FILE10 UFO博物館

「ナナミはUFOじいさんの小説は何が好きなんだ? ボクは、大人気シリーズの『ロズウェルの大冒険』全50巻だ」


 アンドレにそう聞かれて、わたしはちょっと気まずそうに「ご、ごめん」と言った。


「わたし、ひいおじいちゃんの小説は、『スターピープルたちの大恋愛』全5巻しか読んだことがないの」


 わたしはたまには他のジャンルも読むけれど、だいたいは恋愛小説を読んでいる。

 ひ孫なんだしひいおじいちゃんの本を読んでみようとチャレンジしたことは何度もあったけど、ひいおじいちゃんの小説っていかにも男の子が喜びそうなストーリーばかりなんだよねぇ~……。「友情・努力・勝利!」みたいな? 毎回、数ページ読んで挫折ざせつしちゃってたんだよ。

 だから、珍しく恋愛要素があった『スターピープルたちの大恋愛』(内容は、宇宙人の少年と地球人の少女のラブロマンス)ぐらいしか最後まで読めていないの。


「もったいないなぁ、ジョン・タケオ・スバルの作品をたった5冊しか読んでいないなんて。人生の8割方は損しているよぉ~」


 タリーがいかにも残念そうに言うと、オリバーとアンドレはうんうんとうなずいた。どうやら、ロズウェル・ユニオンのメンバーは全員がひいおじいちゃんのファンらしい。


 う、う、う……。目の間にひいおじいちゃんの大ファンが3人もいるのに、ひ孫のわたしがひいおじいちゃんの小説にくわしくないのはちょっとかっこがつかないかも……。


「まあ、いいさ。趣味なんて人それぞれだし、無理に押しつけるものじゃないからね。でも、町のUFO博物館は一度見ておくことをおススメするよ。なんてったって、ナナミがこれから暮らすこの町で一番有名な建物だからね。よかったら、オレたちが今から案内するよ?」


 オリバーがウィンクしながらそう言った。


 王子よりも王子らしいイケメンにそんなふうに誘われたら、「NO」とは言いにくい。


 昨日、UFO(?)と遭遇したばかりだから、興味も少しわきつつある。


 というわけで、わたしは、


「う、うん……」


 と、しおらしくうなずいていた。


「決まったね。じゃあ、博物館まで案内するよ、お姫様」


 ……う、うひゃぁ~。笑顔がキラキラ輝いてるぅ~。


 オリバーって、恋愛小説に出てくるイケメンよりも、ずっとずっと素敵かも。








「ここが有名なUFO博物館だよ♪」


 タリーが白い建物を指差しながら、はしゃいでそう言う。


 建物の入り口にある青い看板には、


「国際UFO博物館&研究センター」


 と、英語で書いてある。


 研究センターという名前がついているということは、思っていたよりもおかた~い博物館なのかな?


 なんて、思っていたんだけど……。


「ほら、あそこにUFOとスターピープルのオブジェが飾ってあるよ。なかなかいい出来だろ?」


 館内に入ってすぐ、オリバーが指差したほうを見ると、天井にるされたUFOと周囲を警戒するように立っているグレイタイプのエイリアン4人のオブジェがあった。


「ナナミ、見て見て! これは墜落したUFOの模型だよ! 地面にぐさーって突き刺さっているところとか、すっごくうまく表現できてるよね!」


「あっちにあるのは、スターピープルが解剖かいぼうされているシーンを表現した人形だ」


 お、おお……。なんて手作り感満載まんさいな博物館なんだろう。


 ここの博物館の人たち、きっとエイリアンのことが大好きで、ノリノリでこのオブジェや模型を作ったんだろうなぁ~。


 博物館内には「来てくれた人を楽しませよう!」という工夫がいっぱいで、館内にはカップルや親子連れのお客さんもけっこういるみたいだ。みんな笑顔で、エイリアンのオブジェと一緒に記念撮影をしている。


「向こうには資料室もあるから、行ってみよう」


 オリバーにうながされて、わたしたちは資料が展示されているスペースに行く。


 あっ、ちゃんと資料とかも置いてあるのね。そりゃそうか、ここ博物館なんだし。


「ロズウェル事件が起きたのは、1947年7月の第1週のこと。ロズウェル北西のフォスター牧場の管理人だったマック・ブラゼルは、嵐が吹き荒れていたその夜に大きな爆発音を耳にしたらしい。彼は、翌日気になって牧草地を見に行った」


 オリバーが、展示されているロズウェル事件の解説文、関係者たちの写真を見ながら、わたしに丁寧に説明してくれる。


「で、行ってみたら、そこには大量の金属のカケラが散乱していたんだ。かなり広範囲に散らばっていて、ブラゼル1人ではどうしようもできないほどの数だった。

 困ったブラゼルは、そのカケラの一部を持って、ロズウェルの町の保安官ほあんかん(町の治安を守る人)のところへ行ったんだ。保安官はこのことをアメリカ軍に報告した。軍はただちに現場に向かい、そのUFOの残がいを回収した……というわけさ」


「残がいを回収した時、エイリアンの遺体もその牧場で回収されたの?」


「諸説あってハッキリしないんだ。残がいが散乱してたフォスター牧場の他にも、UFOの本体が墜落したとされる場所の候補地がいくつかあるし。その墜落現場で遺体が見つかったとか、船とはちがう場所にいたとか……」


 ふ~ん。そんなにも墜落候補地があるのなら、墜落したUFOが1せきだけだったとは限らないような気もするけど、どうなんだろう?


「地元のマスコミは『ロズウェルに空飛ぶ円盤が落ちた!』って大騒おおさわぎになった。しかし、アメリカ軍はこの情報をすぐに否定して、『墜落したのはUFOではなく、気象観測用きしょうかんそくようの気球だった』と発表したんだ」


「でも、ずーっと後で、UFOの残がいの回収に関わった軍人さんが、『あれはまちがいなくUFOの残がいだった!』って言いだして、他にも証言者しょうげんしゃがたくさん出てきたから、いまだにロズウェルUFO墜落説は消えてないんだよ」


 アンドレとタリーも、丁寧にわたしに解説してくれる。


 3人とも、ものすごく熱の入った説明だった。

 ……もしかして、わたし、布教されてる? 「エイリアンの存在を信じている仲間」に引き入れられつつある?


(趣味を無理に押しつけるつもりはない……。だが、興味を植えつけて引きずりこまないとは一言も言っていないぜ‼)


 そんな心の声が聞こえてきそうだった。


 3人のわたしを見る目がキラキラと輝いていて……ま、まぶしい‼


「み、みんな、解説ありがとう。ちょっとずつ、UFOに興味がわいてきた……よ?」


 わたしがそう言うと、3人はパァーッと笑顔の花を咲かせるのだった。








 わたしたちがそんなふうに和気あいあい(?)と語り合っていると、「あれ? オリバーじゃん」という声が聞こえた。


 振り向くと、わたしたちと同い年ぐらいの男の子たち(彼らも、エイリアンのコスプレをしている)が5人。何だかいやらしそうにニヤニヤ笑いながら、こっちにやって来る。


「やあ、オリバー。またUFOマニアの同好会かい?」


「…………」


 男子たちのグループに話しかけられても、オリバーは冷ややかな目で相手をにらむだけで、何も言わない。近くにいたタリーの手を引っ張って、自分の背中に隠していた。


 ……もしかして、こいつらもタリーをいじめてるの?


 わたしは、タリーのほうをチラリと見た。女の子のいじめっ子たちにからまれていた時はのほほんとした顔をしていたけれど、さすがに図体ずうたいのでかい男子たちは恐いのか、わずかに緊張した顔つきになっている。


 悪口を言われてもぜんぜん気づかないような天然ちゃんなのかな、と思っていたけど……。タリーはちゃんと他人の悪意に気づけるみたいだ。


 じゃあ、女の子たちに意地悪いじわるをされていた時は、強がって平気そうなふりをしていただけなのかな……?


「なあ、オリバー。そろそろ妹のバカらしい趣味につきあうのはやめて、前みたいにオレたちとバスケをやろうぜ?」


「…………」


「エイリアンなんて、いるわけがないじゃんか。エイリアンの存在そんざいを信じているなんて、おまえの妹はマジでマヌケだよ」


「……オレの妹を悪く言うな。エイリアンは……スターピープルは必ずいる。オレが、それを証明しょうめいしてみせる」


「へぇ~、どうやって?」


「『ロズウェルの聖杯せいはい』を見つけ出す。アレさえ発見できたら、UFOやスターピープルの存在をうたがっているヤツらをだまらせることができる」


 オリバーは、髪の毛が逆立ちそうなほどの怒りのオーラを漂わせ、男子たちをギロッ! とにらんだ。


 そのすさまじい迫力に、男子5人組は「うっ……」とたじろぐ。


「ふ……フン。見つかるわけないさ、そんなもの。まあ、せいぜいがんばりな。マヌケな仲間たちと一緒にな!」


 男子たちはそんな捨てセリフを残すと、逃げるようにその場を立ち去って行った。


「……オリバー。あいつらに見返してやるためにも、そろそろあの計画を決行しようぜ。UFOフェスティバルが行われている今なら、きっとやれる」


 アンドレが、まだ怒りがおさまっていないオリバーをなだめるように肩をたたき、そう言った。オリバーは「ああ」と力強くうなずく。


「オレたちで、見つけよう。『ロズウェルの聖杯』を」


 ロズウェルの聖杯って……何のことだろう?

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