頭をひねっても、エイリアンが乗っていた宇宙船のシステムや秘密をすべて解き明かすことは不可能だった。
そもそも、宇宙船のボディとなるこの『ロズウェルの聖杯』とは、どこで採取できる物質なのか?
アメリカ軍は、ロズウェル上空で戦闘におよんでいた2種類の宇宙船の残がいを回収した。敵味方同士ではあったが、どちらの宇宙船も同じ「銀色の
つまり、宇宙で活動するエイリアンたちには、
この、エイリアンたちの間ではありふれた物質である宇宙船の部品を地球人が手に入れることができない限り、エイリアンと
しかも、アメリカ軍が回収した2つの宇宙船のうち、セレポ星人というエイリアンが乗っていた船は、すでに軍の手元にはない。
ロズウェル事件直後、軍は生きたセレポ星人を
そして、その約1年後、別の基地に輸送されていたセレポ星人の船の残がいも、たった一晩で消え去っていたのである。おそらく、セレポ星人たちが何らかの方法で取り返したのだろう。
カーター博士は父とともに、最後に残された宇宙船(フォスター牧場で回収された、マイター・キングの宇宙船)の
父の死後にようやく完成させることができた……のだが、それは不完全な修復だった。
宇宙船のカケラが、1つだけ足りないのである。これでは、宇宙空間に飛び立つことができない。
いや、そもそもこの船には
「ワシは、結局、この船を動かすことができなかった。宇宙戦闘機を完成させられないまま、今日か明日には元の持ち主であるエイリアンに奪い返されるかも知れんのじゃ。それが
「エイリアンに奪い返される? どういうことです?」
「軍の上層部からさっき連絡があった。ロズウェルで複数のエイリアンが姿をあらわしたらしい。きっと、そのエイリアンの中にこの船の持ち主がいるはずだ。ヤツは、この船を取り戻すためにロズウェルに帰って来たのだろう」
「あはは。エイリアンがあらわれたのがロズウェルなら、そんなに心配いりませんよ。船は、遠く離れたこの秘密基地エリア51にあるんですからね」
「……いいや、ヤツらを甘く見てはいけない。彼らの力は、われわれの想像を絶するものがある。遠くにいても、宇宙船を取り戻す手段を持っているはずだ。たとえば――」
カーター博士がそう言った直後。
銀色の宇宙船が、突然、
「な……何だ⁉」
「ひ、ひゃあ~⁉」
カーター博士と助手が悲鳴を上げている間に、バラバラになったカケラたちはまぶしい輝きを放ち、基地の
その時間、わずか5秒。
たった5秒の間に、さっきまで目の前にあった巨大な宇宙船が分解して飛んで行ったのである。
「なるほど……な。エイリアンめ、してやられたわ」
場面戻って、ロズウェル北西の荒野。
「フハハハハ! ついに……ついに、わがフューアーファイターが戻って来たぞ!」
はるか遠くのネバタ州から光の速さで飛来した銀のカケラたちは、自分たちがどんな姿をしていたか完全に記憶していたかのごとく一瞬で合体し、ブーメランのような形をしたV字型の宇宙船になっていた。
この形状記憶合金で作られた宇宙船は、ひとつひとつのカケラたちが、
「自分はどこのパーツで、自分たちが合わさったらどんな形になるのか」
ということをインプットしているのだ。
船の持ち主であるスターピープルがエンジンキーにぼう大なエネルギーをこめて、たった1つのカケラにそれを注入すれば、たとえバラバラになっていても一瞬で修復できるし、遠く離れた場所にあっても自力で飛んで来るのである。
ただし、かなりのエネルギーを消費するため、スターピープルが弱っている時には宇宙船を起動させることはできない。もちろん、バラバラになったカケラたちを修復することもできない。
ロズウェル事件では、プレアデス・クイーンやマイター・キング、セレポ星人たちはみんな弱体化していたため、船を隠すか放置して逃げるか……それとも船の残がいごとアメリカ軍に捕まるか、といういずれかの運命をたどったのであった。
また、自分の宇宙船のカケラを1つも持っていないナナミは、この船の呼び出し方が今の段階ではできない。ニューメキシコ州の荒野に放置してある宇宙船を見つけ出す必要があった。
「クックックッ。わが船よ、75年ぶりだな」
マイター・キングは不気味に笑いつつ、炎のエンジンキーをかざした。
すると、船底に5つある赤いライトがピカピカ光り、キングの体を宇宙船の中へと吸いこんでいった。
「さて……。手下のスターピープルどもにテレパシーを送ったから、すぐに駆けつけることだろう。手始めに、ロズウェルの町を攻撃するか。フューアーファイター、
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