FILE20 鉄仮面のスターピープル

 オリバーがトレイシーさんの手紙を読み終えると、わたしたちはしばらくぼうぜんとしていた。あまりにも不思議な話で、頭の処理がおいつかなかったのだ。


「タリー、これどう思う? この正義のスターピープルっていうのが、タリーの実のお父さんが出会ったことがあるプレアデス星人の仲間なのかな?」


 オリバーにそう問われ、タリーは腕組みをしながら「う~ん……どうなんだろう?」と迷いぎみに言う。


「あたしがパパから教えてもらったのは『そのプレアデス星人は、ゆくえが分からない自分たちの女王を探していた』ということぐらいなの。プレアデス星人が動物の姿に化けることができるとは聞いていないし……。ナナミはどう思う?」


「ほえ⁉ わ……わたし⁉ え、ええと~……。トレイシーさんの手紙には、正義のスターピープルのことを『彼』って書いてあったよね? だから、たとえこの手紙に書かれているスターピープルがプレアデス星人だったとしても、行方不明中の女王様ではないのはたしか……だと思うけど」


「ナナミの言う通りだ。だが、そのスターピープルがプレアデスの女王と知り合いだという可能性はあるな(メガネ、クイッ)」


 わたしたちは順番に発言して意見を交換した。でも、この手紙だけではくわしいことはわからない。


 ひとつだけハッキリしているのは、、地球を守る側のスターピープルと地球を侵略する側のスターピープルがいるらしいということだ。


 ……わたしが出会ったアロという少年は、どっち側のスターピープルなんだろう?


「UFOじいさんの小説にも、正義と悪のスターピープルが地球をめぐって戦う『スターピープルたちの大決闘』シリーズがあるよね。UFOじいさんは若いころにスターピープルの女性と出会ったことがあるってあたしたちに教えてくれたことがあったけど……。もしかして、UFOじいさんの小説って、実際にあったスターピープル同士の戦争を元にしたお話なのかも」


「あっ、そのスターピープルの女性の話、わたしもひいおじいちゃんから聞いた。すっごくキレイな人だったんだって。それ以上のくわしい話は、おしゃべりなひいおじいちゃんがどういうわけかあまり話そうとしたがらないから、よくわからないけど」


 タリーの発言でひいおじいちゃんから聞かされていた話をふと思い出し、わたしはそう言った。すると、アンドレが、哲学者を思わせる知的な瞳を光らせ、「ひ孫のナナミにもそうなのか……」とつぶやいた。


「実は、前から不思議に思っていることがあるんだ。UFOじいさんは、UFOやスターピープルについての面白い目撃談をボクたちにたくさん聞かせてくれるのに、自分の体験談だけはなぜか言葉数が少ないんだよ。『来るべき時が来るまでは、くわしいことは内緒ないしょなのじゃ』とか言って」


「ひいおじいちゃんがそんなことを? 来るべき時って、いつのことだろう?」


「それはボクにも分からない。……ただ、UFOじいさんが会ったっていうそのスターピープルの女性が、プレアデスの女王という可能性もあるんじゃないか? プレアデスの女王も、75年前に起きた悪のスターピープルとの戦いで傷つき、どこかに隠れているのかも知れないぜ」


 メガネをクイクイさせながら、アンドレはちょっと大胆だいたんな推理を披露ひろうした。


 オリバーは、その推理に満足したようで、「なるほど、さすがはアンドレだ。その説は面白いよ」と笑顔で言い、親友の肩を叩いた。


 わたしも、アンドレの想像力の豊かさに感心していた。AIロボットも作れるし、アンドレは本当にロズウェル・ユニオンの頼れる参謀だね。


「とにかく明日、トレイシーさんの手紙とスターピープルの持ち物を持って、UFOじいさんに何か知っていないか聞きに行こう。地球が悪いスターピープルに狙われていると知ったからには、放ってはおけない。……ねえ、ナナミ。今夜家に帰ったら、オレたちが明日来るって伝えてほしい――」


 オリバーがわたしのほうを振り向き、そう言いかけた。


 しかし、途中で驚愕きょうがくの表情を浮かべ、言葉をピタリと止める。


 え? どうしたの、オリバー? わたしの顔に何かついてる?


「ナナミ! 危ない!」


「ふえ⁉」


 わたしはわけがわからないまま、突然、オリバーに腕をつかまれて抱き寄せられた。


 むぎゅっと、わたしはオリバーの胸に顔をうずめる。


 な、ななななな‼ タリーとアンドレが見ている前で、何ということを⁉


 わたしが過去最大級のパニックにおちいりかけていると――。


 ゴオオオォォォーーーッ‼


 わたしの背後で、炎が激しく燃えるようなすごい音がした。


 おどろいて顔だけ振り向くと、庭の大きな木がごうごうと炎上していた。


「な、何が起きたの⁉」


「炎の矢が3本、いきなり飛んで来て、ナナミをおそおうとしたんだ。何だ、あれは? 魔法の矢か?」


 つまり、オリバーに抱き寄せられていなかったら、今ごろわたしがあの木みたいに丸こげになっていたってこと? ひ、ひいいぃぃぃ~!


 ――フン……。相変わらず、運のいいヤツだな。不意打ちでたおせると思ったのだが。


 わたしがおびえていると、ビビビッとテレパシーが伝わってきた。


 え? この声はアロ……ではない。アロから伝わってくる声は、もう少し友好的で穏やかな雰囲気だった。さっきの声は、とても冷たくて、わたしに対して強い悪意が感じられた。


「そこにいるのは、だれ⁉」


 わたしは、うっそうと草木が生えた庭のしげみの向こうをにらみ、声をふるわせながら叫んだ。


 すると、カサカサと草ずれの音がして、闇の中から1匹の犬があらわれた。


「……へ? 犬?」


 ワンちゃんが、わたしにテレパシーを送ったの?


「ちがう、こいつはコヨーテだ! なんでこんな町中に……。気をつけろ、おそってくるぞ! タリーとナナミは後ろに下がるんだ!」


 オリバーは鋭い声でそう叫び、サバイバル用ナイフを片手にみんなの先頭に立つ。凶暴なコヨーテを前にして、すごい勇気……。


 アンドレもわたしとタリーを自分の背中に隠し、足元に転がっていたちょっと太めの木の枝を拾った。


「コヨーテ、コワイ! 食ベラレル!」


「コーイウ時ハ、死ンダフリヨ! 機能停止シマース!」


 ジャンプとベッキーは慌てふためき、その場にこて~んとぶったおれた。……いやいや、機械が食べられるわけないってば。


 でも、これは本当にマズイよ。後ろでは大きな木が燃えていて、危なくて近くを通れない。完全に退路を断たれてしまっている。ど、どうしよう……。


「フッ……。オレがコヨーテだと? 炎の矢を放てるコヨーテなど、いるはずがないだろう」


「げげっ⁉ コヨーテがしゃべった!」


 オリバーが声をあげる。わたしも驚いた。この生き物は、テレパシーだけでなく、パクパク口を開いて人語をしゃべっているのだ。


「何度も言わせるな。コヨーテではない。オレはスターピープル……おまえたちが言うところのエイリアンというやつだ」


 コヨーテはいらだたしげにそう言うと、なんと2本足で立った。


 その直後、コヨーテの足元からゴーーーッ! と黒い炎が立ちのぼる。


 炎はあっという間にコヨーテをのみこんだ……かと思うと、ほんの3秒ほどでパッと手品みたいに消えてしまった。


 そして、炎が消えた後にそこに立っていたのは、1人の少年(?)だった。


 身長は、ロズウェル・ユニオンのメンバーで一番背が高いオリバーよりも少し上ぐらい。赤いフードをかぶり、顔にはコヨーテの顔をかたどった怪しげな鉄の仮面をつけている。


「コヨーテが、人間に変身しちゃった⁉」


「ちがうよ、ナナミ。たぶんこっちが本当の姿だよ。スターピープルが、コヨーテに化けていたんだよ。……もしかして、彼が、トレイシーさんの手紙に書いてあった『正義のスターピープル』じゃないの?」


 タリーがそう言うと、鉄仮面てっかめんの男は「その通りだ」と答えた。


「おまえたち地球人に危害を加えるつもりはない。オレは、トレイシー・トゥルーにあずけていた物を返してもらいに来ただけなのだ。つい数日前、まだ完全回復とは言えないものの、オレは75年の眠りから目覚めた。そして、彼女の家に行こうとしたが……敵対するスターピープルの操るモンスターどもに邪魔をされ、なかなかここにたどりつけなかったのだ。まさか彼女がすでに亡くなっていたとはな。再会できなくて非常に残念だ」


 どうやら、オリバーが手紙を読み上げている時に近くでこっそり盗み聞きしていたらしい。鉄仮面の男は、10代後半くらいの若々しい声で淡々とそう語った。仮面のせいで表情は読み取れないから、トレイシーさんの死を本心から悲しんでいるのかは判別できない。


 敵対するスターピープルの操るモンスターって……。

 もしかして、チュパカブラのこと?


 今夜、「チュパカブラを見た!」という目撃情報がたくさんあったらしいけれど、それって、この鉄仮面のスターピープルを追いかけていたエイリアン・モンスターのことだったのかしら。なんちゅう町さわがせな追いかけっこなんだ……。


「何はともあれ、それはオレの物だ。おまえたちが持っているその2つ――宇宙船のカケラとエンジンキーをオレに返してくれたら、いっさい危害を加えないと約束しよう」


 鉄仮面の男はそう言いながら、わたしたちに歩み寄って来る。


「ダメだ。それ以上、近寄るな。このウソつきめ!」


 オリバーが、声をあらげて怒鳴った。タリーやアンドレも、警戒態勢を解いていない。


「オレが、ウソつきだと?」


「ああ、ウソつきだ。オレたちに危害を加えないと言っておいて、ついさっきナナミを焼き殺そうとしたじゃないか」


「オリバーの言う通りだ。仲間を殺そうしたヤツの言うことなんて、信じられるものか」


「そうだよ! いくら地球を守ってくれる正義のスターピープルでも、やっていいことと悪いことがあるよ! ていうか、本当にあなたは地球人の味方なの⁉」


 タリーに問いつめられると、鉄仮面のスターピープルはフフッと笑い声をもらし、仮面の奥の瞳を急にピカピカと赤く光らせた。


「なるほど……。地球人の子供たちよ。おまえたちは、そこの女が何者なのか知らないまま、一緒につるんでいるのだな。ならば、教えてやろう。そこの女は悪の――」


 え? わたしが何なの?


 鉄仮面のスターピープルが、まるでわたしのことを前から知っているような言い方をしたため、わたしはきょとんとした。


 75年前からつい数日前まで地下のどこかで熟睡していたスターピープルと、13歳のわたしが知り合いのはずがないじゃない。彼は何を言い出すつもりなのだろう。


 わたしがそう思って身構えた直後――。



 ピカッ! ズババーーーン‼



 何の前触れもなく、いきなり雷が落ちてきたのだ!


 しかも、雷は、鉄仮面のスターピープルを直撃した!


 わたしとタリーは「ひええぇぇ‼」と驚き、ひっしと抱き合う。


「なんで急に雷⁉ 雨雲なんてなかったよね⁉」


「ナナミ、上を見て! あたしたちの頭上にUFOが!」


 タリーに言われて見上げると、銀色の輝きを放つ『空飛ぶ円盤』が上空に浮かんでいた。6つの黄色い大きなライトがピカピカと点滅している。


 あのUFOが、雷を落としたの⁉

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