FILE08 エイリアンペット・コンテスト

「そういえば、オレたちのほうはちゃんとした自己紹介がまだだったね。オレの名前はオリバー・ベル。UFOじいさんの家の近所に住んでいるから、よろしく!」


「あたしはオリバーの妹のタルーラ! でも、みんなにはタリーって呼ばれているから、ナナミもタリーって呼んでね!」


 オリバーとタリーは、メインストリートを歩きながら、わたしにそう自己紹介してくれた。

 わたしは、ポッコリと出たお腹をさすりながら2人の話を聞いている。食べすぎてお腹が破裂しそう……。


 タリーの話によると、彼女はアメリカ先住民を両親に持つ女の子だそうだ。実の父親を幼いころに病気で失い、母親のオールジーさんは3年前に白人男性のアレックス・ベルさん(オリバーのお父さん)と結婚したんだって。


「オレさ、タリーが妹になるまではUFOやエイリアンにあんまり興味なかったんだよね。町を歩いたらエイリアンの顔があちこちにあるから、ちょっとうんざり……みたいな? どうせ町おこしのために『この町は、UFO墜落事件があったあの有名なロズウェルなんです!』って騒いでいるんだろうなぁ~って、冷めた目で見てた」


 オリバーは、メインストリートに一定間隔で置かれている街灯を見上げながら、そう言って笑った。


 街灯をよく見ると、グレイタイプ・エイリアンの頭の形になっている。ロズウェルの町の人々は、毎日たくさんのエイリアンたちに見下ろされながら道を歩いているのだ。


 ……う、う~ん。たしかに、こんなにもエイリアン尽くしだと、子供心にも「どうせ町おこしのためなんでしょ? エイリアンなんているわけないじゃん!」って思っちゃうかも。


「でも、新しく家族になったタリーから『スターピープルはわたしたち先住民の古いお友達なんだよ』って教えられて、マジかよ⁉ っておどろいたんだ。タリーは素直で純粋で、絶対に人にウソをつくような人間じゃない。この子の言うことならまちがいない、と信じたんだ」


「えへへ~、そこまでお兄様にほめられると照れますなぁ~。でもね、あたしだけが言っている話じゃないんだよ? あたしのママはナバホ族の生まれだけど、『われわれの先祖は、地球の外から来たスターピープルだ』っていう言い伝えがあるの。他の部族にも似たような伝承があるし。

 先住民の人たちの中には、今でもスターピープルとコンタクトを取っている人もいるって聞いたことがある。パパも昔、プレアデス星人を名乗るスターピープルと出会ったことがあるんだって。プレアデス星人は、地球で消えてしまった自分たちの女王様のゆくえを探しているそうなの」


「それで、あなたたちもエイリアンに会いたくてUFOのことを色々と調べているの?」


 わたしがそうたずねると、兄妹はほぼ同時に「イエス!」と言った。本当に、息ピッタリ。


「ひいおじいちゃんも『若いころにスターピープルの女性と会ったことがある』って言っていたけど……。アメリカの先住民たちの間でそんな伝説があるということは、『スターピープル』っていうエイリアンたちの呼び名は、ひいおじいちゃんが小説を書く時に考えたただの妄想なんかじゃなかったんだね」


「うん。それが宇宙の民たちの本当の呼び名だから、あたしたちロズウェル・ユニオンは彼らのことをスターピープルって呼ぶことに決めてるの」


 たしか、ひいおじいちゃんも「わたしたち宇宙の民は、自分たちのことをスターピープルと呼び合っている」ってスターピープルの女性から教えられていたはず。タリーの話と一致している。


 お父さんはただのホラ話だと笑っていたけど、ひいおじいちゃんが言っていたことはもしかしたら正しいのかも……?


「ロズウェルに落ちたUFOに乗っていたのは、タリーたちのご先祖様のスターピープルだったのかな?」


「ん~。それはわかんない。UFOじいさんが、『スターピープルにもいろんな種族があって、地球に友好的な者たちや悪意を持った者たちがおる』って言っていたから」


 あっ、それはわたしもひいおじいちゃんから聞いたかも。


 わたしは、昨日出会ったアロという少年のミステリアスな微笑を思い出し、


(彼は地球人に友好的なエイリアンだったのかな。それとも……)


 と、考えこむのだった。








 わたしがオリバーたちにアロのことを話そうかどうか悩んでいるうちに、ものすごい人だかりができている場所にやって来ていた。


「今年もはじまりました! UFOフェスティバル毎年の恒例、エイリアンペット・コンテスト! 今回は、どんな可愛いエイリアンのペットちゃんたちが登場するのでしょうか⁉」


 うおおおおお‼


 ヒュー! ヒュー!


 ワンワン! ニャーニャー!


 エイリアンのコスプレをした人たちの歓声に混じって、犬や猫の鳴き声があちこちから聞こえてくる。


「え? 何これ? ものすごく盛り上がってる」


「ペットたちにエイリアンのコスプレをさせるコンテストさ」


「ゆ……ユニークすぎる……」


「このコンテストに、オレたちの仲間が参加しているんだ。あっ、エントリーNO1のペットと飼い主が舞台に上がったみたいだ」


 エントリーNO1のペットは、銀色にピカピカ光る宇宙服を着た猫ちゃん。


 飼い主のおじさんは、頭に円盤の形をした手作りらしき帽子をかぶっていて、その上に猫ちゃんはちょこんと座っていた。


「今から、ワシのエイリアン・ペットがUFOに乗って宇宙を旅します! バビューン!」


 おじさんはそう叫ぶと、頭の上に猫ちゃんを乗せたまま、舞台の上をグルグルと走り出した。


 ネコちゃんは大人しい性格なのか、退屈そうにしながらも逃げようとしない。ご主人様の頭の上で、ふわぁ~と大きなあくびをしている。


「バビューン! バビューン! ……はぁはぁはぁ」


 おじさんは必死になって走っているけれど、見物席にはびみょ~な空気が流れていた。


 お……おじさん。ペットのコスプレ大会なのに、自分が目立ったらアウトだよ。このコンテストのルールをよく知らないわたしでも、失格だってわかるよ……。


 案の定、おじさんは、コンテストの係員たちに両腕をガシッとつかまれ、


「はいは~い。もう終わってくださぁ~い」


 と、強制的に退場させられてしまった。


 オリバーとタリーは面白がって、お腹を抱えて大笑いしている。わたしも、ちょっと笑っちゃった。


「さ……さあ、気を取り直して次へいってみましょう! エントリーNO2のペットちゃんと飼い主さん、どうぞ舞台へ!」


 司会進行役のお姉さん(彼女も、全身を緑色にメイクしてエイリアンのコスプレをしている)が、次の参加者の登場をうながした。


 トップバッターは猫ちゃんだったから、次はワンちゃんかな?

 なんて、わたしがぼんやりと考えていると――。


 ヒヒーーーン‼


 突然、会場に馬のいななき声がひびきわたった。


「な、何事⁉」


 見物客のみんなが驚いていると、一頭の馬がパカラパカラとひづめの音を立てて疾走しっそうしてきた。


「ヘーイ! みんな、オレの可愛い相棒を見てくれ!」


 馬上で手綱たづなにぎっているのは、なんとカウボーイ‼


 わたし、カウボーイなんて生で見るの初めてだよ‼ さすがアメリカ‼


 カウボーイのお兄さんが「飛べ! わが愛馬ペガサス!」と叫ぶと、馬は天高く飛んで舞台の上にあがった。


 ペガサスくんのコスプレはというと――。

 これは何だろう? 首が3つあるエイリアン・モンスターのつもりなのかな? 本物の頭の左右に、風船で作った馬の顔がヒモでくっつけられている。


 その風船でできた偽物の頭が、ペガサスくんの顔にパコン、パコン、パコン! としつこく当たっていた。ペガサスくんは「この風船、邪魔や!」と思っているのか、しきりに首をブルブルと振っている。


「あっ、ちょっとあれはヤバイよ。あの馬、今にも怒りだしそうだ」


 オリバーが言った通り、ペガサスくんからは怒りのオーラが漂っている……ように見える。カウボーイのお兄さんはそれに気づかず、カウボーイハットを手で振りながらみんなにアピールしている。


 ブヒヒヒーン‼(怒)


 あっ、ついにキレた。ペガサスくんは前足を大きく上げて飼い主を振り落とす。カウボーイのお兄さんは「わぁ~⁉」と叫んで、舞台の下に転がり落ちた。


「ま、待つんだ、ペガサス! どこへ行く~⁉」


 ペガサスくんは飼い主を置き去りにしたまま、会場の外へと走り去ってしまった。


 ぐ、グダグダだ……。2回連続で、グダグダになってしまった……。


「つ……次! エントリーNO3のペットちゃんと飼い主さん、登場お願いします! 今度こそ盛り上げてください! マジでお願いします!」


 司会進行のお姉さんがマイクを両手に握って、そう叫ぶ。


 たしかに、UFOフェスティバルの目玉のイベントがグタグダのまま終わったら困るもんね……。


「おっ、ようやく来たか。ナナミ、今から登場するのがオレたちの仲間のアンドレ・ワシントンだよ」


「そうなんだ。どんなペットを連れて来るのかなぁ?」


 次に出て来るのがロズウェル・ユニオンのメンバーだと聞いて、わたしは舞台に目を向けた。


 やがて、舞台の上に黒人の男の子があらわれ、見物客たちに軽く手を振った。


 彼のコスプレはいたってシンプルで、頭にふたつの触覚をつけて、ぴっちりサイズの宇宙スーツを着ていた。


「がんばれ、アンドレ!」


「優勝して、賞品をゲットだぜぇ~♪」


 オリバーとタリーが大きな声で声援を送ると、アンドレはオシャレな赤いメガネをクイッと直してはにかみ笑いを見せた。


 アンドレは、知的な顔立ちの少年だ。オリバーが王子様なら、アンドレは哲学者っぽい雰囲気がある。


「みなさん。ボクのペットはこの子です」


 アンドレはそう言いながら、手に持っていた「ペット」を頭上にかかげた。その「ペット」とは――。


「ろ……ロボットーーーっ⁉」


 わたしは、ピカピカと目が赤く光っているウサギ型ロボットを見上げ、驚きの声を上げていた。

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