FILE21 アロ

「あっ! あれって、アロの船……わたしが空港の近くで遭遇したUFOだ!」


「マジかよ! 今夜はスターピープルが出て来るわ、UFOもあらわれるわ、すげえ日だな。もしかして、スターピープルたちもUFOフェスティバルのパレードを見物するために、たくさんこの町にやって来ているのか?」


 アンドレがそう言うと、クスクスという笑い声がわたしたちのすぐそばで聞こえた。


「まあね。そういうのん気な性格のスターピープルも何種族かいるのは事実だ。でも、ボクとあの鉄仮面の男はそんな平和な目的でここに来たわけじゃないよ。というか、君たち危なかったねぇ。あいつの言葉を最後まで聞いていたら、洗脳されてナナミと戦わされるところだったんだよ?」


「へ? あ……アロ‼」


 アロが、わたしとタリーの真後ろにいた。


「やあ、ナナミ。数日ぶり。引っ越した町でもう友達ができたのかい。よかったねぇ」


 アロは、テレパシーではなく、普通にペラペラとしゃべっている。


「いつの間に……。あっ、瞬間移動テレポーテーションか。と、唐突とうとつに背後から登場しないでよぉ~! 心臓に悪いから!」


「そんなにぷりぷり怒らないでくれよ。保安官に追いかけられていた時に、『瞬間移動テレポーテーションで逃げろ』ってテレパシーでアドバイスしてあげたじゃないか。ボクは、アイツを追いかけ回していていそがしかったんだからね? 残念ながら途中で見失って、とあいつを遭遇させてしまったけれど」


 灰色グレイの髪をかきあげながら、アロは悪戯いたずらっぽく笑う。


 やっぱり、あの時の声はアロだったんだ。


「そんなことより、地球人の君たち。あいつに宇宙船のカケラとエンジンキーを渡したら、絶対にいけない。あいつは、君たちの友達であるナナミの『敵』だからね」


 アロは、雷の直撃を受けてうずくまっている鉄仮面のスターピープルをにらみながら、そう言う。


「え? わたしの『敵』?」


 それってどういうこと? と、わたしは言いかけた。でも、その直前に、


「おのれ……。よくもやってくれたな。レティクル座の辺境からやって来たセレポ星人ごときが、このオレに勝てると思うなよ‼」


 鉄仮面のスターピープルがそう怒鳴り、うおおおお! と雄叫おたけびを上げながら立ち上がった。


 か、雷の攻撃をくらったのに、ぜんぜん平気っぽい⁉


「くらえ、セレポ星人!」


 仮面からのぞく瞳が、またもやピカピカッと赤く輝く。すると、


 ゴオオオォォォーーー‼


 たくさんの炎の矢が出現し、こっちに向かって飛んで来た。


 ち、ちょっと⁉ わたしたちまで巻きこまれちゃうじゃない!


 ていうか、みんなの先頭に立っているオリバーが、真っ先に丸焼けになっちゃう!


「そんなこと……させない!」


 わたしは、リュックから最後の炭酸ジュースを出して急いで飲もうとした。ところが――。


 ぽろり。


 ああーっ‼ 缶ジュースが手からすべり落ちたーーーっ‼


 こ、こんな時にポンコツが発動しなくてもぉ~‼


「くっ……。炭酸ジュースがなくっても、超能力を使ってみせる!」


 前にできたのだから、死ぬ気でチャレンジしたらできるはず!


 オリバーやみんなを助けるためだもん! がんばるのよ、すばる七美ななみ


「うわぁぁぁーーーっ‼」


 どうしたらいいのかわからなかったので、わたしはめいっぱい体に力をこめながら絶叫した。思いきりさけんだら、わたしのポンコツな脳が「何かピンチっぽい」と気づき、超能力を発動させてくれるかも知れないと期待したのだ。


 ビビッ! ビビビッ!


 来た! 頭に電流が流れた!


「……お願い、わたしの超能力! みんなを守ってぇーーーっ‼」


 ピカーーーッ‼


 わたしたちの前に、虹色に輝く光の壁が出現する。


 その壁は、オリバーに当たる直前だった十数本の矢を全て防ぎ、炎の矢は吹き消されたロウソクの火みたいにあっ気なく消滅していった。


「すげえ! もう超能力というより魔法だな!」


「日本のアニメでよくある魔法少女だ! 魔法少女ナナミちゃん!」


 オリバーとタリーの兄妹が興奮ぎみに叫ぶ。


 いや、わたしも自分のことながら、こ……これは……。


「……くそ。やはり75年の睡眠ぐらいでは、このていどの力しか出せないか。仕方ない、一時退却だ」


「そうはさせないよ? ボクの可愛いペットたち、敵を捕まえるんだ」


 アロがそう言って、指をパチンと鳴らす。すると、


「チュパ~!」


「チュパチュパ~!」


「チュパパーン!」


 ダークグリーンの体毛をした、子犬っぽい可愛らしい動物3匹がピョンピョン飛び跳ねてあらわれて、鉄仮面のスターピープルを包囲した。


 え? チュパチュパ言ってるけど、まさかあれがチュパカブラ? 鳴き声も見た目も、すごい可愛いんですけど?


「戦闘モードになれ」


 また、アロが指を鳴らす。そうしたら……。


「ぢゅばぁぁぁーーーっ‼」


 緑の子犬(?)たちは、いっせいに大型犬サイズに巨大化し、鋭い牙を2本生やした。

 体毛はダークグレイに変わり、背中にはトゲのようなものまでにょきっと出てきている。


「こ、こわっ! 一気におっかなくなった!」


「変身するなんて、ファンタスティックすごい!」


 ビックリしたわたしは、またもやタリーに抱きついた。でも、タリーは目を輝かせているみたいだ。オリバーとアンドレも「おお……! カッコイイ!」と喜んでいる。


「さあ、そろそろ観念したらどうだい。君はたしか瞬間移動テレポーテーションの能力がないんだったよね? 空にはボクの船、地上にはボクのペット。完全に包囲されている。宇宙船がない君は、もう逃げられないよ?」


「ぐ、ぐぬぬ……。75年の間に、ここまでセレポ星人が手強くなっているとは」


 鉄仮面のスターピープルが、くやしそうにうなる。


 勝負は決した、と思われたその時――。


「こらぁー! 君たち、空き家で何をやっている!」


「アンダーソン保安官! あそこに、チュパカブラっぽいコスプレをしたヤツが3人います!」


「さてはチュパカブラ騒動そうどうの犯人だな⁉ いくら祭りの最終日でも、空き家の庭で木を燃やしてキャンプファイヤーをしたらいかーーーん!」


「あっ! ほ……保安官、空を見てください! ゆ、ゆ、ゆ……UFOです!」


「UFOなんて放っておけ! われわれの仕事は、町の平和を乱す不審者ふしんしゃを捕まえることだ! 君たち、そこを動くなー!」


 アンダーソン保安官とその部下たち数人が、突然あらわれて、わたしたちを捕まえようとした。


「UFOを見てもいっさい動揺どうようせず、不審者のわたしたちを捕まえようとするなんて……素晴らしく職務に忠実な保安官っ!」


「ナナミ、感心している場合じゃないってば! あれはただの頭でっかちだよ! それより、瞬間移動テレポーテーションで早く逃げなくちゃ!」


 タリーに思いきりツッコまれた……。たしかに感心なんかしている場合じゃないみたい。


「やれやれ。こちらの愛らしいおじょうさんの言う通り、捕まってやっかいなことになる前に退却したほうがよさそうだね。敵にも逃げられちゃったし。高度な変身能力があるあいつのことだから、ネズミか何か小動物に化けて逃走したのだろう」


 アロが心底悔しそうに言った。


 見ると、チュパカブラたちに包囲されていたはずの鉄仮面のスターピープルの姿が消えている。わたしたちが保安官に気を取られている間に、すかさず逃げたみたいだ。


「ナナミ。ボクが、君の家まで瞬間移動テレポーテーションさせてあげるよ。ボクたちセレポ星人の瞬間移動テレポーテーションの移動可能距離はナナミの半分ていどしかないけど、まだ力が不安定でどこに飛んでいくかわからない君とはちがって、移動場所を正確にコントロールできるから」


「あ、ありがとう、アロ。……でも、あなたは何者なの? 地球を守る側のスターピープル? それとも……」


「長話をしている余裕よゆうはない。もう飛ばすからね」


「えっ、ちょっと!」


 わたしが慌てた声をあげると、アロは最後のメッセージをテレパシーでわたしにだけ伝えた。


 ――一刻いっこくも早く、ピュア・イーグルを見つけるんだ。前にも『早くアレを見つけろ』って教えてあげたのに、何をもたもたしているんだい。


「え? ピュア・イーグル? それ何⁉」


 そう疑問の言葉を口にした時には、わたしたちロズウェル・ユニオンはひいおじいちゃんの家の庭に飛んでいたのであった。


「アロのバカぁー! ちゃんと説明してよぉ~! 別れぎわに意味不明な単語を言われてもわかんないじゃーん!」


 ピュア・イーグル。やくすと、けがれのないわし? 何じゃ、そりゃ。


「あっ! おまえたち、いつの間に戻って来たのじゃ! なかなか帰って来ないから心配していたぞ!」


 わたしたち4人が庭でぼうぜんと立ち尽くしていると、ひいおじいちゃんが家から出て来た。


「UFOじいさん! あたしたち、たった一晩で2人のスターピープルと会ったよ!」


「何じゃと! それは本当か、タリー! 危ない目にはあわなかったか⁉」


「大丈夫さ。ナナミが、超能力でオレたちを守ってくれたからね」


 オリバーがわたしにウィンクしながら、そう言う。すると、アンドレも「ナナミは本当にすごかったんだ」とほめてくれた。


「そうなの! 鉄仮面の怪しいスターピープルが、目を赤く光らせて、あたしたちめがけて炎の矢を飛ばしてきたんだけど……。ナナミも同じように目をピンクに輝かせて、光の壁を作ってくれたの!」


 ずっとわたしのすぐそばにいたタリーが、ピョンピョン飛び跳ねながらそんなことを言った。


 え? あの時、わたしの目、光ってた?


「へぇ~、そうだったのか! オレはみんなの先頭に立っていたから、気づかなかったよ。パワーを使う時に目が光るなんて、カッコイイなぁ」


「うん! ナナミ、かっちょいい! UFOじいさんの小説に出て来るスターピープルの戦士みたいだね!」


 オリバーとタリーの兄妹は、無邪気にそう言い合いながら、わたしの肩をたたく。


 わたしは、「あはは。それほどでも……」と笑っていたけれど、内心はタリーの言葉に引っかかりを感じていた。


 わたしが、スターピープルみたい?


 いや……まさか、ね。さすがにそんなアンビリバホーな話はありえないってば。


 わたしは、バカな考えはすぐに頭の外へと追い出した。


「ふむ……。とうとう、来るべき時が来たか」


 タリーの発言を聞いたひいおじいちゃんが難しい顔をして何事かをつぶやいていたみたいだけど、子犬みたいにわたしにまとわりつくタリーの声にかき消され、わたしの耳には届かないのであった――。

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