FILE16 ここ掘れワンワン作戦

「よーし。アンダーソン保安官がまたこっちにやって来る前に、用事をすませよう。アンドレ、AIロボのジャンプを使って、駐車場の防犯カメラを何とかしてくれ。カメラにオレたちの姿が映っていたら、後で駐車場に穴をあけたことがバレて怒られるからな」


「ああ、まかせておけ」


 アンドレは、自分の大きなリュックから、ウサギ型ロボットを取り出した。


 あっ、エイリアンペット・コンテストで行方不明になったジャンプだ。あの後、ちゃんと自力でアンドレの家に戻って来ていたんだね。さすがはAI搭載とうさいロボだ。


「ジャンプ。駐車場のあそこにポール(細長い棒)が建っているのが見えるだろう。あのポールのてっぺんに、防犯カメラが設置されているんだ。おまえのジャンプ力でタックルして、防犯カメラの向きを変えてくれ」


 アンドレは、ペットであるジャンプに指示をあたえた。


 ジャンプは、ご主人様のアンドレを見上げながら、長い耳をピコピコ動かしている。その仕草が可愛らしくて、わたしはちょっとほのぼのとした気持ちになった。


 飼い主の命令を何でも聞いてくれるペット型ロボットって、いいなぁ~。わたしもほしいかも。


 なんて、わたしがのん気なことを考えていると――。


「ハ? 嫌デスヨ。ちょうことわル。全力デ断ル。自分デ、タックル、シヤガレ!」


 ジャンプはものすごく口汚い言葉をき、アンドレからプイッと顔をそむけた。


 え、えええーーーっ⁉ 命令拒否ぃ~⁉


「……すまない、オリバー。ジャンプはご機嫌ななめのようだ。オレの命令は拒絶された」


「い……いやいやいや! ロボットが人間の命令を拒否しちゃうの⁉ ダメじゃん、それ!」


「ジャンプは、オレが通信機を忘れて何も指示しなかったせいで町のはずれまで飛んでいき、空中で鳥たちに激しくつつかれたことを怒っているんだ。こいつの人工知能は、『プライドが高くて、ちょっとしたことでプンプン怒る、女王様っぽい女の子』という設定なんだよ」


「なんでそんな設定にしちゃったのさぁ……」


「ボクが、そういう女の子がタイプだから」


 アンドレは、メガネをクイッと直しながらそう言う。


「アンドレって、女王様気質の子がタイプだったんだ……」


 わたしとタリーは少しあきれて、そうつぶやいた。


 ていうか……ジャンプって女の子だったんだね。名前からして男の子だと思ってたよ。








「さて、困った。あの防犯カメラをどうやってどけようか」


「あの、オリバー……。わたしの超能力で、何とかなるかも」


 わたしが遠慮ぎみに挙手してそう言うと、タリーが「あっ、そうか! ナナミの念動力サイコキネシスで、防犯カメラを動かしちゃえばいいんだ!」とはしゃいだ。


「オレたちが今いる草むらからけっこう距離があるけれど、大丈夫?」


 オリバーがそうたずねながら、暗視あんしスコープをわたしに手渡した。暗闇の中でも周囲がちゃんと見られる暗視スコープを装着そうちゃくしていたら、ターゲットの防犯カメラもよく見えるだろう。


念動力サイコキネシスは2日前に使えるようになったばかりの超能力だから、どうなるかわからないけど……。いちおうやってみるね」


 わたしはそう言い、リュックサックから炭酸ジュースの缶を1本取り出す。


「炭酸ジュース? それをどうするの?」


「炭酸ジュースを飲んだら、頭に電流が走って、超能力が発動するの。タリーを助けた時は、なぜか炭酸ジュースなしで力を使えたけど」


 わたしは、自分がちゃんと超能力をコントロールできるか不安に思いつつ、コーラをごくんごくんと飲んだ。


 いちおう、昼間に瞬間移動テレポーテーション念動力サイコキネシスをちゃんと使い分けられるようには練習したんだけど……。し、失敗しないよね?


「く……来るっ! 頭の中で、電流がバチバチって来たっ! はにゃにゃにゃ! ひにゃにゃにゃ! ふにゃにゃにゃ~ん!」


 わたしはガクガクとふるえる体を何とか動かし、遠く離れた場所にあるポール(4、5メートルぐらいの高さ)に向けて両手をかざした。


 防犯カメラよ、動け!


 防犯カメラよ、動け!


 防犯カメラよ、うご……あれ?


 バコーーーーーーン‼


「す……すごい」


「ポールが……」


「……L字に曲がっちゃった」


 オリバー、アンドレ、タリーが口をあんぐり開けながら、そうつぶやく。


 そうなのだ。ちょっと防犯カメラの向きを変えようしただけなのに、パワーをうまくコントロールできなくて、カメラが設置されているポールをぐにゃりと曲げてしまったのだ。


 2日前にこの力を初めて使った時には、いじめっ子たちを空中にほんのちょっと浮かすていどの能力だったのに……。


 怒ったりビックリしたり、気持ちがたかぶっている時は、炭酸ジュースを飲まずに力が使えることもあるし……。ロズウェルに引っ越して来てから、わたし、ちょっとずつパワーアップしてる……?


「ご、ごめん! 失敗しちゃった! どうしよう、弁償べんしょうしなきゃ!」


「落ち着いて、ナナミ。泣かなくてもいいよ。あれだけの力を持っている君なら、ポールを元に戻せるはずだ。絶対に大丈夫だから、試してごらん」


 オリバーが、わたしの頭をポンポンとなでて、はげましてくれる。


 あう……ちょっと落ち着いてきた。男の子にそんなふうに頭を優しくなでなでしてもらったことがないからちょっと恥ずかしいけど、心がぽわんぽわんしちゃうよ。


 オリバーって、10代の男の子とは思えないほど女の子に紳士的だよね。


「わ……わかった。もう一回やってみる。……ごくん、ごくん。え、えーーーい‼」


 バコーーーーーーン‼


 やった! ポールが元に戻った! 弁償しなくてすむ!(泣)


 つ、次は、防犯カメラの向きを変えなくちゃ。今度は、力をおさえて、そろーりそろーりと……。


 ペコ~~~ン!


「ナナミ、成功だ! 防犯カメラが上を向いた! これだったら、下で何をやっていてもわからないよ!」


「ナナミ、すっごーい!」


 オリバーとタリーが、むぎゅ~とわたしに抱きつく。


 わ、わ、わ!

 タリーに抱きつかれるのは女の子同士だし慣れたけど、オリバーにハグされたら心臓が爆発するぅ~!


「邪魔な防犯カメラはどかしたし、早速こいつを使って駐車場の地面を調べようぜ」


 アンドレはそう言いながら、またリュックから何かを取り出した。


 それは、四角い箱に車輪が4つついたロボットだった。箱の前の部分には、少女マンガのヒロインみたいにキラキラと輝く大きな目がついている。


「こいつの名前はベッキー。ボクの初恋の女の子の名前をつけたんだ」


「へ、へえ~……。この子は何ができるの?」


「こいつは、地中レーダー探査たんさのマシーンなんだ。地面の中に電磁波でんじはを送り、土の中に何かが埋まっていると、はね返ってくる電磁波によってそれがわかるんだ。考古学者のボクの父さんが遺跡の発掘調査とかで使っている私物を、勝手に改造して、勝手に人工知能をつけたんだ」


「それ、後で絶対にお父さんに怒られるよね? 大丈夫?」


「われらロズウェル・ユニオンの活動のためなら、父さんの説教ぐらい恐くはないさ」


 アンドレは悪戯いたずらっぽくほほ笑むと、ベッキーの背中の部分にあった赤いボタンをポチっと押した。


 すると、ベッキーの大きな目がピカーンと光り、駐車場をグルグルと走り出した。


「ウヘヘヘ。金目ノ物、金目ノ物♪ 金目ノ物ハドコォ~?」


 ええと……。

 ベッキーさん、銀行の建物の前でめちゃくちゃ物騒ぶっそうなセリフを言ってるんですけど……。


 あんなセリフをもしも銀行員さんが聞いたら、銀行強盗がやって来たと勘違かんちがいしちゃうよ。


 まあ、駐車場には車が1台もとまっていないから、お祭りのパレードを見物するためにみんな帰って行っちゃったとは思うけどね。


「……なあ、アンドレ。あいつは、どうしてあんな性格にしたんだ?」


 頭痛がするのか、オリバーが頭に手をそえながら言った。

 ベッキーの人工知能を作ったアンドレも、ちょっとしぶい顔をしている。


「モデルにする人格が思いつかなかったから、母さんの性格を参考にしたんだ。母さん、ブランドもののバッグとか宝石が大好きなんだよ」


 う、う~ん。ちょっと性格に難が……。


 でも、ベッキーの性能は優秀だった。地中調査を始めてすぐに、


「ピコーン! ピコーン! ココニ、ナニカアル!」


 と、わたしたちに知らせてくれた。


「おっ、早いな。よし、みんなで掘ろう!」


 オリバーがシャベルを片手に草むらから飛び出す。わたしたちも、その後に続いた。


 い……いよいよ、『ロズウェルの聖杯』を掘り起こすんだ!

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