FILE06 オリバーとタリー

「オリバーだ! や、やばっ!」


 いじめっ子の一人が、そう叫ぶ。


 オリバー? あっ、彼がタリーのお兄さんか。


「君たちは、前にもオレの妹をいじめていたよな。そんなにもタリーのことが気に食わないのなら、オレたち兄妹に関わらなければいいじゃないか」


 オリバーはそう言いながら、こちらに歩み寄って来る。声を荒げてはいないけれど、強張こわばったその口調から彼の怒りがありありと感じ取れた。


 風になびくたびに輝く、黄金色こがねいろの髪。

 サファイアの宝石のような青い瞳。

 透き通る雪のように色白の肌。


 まるでアイドルみたい、という表現が安っぽく感じるほど、エレガントな風格がオリバーには漂っている。


 彼も妹のタリーに付き合って、人間とそっくりなプレアデス星人(だっけ?)のコスプレをしているのか、赤いマントを羽織って王子様のような服装だった。


 本物の王子様がオリバーと並んで立っても、きっと王子様のほうが見劣りしてしまうだろう。


「べ、別にわたしたち、タリーをいじめてなんかないよ? ね……ねえ、みんな?」


「うんうん!」


「ただ一緒に遊んでいただけだよ!」


 いじめっ子3人組は、慌ててそう弁解する。イケメンのオリバーに嫌われたくないからだろう。


 でも、オリバーは彼女たちの言うことをこれっぽっちも信用していないみたい。3人をギロッとにらんだ。


「ま……まずい。オリバーが怒ってる。みんな、逃げるわよ!」


 オリバーににらまれてビビった3人組は、すたこらさっさーと逃げ去った。


 ここで逃げたら、「わたしたちはタリーをいじめてました」って認めたことになるけど、いいんですかねぇ……。


「ねえ、君。大丈夫? ケガはしていない?」


 あっさり逃走したいじめっ子たちにあきれていると、オリバーがわたしに声をかけてきた。


「え? う……うん。平気。助けてくれて、ありがとう」


「そうか、よかった。あいつら、この前、妹をなぐったことがあるから心配していたんだ」


 オリバーはそう言うと、ニッと白い歯を見せてほほ笑んだ。


 あっ……。さっきまでは怒っていたせいでピリピリしていてちょっと恐かったけど、笑ったらガラリと印象が変わった。今はとても優しそうな顔をしている。これが本来のオリバーなのだろう。何というか、青空にふんわりと浮かんでいる白い雲みたいに、柔らかな雰囲気の人だ。


「わ……わたしなんかよりも、あなたの妹が突き飛ばされていたから、見てあげたほうがいいよ?」


「え? 本当⁉」


「う、うん。軽く小突かれていたていどだけど……」


 オリバーにじっと見つめられているのが恥ずかしくて、わたしはなるべく目を合わせないようにしながらそう言った。


 さっきから、顔が熱い。胸の鼓動こどうも速くなっているような気がする。

 熱中症? それとも、超能力を使って疲れたからかな……?


「タリー、ケガは?」


「どこもケガしてないよ、オリバー。あそこの超能力少女サイキックガールが助けてくれたし」


超能力少女サイキックガールだって? 彼女が?」


「そう! すごいんだよ? さっきの子たちを超能力でバビューン! って浮かしちゃったんだから!」


 タリーは両手をバンザイしながらピョンと飛び跳ねて、うれしそうに言った。


 ……あ、まずい。タリーには決定的瞬間を見られていたんだった。


 失敗した。さっきのいじめっ子たちと一緒に逃げればよかったよ。

 こんなカッコイイ男の子に「超能力を使うなんて不気味なヤツ……」なんて気味悪がられたら、落ちこみモードになって1週間ぐらい家に引きこもっちゃうかも。体にコケがたくさん生えて、わたし死んじゃう……。


ファンタスティックすごい! 手でふれずに物体を浮かすことができるなんて、カッコイイ! それって、きっと念動力サイコキネシスだよ!」


「え? ほめてくれるの? 気味悪がったりしな……って、わー⁉ わー⁉ わー⁉」


 パァッと目を輝かせたオリバーは、「ファンタスティック!」と叫びながら、わたしにいきなり抱きついてきた!


 な、ななななな⁉ 家族以外の異性とは手もつないだことがないのに!


 恥ずかしさで心臓が爆発しそうだよぉ~!


 お兄さん! 妹さんが見ている前で、そんなことしちゃっていいんですか⁉


「ファンタスティック! ファンタスティック!」


「ファンタスティック! ファンタスティック!」


「ほえぇぇ~!」


 タリーまで一緒になって、わたしに抱きつく。


 二人にがっしりとハグされたわたしは、パニックにおちいって目をグルグル回した。


 こ……これが、アメリカ流のスキンシップってやつ⁉


 だれか助けてぇーーーっ‼

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