FILE09 アンドレとジャンプ

「ちょ……ちょっと君! ロボットはダメですよ! 何考えてるんですか!」


 司会のお姉さんが、プンスカ怒りながらアンドレにつめよった。


 でも、アンドレは涼しい顔をして、メガネをクイッとまた直す。


「近ごろはペット型ロボットというものが流行っているはずですよ。こいつは、ボクが作ったAI搭載とうさいロボットの『ジャンプ』。わが家の可愛いペットです」


 AIって、人工知能のことだよね。中学生でAIのプログラミングをして、あんなロボットを作るなんてすごい……!


 わたしが感心して目を大きく見開いていると、オリバーが「オレの親友は、ロボット開発の天才なのさ!」とうれしそうに自慢した。


「生き物のペットはよくて、ロボットのペットはダメだなんて、それはペット差別だと思います。ペット差別、反対!」


 アンドレがそう言うと、アンドレに抱かれているウサギ型ロボットも「ペット差別、反対!」と機械的な声でしゃべった。


「わ、わたしにそんなことを言われても……」


 困ってしまった司会のお姉さんは、審査員席の人たちを見た。


「う~む。たしかに『ペットがロボットだったらいけない』というルールはない。だが、そのロボットは、見たところエイリアンのコスプレをしていないようだが……。どこにエイリアン要素があるんだい?」


 審査員の一人のおじさんが、アンドレにそうたずねる。すると、アンドレはニヤリと笑い、


「ありますよ、エイリアン要素。……ジャンプ、ドローンモードに変身だ!」


 と言った。


 すると、可愛らしいウサギの見た目をしていたジャンプの体が、キュインキュイーンと音を立てて変形を開始した。


「へ……変形ロボーーーっ⁉」


 ジャンプの顔は、わずか3秒で、グレイタイプのエイリアンになった。


 体は円盤型の宇宙船になっていた。しかも、船底には4つのプロペラがついている。


 ドローンモードということは、あの子、飛べるの⁉


「飛べ! ジャンプ!」


「アイキャンフラーーーイ‼」


 ブロロロロ~~~!


 と、飛んだぁーーーっ‼


 わたしやオリバー、タリー、他の見物客たちも、口々におどろきの声を上げながら、空のはるかかなたまで飛んでいくジャンプを見上げた。


「すごい! すごい! すごーい!」


「さすがはアンドレ! ドローンに変形できるペット型ロボットなんて、だれも思いつかないアイディアだ!」


「ん~……。でも、遠くへ飛んでいったまま、見えなくなっちゃったよ? そろそろ呼び戻したほうがいいんじゃないのかなぁ?」


 タリーが心配そうに言った。


 そういえばそうだ、と思ったわたしとオリバーは、舞台の上のアンドレを見つめる。


 アンドレは、ジャンプが消えていった青空の向こうを無表情で見上げ……。


 静かにメガネをクイッと直して、こうつぶやくのだった。


「……しまったな。遠距離から命令するための通信機を家に忘れて来た。あいつ、どこまで飛んでいくつもりなんだろう」


 え、ええぇぇ~……。


 ジャンプ、戻って来る気配ないけど大丈夫……?


「またやっちゃったよ、あいつ。アンドレは天才だけど、うっかり屋なところがあるからなぁ~」


 オリバーは、あちゃ~といった表情で親友の失敗を残念がるのだった……。








 結局、ジャンプは会場に戻って来なくて失格になり、コンテストはエントリーNO7のワンちゃんが優勝した。UFOの絵柄の浮き輪を胴体につけた小さなワンちゃんがチョコチョコ歩く姿が、とってもキュートだったので高評価になったのだ。


「無念だ……。ジャンプのヤツ、自力でちゃんと家に帰ってるかな? 少し心配だよ」


 コンテストが終わった後、わたしたちと合流したアンドレは落ちこみぎみにそう言った。


「元気出せよ、アンドレ。おまえの発想は最高だったぜ。来年はきっと優勝できるさ。通信機さえ忘れなければ……」


 オリバーがアンドレの肩をたたいてなぐさめる。


「ああ、今度は絶対に忘れないよ。……で、そちらのジャパニーズガールが、ウワサのUFOじいさんのひ孫か?」


「うん、そうだよ。超能力であたしのことを助けてくれた、すごい子なの!」


 むぎゅ~と、またわたしに抱きつくタリー。


 ひ、人前で過剰かじょうなスキンシップは恥ずかしいってばぁ……。


 アンドレは「超能力」と聞いて、ホホウ……と興味深そうにわたしを見つめ、手を差し出してきた。


「ボクが、ロズウェル・ユニオンの参謀のアンドレ・ワシントンだ。よろしく」


「ど……どうも」


 男の子と握手あくしゅするのって何だか恥ずかしい……。でも、アメリカでは当たり前のあいさつなんだし、早く慣れないと。


「UFOじいさんから君のことは色々と聞いているよ。君は、日本では最高レベルの美少女だという話だが……ふむ。なるほど、ふむふむ……」


 アンドレは、化学者が調査対象を観察するような目で、わたしをジロジロと見た。


 わ、わたしが、日本で最高レベルの美少女……⁉

 ひ……ひいおじいちゃん! なんちゅうホラを吹くのよぉ~‼

 家に帰ったら、文句言ってやる!


「すみませんすみませんすみません。うちのひいおじいちゃんがウソついちゃって本当にすみません!」


「いや、ジロジロ見てすまない。ボクは、日本人女性は君しか知らないから、最高レベルかどうか分析ぶんせきできないが……。君はとても可愛いと思うよ。おしとやかそうなところとか、オリバーのタイプっぽいね」


「うん。オレ、ナナミみたいな子、好み」


「え? ええーーーっ⁉」


 さらりと、なんという爆弾発言をするんだ、このイケメンは!


 オリバーにキラキラ笑顔でとんでもないことを言われ、わたしは心臓が止まりそうなぐらい驚いた。


「あはは。ナナミったら、すごい恥ずかしがってる。顔、真っ赤。可愛い~♪」


 タリーが面白がって、わたしの耳元で「可愛い、可愛い、可愛い」と連発した。


 や……やめてください。ここ3年ぐらい学校ではずっとボッチで、だれからもチヤホヤされたことがなかったわたしは、そーいうほめ言葉に免疫めんえきがないんです。


 そんなにほめられたら、死んでしまいます!

 死因が「ほめられすぎて、恥ずかしさのあまり死亡」とか、かっこ悪すぎる!


「あ、あばばばば!」


「ナナミがこわれちゃった……。おーい、ナナミ! 戻ってこーい!」


 タリーにほっぺたをペチンペチンとたたかれ、わたしは「ハッ⁉」とわれに返った。


「ご、ごめんなさい。わたし、メンタルが豆腐だから、いろんな意味で打たれ弱いの……」


「メンタルがとーふ? とーふって、日本の健康食品だよね? メンタルと何の関係があるんだい?」


 オリバーが首をかしげ、アンドレが「君、おもしろいヤツだな」と言って笑った。


 う、う、う……。目立たずに生きることが目標なのに、わたしったら悪目立ちするようなことばかりしちゃってる……。またお腹が痛くなってきたよぉ~。

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