FILE22 地下室にて
「ナナミ、昨夜は出かけなくて正解だったみたいだよ。新聞を見てごらん。いろんな事件があったみたいだ。
UFO
居間のソファーでくつろいでいるお父さんが、横に座っているわたしに笑いながらそう言った。
昨夜、11時前ぐらいにわたしたちは帰宅したけれど、パレードの見物に行っていた両親はもっと帰りが遅かった。
町の上空でUFOが飛んでいるのをたくさんの人たちが目撃して、みんなが車をとめて写真や動画を
「ほら見て、ナナミ。お母さんもUFOを撮っちゃった。さすがはUFOが落ちた町、ロズウェルねぇ~」
お母さんが、わたしにスマホの動画を見せてくれる。
……うん、まぎれもなくアロのUFOだ。
アロったら、あんな目立つ行動をとって、大丈夫だったのかなぁ~。
もしかして、クールそうな見かけによらず、おおざっぱな性格だったりする? 「急いでアレを見つけろ」とか、わたしに対するアドバイスもけっこうアバウトだし……。
「あれは本当にUFOだったのかなぁ。だれかが
自分の娘が
「……ねえ、お母さん。わたしのへその
わたしは、ちょっと
「ええ、大切に保管してあるわよ。どうしたの? 見たい?」
「う、うん……」
わたしは、お母さんが夫婦の寝室から持って来てくれた小さな箱を受け取り、箱の中に入っている「わたしとお母さんがつながっていた
ホッ……よかった。わたし、ちゃんと人間だよね。地球外生命体なんかじゃないよね。
――ナナミ、かっちょいい! UFOじいさんの小説に出て来るスターピープルの戦士みたいだね!
タリーの何気ない言葉が、昨夜からずっと頭から離れずにいたのだ。
でも、へその緒をちゃんとこの目で確認できて、安心した。
あはは。わたしが地球外生命体のはずがないじゃない。わたしは、ちゃーんと地球人である両親の間から生まれてきた人間なんだもん。
わたしがそんなことを考えていると、玄関でピンポーンとチャイムが鳴る音がした。
「ごめんくださーい」
あっ、オリバーの声。ロズウェル・ユニオンのみんなが来たんだ。
わたしは
「おはよう。オリバー、タリー」
「おはよう、ナナミ! UFOじいさんの話を聞きに来たよ。昨晩の疲れはとれたかい?」
「ナナミ、おはよぉ~! 朝のあいさつのむぎゅ~!(タリーがわたしに抱きつく)」
わたしとオリバー兄妹が玄関でわいわいおしゃべりしていると、ふと背後から視線を感じた。
チラリと振り向くと、お母さんとお父さんが
「ナナミが……日本の学校ではずっとボッチだったナナミが、もうお友達を作ってる! よかったわぁ……」
「お、男友達だと⁉ そんな……どうしよう……娘に悪い虫が……!」
お母さん、ありがとう。心配かけてごめんね。ちゃんと友達作れたよ。
あと、お父さん。オリバーに聞こえちゃうから、恥ずかしいことを言うのやめてもらえませんか?
「そういえば、アンドレは? 一緒に来なかったの?」
「あいつ、よく寝坊するんだよ。たぶん、ちょっと遅れて来ると思う」
「アンドレは、夜遅くまでAIのプログラミングの勉強をしてるからねぇ~」
わたしたちはそんな会話をしながら、家の地下室へと続く階段をおりていた。
ひいおじいちゃんは、午前中は地下室にあるフィットネス器具で運動をしていることが多いのである。
わたしがアメリカで暮らし始めて
アメリカ人たちは地下室に洗濯機や乾燥機を置き、冬に使う暖房器具をしまっておくための物置部屋にもしている。ひいおじいちゃんみたいにフィットネス器具を置いたり、卓球台とか置いて子供の遊び部屋にしたりしている人たちもいる。
地下と言ってもぜんぜんジメジメしておらず、カーペットやじゅうたんなどをしいて、とっても清潔な感じ。わりとくつろげる空間だ。
「UFOじいさん、おはよう。昨日の夜に約束した通り、話を聞きに来たよ」
「おお、オリバーたちか。……って、おまえ! なぁ~にさりげなくワシの可愛いひ孫の肩に手を置いておるのじゃ! もう付き合っておるのか、おまえたち⁉ チューしちゃったのか!」
「ちょ、ちょっと、ひいおじいちゃん! ドジなわたしが何もないところで転びそうになったから、オリバーが支えてくれただけだよ! 変なことを言わないで!」
わたしは顔をリンゴみたいに真っ赤にして怒った。オリバーは特に気にせずに、アハハハと穏やかに笑っている。
もぉ~! お父さんといい、ひいおじいちゃんといい、やめてよね!
「うわーん! ナナミがお嫁に行くなんて嫌じゃ~! 絶対に許さんぞ、オリバー!」
うわぁ……泣き出しちゃったよ……。
「UFOじいさん。そんなことばかり言っていたら、ナナミに嫌われちゃうよ?」
ひいおじいちゃんの
ひいおじいちゃんは「うぐぅ……」とうなり、ピタリと泣き止んだ。
オリバーは「これでようやく話が進められるね」と苦笑いして、本題に入った。
「昨日の夜にチラリと見せたけど、オレたち、トレイシーさんという人が住んでいた空き家で『ロズウェルの聖杯』と炎のペンダントを見つけたんだ。彼女が
ああ、そうだった。『ロズウェルの聖杯』とペンダントはみんなで話し合って、アンドレが管理することになったんだった。
でも、その
「ワシが鑑定しなくても、おまえたちはもう試したのじゃろ? たたいたり、切ったり、くしゃくしゃにしたり。それでいっさい傷つかず、元の形に戻ったのならば、それはまぎれもなく『ロズウェルの聖杯』じゃよ。そして、そのエンジンキーとやらは、ワシも似たようなものを75年前にスターピープルの女性から
「え⁉ UFOじいさんが、UFOのエンジンキーを持っているの⁉」
タリーが大きな目を輝かせ、
な……なんで、ひいおじいちゃんがそんなすごい物をスターピープルから預かっているの?
「これはアンドレの推理だけど……。UFOじいさんが大昔に出会ったスターピープルって、タリーがよく話しているプレアデス星人の女王じゃないのかな? そのスターピープルの女の人、自分のことを何か言ってた?」
オリバーがそうたずねると、タリーも「そろそろ、あたしたちに教えてよぉ~」とだだをこねるような口調で言った。
2人とも、真実を知りたくて、うずうずしているみたいだった。
「ひいおじいちゃん、お願い。オリバーたちに話してあげて? わたしも、だんだんスターピープルたちのことが気になってきたし……」
「うむ……そうじゃのう。続々とロズウェルにスターピープルたちが集まっているようだし、来るべき時が来たようじゃ。よし、話そう。……ナナミよ、気をしっかり持って聞くのじゃぞ」
ひいおじいちゃんは重苦しい声でそう言うと、75年前の出来事に思いをはせるような遠い目をして、ゆっくりと昔語りをはじめた。
「気をしっかり持て」という言葉が何だか引っかかったけど、ひいおじちゃんが重大な話をしようとしているので、わたしは
「……アンドレの推測通り、75年前にワシが出会ったのは、プレアデス星人の女王――プレアデス・クイーンじゃ。おまえたちが遭遇した鉄仮面のスターピープルは、おそらく彼女と敵対関係にある。ワシが彼女と出会ったのは、ロズウェルの町の北西に墜落したUFOを彼女が地球人に見つからないように隠そうとしている時であった――」
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