FILE07 ロズウェル・ユニオン

 それから20分後。


 わたしは、オリバー兄妹に(半ば引きずられるようにして)連れられて、町の北側のメインストリート沿いにあるハンバーガー屋さんに来ていた。


「ここのハンバーガー屋は、とってもおいしいんだ。妹を助けてもらったお礼に、お昼をおごるよ」


「お……おかまいなく……」


「このお店のおすすめメニューは、テキサス・バーベキューのハンバーガーと、ポテトだよ! あたしが注文してきてあげるね!」


「あの……わたし、小食だから……。って、行っちゃった……」


 こ……この2人、すごく強引だ。そして、息ピッタリ。


 わたしは初対面の人と食事をするのが落ち着かなくて、祭りのお客でにぎわっている店内をキョロキョロと見回した。


 店内を駆け回っているウェイトレスさんたちのエプロンには、エイリアンがハンバーガーを食べているイラストがプリントされている。この町、どこに行ってもエイリアンの顔を見るなぁ……。


「お待ちどうさまぁ~。テキサス・バーベキューのハンバーガーとポテトでぇ~す。今日はオリバーが初めて妹以外の女子をうちの店に連れて来たから、記念にポテトを大盛りにしといたわよ」


 高校生ぐらいのウェイトレスさんが、エプロンを軽やかにひるがえしながら、わたしたちが座るテーブルにやって来た。


「ワーオ! 本当に大盛りだ! ありがとう、トゥイ……」


「おっと! こんなにも人がいる場所でわたしの名前を呼ばないで! 恥ずかしいから!」


「別に恥ずかしがらなくてもいいのに。オレは可愛い名前だと思うよ?」


「ノー! ノー! 絶対にダメ!」


 ウェイトレスさんは、オリバーの頭にチョップをすると、別のテーブルのお客さんのところへ行ってしまった。


「あいたた……。すぐに手を出すくせを直さないから、高校のダンスパーティーでだれからも誘ってもらえないんだよ」


「えっと……お知り合い?」


 わたしは、テーブルにどーんと置かれている山のようなポテトの量や超ビッグサイズのハンバーガーに内心戦慄せんりつしつつ、オリバーにそうたずねた。


「ああ、うん。この町は小さいから、だいたいが知り合い同士みたいなものなんだけどね。彼女は、オレの家の近所に住んでいる高校生。少し前まで、オレとタリーのベビーシッターをやってくれていた人だよ」


「え⁉ ベビーシッターって、すごく小さな子の面倒を見る人のことじゃないの? オリバーとタリーって、今いくつ⁉」


 わたしがおどろくと、タリーがニコニコ笑いながら、


「2人ともナナミと同い年の13歳だよ! あたしのママとオリバーのお父さんが再婚した時、オリバーのほうが1か月誕生日が早かったから、オリバーがお兄ちゃんになったの!」


 と、教えてくれた。ものすごくいい笑顔だ。きっと、オリバーが自分の兄であることを誇らしく思っているのだろう。


「もう大きいのに、少し前までベビーシッターをやとっていたんだ……。わたしは小学校低学年ごろから、ちょくちょく1人でお留守番してたけど」


「アメリカでは、子供を家に放ったらかしにして出かけたら、虐待ぎゃくたい行為こういだとみなされるんだ。特にオレのパパは心配性だからね。同学年の親たちがベビーシッターを雇わなくなっても、うちは長いこと雇ってたんだよ」


「ほ……ほえぇ~。国がちがうと、ルールも色々ちがうんだねぇ~」


「さあ、ナナミ・スバル。遠慮なく食べてよ。これは引っ越してきたばかりのナナミの歓迎会なんだからさ。魅惑の土地・ニューメキシコ州へようこそ!」


「UFOが落ちた町・ロズウェルへようこそ!」


 オリバーとタリーが拍手をして、わたしのことを歓迎してくれた。


 あ、あの……。あんまり目立つようなことは……。他のお客さんたちが何事かと思って、こっちを見てるし……。


「……ん? あれ? ちょっと待って? わたし……2人に自己紹介してたっけ? まだしていなかったよね? どうして、2人はわたしの名前や年齢、それから引っ越してきたばかりだっていうことを知っているの⁉」


 わたしは今さらになってとんでもないことに気づいてしまい、驚きの声を上げた。


 わたしはこれまでの会話の流れで2人の名前や家族について知ったけれど、わたしの個人情報はいっさい言っていなかったはず。


 それなのに、なぜ⁉


「もしかして、あなたたち……人の心が読める超能力を持っているとか⁉」


「あはは。ちがうよ、そんな力はないってば。UFOじいさん――君のひいおじいさんとオレたちは友達なんだ。だから、UFOじいさんから『ワシのとびきりキュートなひ孫がもうすぐこの町に引っ越して来るから楽しみじゃ!』って聞かされていたのさ」


「あたしたち、UFOじいさんに『ナナミは優しくて、とってもいい子なんじゃ。おまえたちともきっと仲良しになれるぞ』って教えてもらって、早くジャパニーズガールと友達になりたいなぁ~って楽しみにしてたんだよ? でも、まさか超能力少女サイキックガールだったとは思わなかったけど!」


「2人は、ひいおじいちゃんの知り合いだったんだ。そういえば、今さら思い出したけれど、あのいじめっ子たちも『タリーはUFOじいさんと仲がいい』とか言っていたような気が……。あっ、もしかして、ひいおじいちゃんが言っていた『UFOやエイリアンを追いかけている悪ガキグループ』って、あなたたちのこと⁉」 


「イエス! オレとタリー、そしてここにはいないもう1人の仲間が、この町でもっともイケてる悪ガキグループさ。チーム名は、『ロズウェル・ユニオン』!」


 オリバーが、ウィンクをしながら親指を立てた。


 ロズウェルの町の悪ガキたちがエイリアンを見つけるために結成した同盟。だから、ロズウェル・ユニオン同盟なのか。


 ……チーム名、けっこうカッコイイかも。


「君と会えてうれしいよ、ナナミ・スバル!」


「で、でも、わたし……。ひいおじいちゃんみたいにUFOやエイリアンについてくわしくないの。2人を楽しませられるような話は、何もできないと思う。ごめんね……」


 UFOマニアの2人は「UFOじいさんのひ孫だから、ナナミもきっとUFOマニアにちがいない」と考えているのかも知れない。期待をさせておいてガッカリさせちゃうのは悪いから、わたしは正直にそう言った。


「何を言ってるのさ、ナナミ。君は、オレたちにとってもう特別な存在なんだよ? オレの妹を助けてくれたんだからね。普通、危険をかえりみずに見ず知らずの人間を助けたりはしない。ああいうことができるのは、優しい心と強い勇気を持った人間だけさ」


「オリバーの言う通りだよ! あたし、オリバーが世界で一番カッコイイと思っていたけど、ナナミもオリバーと同じくらいかっこよかった! ほれちゃいそう♪」


 タリーはそう言うと、子犬みたいにわたしにすり寄ってきて、ぎゅ~っと抱きついた。


 ぐ……ぐるじい。この子、ものすっごく人懐っこいなぁ~。


 こんな可愛い子をいじめるなんて、さっきの3人組のほうが「マヌケ」だよ。わたしとちがって、愛想もいいのに。


「あははは。タリーはすっかりナナミに懐いたね。せっかくだし、ハンバーガーを食べたら3人でUFOフェスティバルを見てまわろうよ。ロズウェル・ユニオンのもう1人の仲間をナナミに紹介したいし」


 友達と一緒にお祭りへ出かける……。

 そんなこと、いつ以来だろう。ずっと仲間外れにされて、だれからもお祭りになんか誘われたことがなかったから……。


 普段の引っ込み思案なわたしだったら、遠慮して断っていたと思う。


 でも、「一緒にお祭りに行こう」とオリバーに言ってもらえたことが、あまりにもうれしくて――。


「う、うん……」


 無意識に、わたしはコクンとうなずいていたのだった。

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