FILE17 逃走
ベッキーが「ココニ、ナニカアル」と反応した場所は、駐車場のすみっこにある老木の下だった。
ここに、UFOの残がいが眠っているかも知れない。
そう思ってドキドキしながら、わたしたちはシャベルで穴を掘った。そして、地中から出てきたのは――。
ブヒィ~。
「ほえ? これ……何?」
「ブタ……だね」
「うん。ブタの貯金箱のようだ(メガネ、クイッ)」
「ホワーイ⁉ どうして、こんなところに貯金箱が埋まってるの? すぐ目の前の銀行にお金を預けたらいいのに!」
うん。タリーに激しく同意だよ……。
わたし、オリバー、アンドレ、タリーは、しばらくの間、掘り起こしてしまったブタさんを見下ろしながらぼうぜんとしていた。
3分くらい時間が停止していたけれど、その
「思 い 出 し た ‼」
「うひゃぁ⁉ き、急に大声を出してどうしたの⁉」
タリーが両手で耳を
「これを埋めたのは、5年前のオレだよ。そうだった。オレ、ここにブタの貯金箱を埋めたんだった。すっかり忘れていたよ」
「なんでこんなところに埋めたの?」
わたしがそう聞くと、オリバーは「これは、ママの誕生日プレゼントを買うためのお金だったんだ」と言い、ブタの貯金箱を
オリバーのお父さんとタリーのお母さんが再婚したのは3年前だから……その「ママ」はオリバーの実のお母さんのことかな?
「オレ、病気で入院していたママのために、アクセサリーを買ってあげたかったんだ。ママは、安物の可愛いアクセサリーを集めるのが好きだったから。
でもさ、オレもまだ8歳のガキだったから、オモチャとかほしい物がたくさんあるだろ? うっかり自分のためにお小遣いを使っちゃいけないと思って、ママの誕生日が来るまでここに埋めておくことにしたんだよ。お金を預ける銀行の駐車場だからちょうどいいや、とか考えてね
……結局、ママは誕生日を迎える前に死んじゃったから、オレがこいつを掘り起こすことはなかったんだけどさ。あはは、すっかり忘れていたなぁ」
オリバーは、ブタさんの頭をそっとなでながら、しんみりとそう語る。
その切なそうな横顔を見つめながら、わたしは(この人はなんて優しい人なんだろう)としみじみと感じていた。
「う、う、う……。あたしにも似たようなことがあったから、昔を思い出しちゃった……」
義兄のオリバーと同じように実のお父さんを幼いころに亡くしたタリーが、ぐすんぐすんと泣いている。
「ハイハイ、イイ話デスネ~。ソレデ、オ宝探シハ、モウオシマイ?」
「イヤ~ン。ブサイクナ、ブタ、イラナーイ。金目ノモノ、オ宝、ドコォ~?」
「お……おまえら、ちょっと
ジャンプとベッキーが、しんみりとした空気をぶち
「すまない、オリバー。こいつら、人間の
「……いや、別にいいよ。それに、ジャンプとベッキーの言う通り、オレたちは宝探しの最中なんだ。もう一度、ベッキーに駐車場を調べてもらおう」
オリバーはブタの貯金箱を自分のリュックにしまいながら、そう言った。
さすがはロズウェル・ユニオンのリーダー格。ママとの思い出に
わたしがそんなふうに感心していると――突然、わたしのスマホがブルブルと
昨日買ってもらったばかりで、家と両親、ひいおじいちゃんのスマホの電話番号しか登録していないんだけど……だれからだろう?
スマホの画面を見ると、ひいおじいちゃんからだった。もう家に車で帰っている時分のはずだけど何かあったのかな、と思いながらわたしは電話に出た。
「はい、もしもし」
『思 い 出 し た ‼』
ひいおじいちゃんの大声が、わたしの右耳から左耳へとつきぬけ、わたしは「うひゃぁ⁉」と悲鳴をあげた。
「ひ……ひいおじいちゃん! 声、大きすぎ。もうちょっと音量をおさえてしゃべって。いったい何を思い出したの?」
『大事なことを、いま思い出したのじゃよ。おまえら、そこから早く戻って来い。そんなところに、「ロズウェルの聖杯」など埋まっとらんわい』
「ほえ? どういうこと?」
『そこの土地はな、大昔から銀行が建っておったのじゃ! アメリカの元軍人の家がそこにあったという事実なんて、ない!』
「……え? ほえええーーーっ⁉ な、なんで早く言ってくれなかったの⁉」
『だからぁ~、いま思い出したと言っておるじゃろ? やーっぱり、トーマス・チャップマンとかいうUFO研究家は信用ならんわい。あいつのブログはワシもたまに見ておるが、半分ぐらいはガセネタじゃからな』
「そ、そんなぁ~!」
わたしはひいおじいちゃんとの電話を終えると、オリバーたちにひいおじいちゃんが話してくれたことを急いで伝えた。
「が……が~~~ん!」
オリバー、タリー、アンドレは、激しくショックを受け、がっくりと肩を落とす。
「たしかに……チャップマンさんの取材活動はUFOじいさんに負けないぐらい精力的だけど、ウソの情報をつかまされることが多いみたいだからなぁ……」
チャップマンさんとお友達であるオリバーが、精神的に一番ダメージが大きいようで、顔がどよ~んとなっている。
しかも、不幸は立て続けにわたしたちにおそいかかったのだ。
わたしたちががっかりしていると、
「こらーっ! 君たち、そこで何をやっている! 銀行強盗か⁉ それとも、チュパカブラ
という怒鳴り声が
わたしたちが驚いて振り向くと、銀行の駐車場のはしにパトロールカーがとまっていた。
カウボーイハットをかぶった白人の中年男性が車からおりて、こちらに向かって走って来る。
「げっ、まずい! アンダーソン保安官だ! みんな、顔を保安官に見られないようにするんだ! 走って逃げるぞ!」
あの
しずか~に車を走らせる人だから、駐車する時も静かだったのだろう。まったく気づかなかった。
「て、
オリバーの合図とともに、わたしたちは全力で走り出した。ジャンプとベッキーも「マ、待ッテェ~!」と慌てながらついて来る。
「逃がさんぞ! オレは昔、陸上選手だったんだ!」
アンダーソン保安官は、
銀行の駐車場を飛び出して、ひいおじいちゃんが保安官に捕まったサンドウィッチ屋の近くまで来た時には、わたしたちと保安官の距離はかなり縮まっていた。
も……もうダメ! 走りすぎて、心臓が爆発するぅ~!
だ、だれか助けてーーーっ‼
――バカだなぁ。こういう時こそ、
わたしの脳に、ビビビッとテレパシーが伝わる。この声は……アロ⁉
そ、そうか、
「みんな! わたしにつかまって! 今から
わたしは、走りながら、リュックサックから2本目のコーラを取り出す。
「ナナミって、そんなこともできるの⁉
むぎゅっと、タリーが抱きつく。
ち、ちょっと! わたしにつかまってとは言ったけど、走りながら抱きついたらこけちゃうってば!
「ナナミ! 頼んだよ!」
「なるべく遠くへ飛んでくれ!」
オリバーとアンドレが、わたしの左右の肩をつかむ。
「オ助ケ! オ助ケ!」
ジャンプが、ピョンと飛んでわたしの頭に乗っかった。
「イヤ~ン! 置イテイカナイデ~! ワタシ、手ガナイカラ、ナナミヲツカメナ~イ!」
ベッキーが助けを求めていたので、アンドレが片手で拾いあげてあげた。
後ろからタリーが抱きつき、左肩にオリバー、右肩にアンドレ(+ベッキー)、そして頭の上にはジャンプ……。
お、重い!
転んじゃう前に
「ごく、ごく、ごく……。うぐっ……今日ずっと炭酸ジュースばかり飲んでいたからきもちわる……はにゃにゃにゃ! ひにゃにゃにゃ! ふにゃにゃにゃーん!」
「な、何⁉ 消えた……だと⁉ オレは幽霊でも追いかけていたのか⁉」
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