FILE18 宝石箱の中身

 ひとつ重大なことを忘れていた。


 わたしは、瞬間移動テレポーテーションでどこへ行くのか決められないのだ。


 そして、移動した先は、だいたいろくでもない場所だったりする。


「ぎゃーーー‼ エイリアンたちが乗った車にひかれるーーーっ‼」


 わたしたちが瞬間移動テレポーテーションしたのは、祭りのパレードのど真ん中。


 エイリアンにコスプレした人たちが、ピカピカ光るイルミネーションで飾った車に乗り、楽しそうに行進している。


 突如とつじょとしてあらわれたわたしたちは、その行進をさえぎるようなかたちになってしまった。


「いえーーーい‼」


「ヒャッホーーー‼」


「UFOフェスティバル、最高ーーーっ‼」


 車に乗っているエイリアン(のコスプレをしたみなさん)は、大騒おおさわぎしていて、目の前に出現したわたしたちに気づいていない。


 このままだと、わたしたちは車とぶつかってしまう。いくらスピードを出して走らせていなくても、非常に危険だ。


「み……みんなを守らなきゃ! もう一度、飛びます! ごくん、ごくん! ……おえっぷ」


 わたしは、コーラの残りを一気飲みした。


 お願い! 今度こそ、安全な場所に飛んで!


 はにゃにゃにゃ! ひにゃにゃにゃ! ふにゃにゃにゃーん!








 次に移動した先は、どこかの家の庭先だった。


「ヤバイ! また変なところに飛んじゃった! 不法侵入罪で捕まる前に逃げなきゃ!」


「待って、ナナミ。どうやらその心配はないみたいだ」


 わたしがあわてていると、オリバーが落ち着いた声でささやき、周囲をよく見るようにうながした。


 月明かりの下、わたしはキョロキョロとあたりを見回す。


 ……人気ひとけがなく、ち果てた家。雑草が生えたい放題で、ずっと手入れがされていない庭。ここは……もしかして空き家?


「だれも住んでいない家みたいだね。家族団らんでテレビを観ているところに瞬間移動テレポーテーションとかしなくて、ラッキー!」


 ついさっきとんでもないところに瞬間移動テレポーテーションしてしまったことはもう忘れたのか、タリーがのん気そうにそんなことを言う。


 ……でも、たしかに、よそ様の家の居間とかに飛んじゃう可能性もあったんだよね。今度から瞬間移動テレポーテーションを使う時は、もっと慎重にならないと。


「それにしても、どこまで飛んだんだろうな。まさか、別の町に瞬間移動テレポーテーションしちゃったとかは……」


「あっ、それはたぶんないと思うから安心して、アンドレ。わたしの瞬間移動テレポーテーションは、そんなメチャクチャ離れた場所には移動できないから。きっと、ロズウェルの町のどこかだよ」


 わたしがそう説明していると、ベッキーが「ピコーン! ピコーン!」と鳴き出した。


 え? 何? どうしたの?


「ココニ、ナニカアル! ココニ、ナニカアル!」


「ここに何かあるって……。昔この家に住んでいた子が埋めた、貯金箱とかじゃないのか?」


「貯金箱を土の中に埋める子供なんて、たぶんおまえぐらいだぜ、オリバー。どうせここは空き家なんだし、ちょっと掘ってみよう」


「でも、シャベルは銀行の駐車場に置いてきちゃったぞ?」


「そこらへんに園芸用のスコップぐらい転がってるだろう。ちょっと探して来る」


 アンドレはそう言うと、庭に落ちていたスコップを本当にひろってきた。


 こんな空き家の庭に『ロズウェルの聖杯』があるだなんて、だれも期待していたわけじゃない。でも、ここまで来て手ぶらで家に帰るのは、やっぱりくやしい。


 わたしやオリバー、タリーは、せっせと小さなスコップで穴を掘っているアンドレを止めようとはしなかった。


 そして、ここで見つけてしまったのだ。


 銀色に輝くUFOの残がい……『ロズウェルの聖杯』を。








「はひぃ~……。さすがにこんな小さなスコップで穴を掘るのは疲れるな」


「オレがかわるよ、アンドレ」


 アンドレからオリバーへ、タッチ交代。


 オリバーがさらに掘り続け、やがて地中からずいぶんと古びた宝石箱が出てきた。


「何だろう。指輪でも入っているのかな?」


 そうつぶやきながら、オリバーは宝石箱を開ける。


『ロズウェルの聖杯』のことなんて半ばあきらめかけていたわたしは、オリバーの整った横顔をぼへ~っとながめていたのだけど、彼の顔が見る見るうちに驚愕きょうがくの表情へと変わっていったため、


「どうしたの? その中に、UFOの残がいでも入っていた?」


 と、冗談まじりに言った。


「……かも知れない」


「ほえ?」


「これ、『ロズウェルの聖杯』かも知れない!」


 オリバーはそう叫びながら、宝石箱から銀色に輝くカケラを取り出して、わたしに見せた。


「アルミはくの銀紙っぽいこの見た目……。博物館で見たレプリカとそっくりかも」


 わたしがそう言った直後、オリバーはその銀紙を片手でくしゃくしゃに丸めた。


「ナナミ、手を出してみて」


「え? う、うん」


 言われるがまま、わたしは右手をオリバーの前に差し出す。


 オリバーは、くしゃくしゃになった銀紙をわたしの手のひらにそっとのせた。すると――。


「わ、わ、わ。何じゃこりゃ~⁉」


 わたしの手のひらの上で、くしゃくしゃだったソレが形を変えていく。こぼれ落ちた水銀が流れるように広がり、元の形へと戻っていく。


 数秒後には、完全に、くしゃくしゃにされる前の形に戻っていた。


「け……形状けいじょう記憶きおく合金ごうきん‼」


「『ロズウェルの聖杯』だよ、これ‼」


 アンドレとタリーが、ほぼ同時に叫んでいた。


「あ……アンドレ! ナイフとトンカチ、あとライター!」


 オリバーが興奮しながらそう言うと、アンドレは「お、おう!」とうなずき、リュックからサバイバル用の小さなナイフ、トンカチ、ライターを取り出した。


 オリバーとアンドレの2人は、わたしとタリーが見守る中、形状記憶合金のカケラをナイフで切りつけたり、トンカチで思いきりたたいたり、ライターであぶったりした。でも、ソレはいっさい傷つかない。へこんでもすぐに元に戻るし、火でこげることもなかった。


「マジかよ。本当に発見しちゃったよ、UFOの残がいを。『ロズウェルの聖杯』が埋まっている場所に瞬間移動テレポーテーションするなんて、ものすごい偶然じゃないか」


「ちがうよ、オリバー。これが、あたしたちの運命だったんだよ。あたし、言ったじゃない。すべてのことはつながっているって。ナナミとの出会いが、あたしたちを『ロズウェルの聖杯』へとみちびいたんだよ」


「な、なるほど! ミタケ・オアシンっていうやつか!」


 オリバーとタリーの兄妹は、感激してハグしあう。


 ひとしきり兄妹で感動をわかち合うと、2人はアンドレに抱きつき、そして、最後にわたしにも飛びついてきた。


 オリバーとタリーにむぎゅっ~とはさまれて、わたしはサンドウィッチの具のようになる。


「ありがとう、ナナミ!」


「ナナミ好き! チュッ! チュッ!」


「う、うにゃにゃ~⁉ この兄妹、スキンシップ激しすぎ~! あと、タリー! どさくさにまぎれて、ほっぺたにチューしないでぇ~!」

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