FILE04 UFOフェスティバル

「ほえー⁉ ま、町がエイリアンたちに占領されちゃったぁーーー‼」


 わたしは大パニックになっていた。


 灰色や緑色の肌をした、大きな頭とアーモンド型の黒い目を持つ宇宙人――いわゆるグレイタイプのエイリアンが、ロズウェルの町を埋め尽くしていたのだ。


 あるエイリアンは、バイクに乗って「ヒャッハー!」とテンション高めに叫んでいる!


 4人連れのエイリアンたちは、赤のオープンカーを走らせ、ノリノリで歌を熱唱している!


 み……道ばたでツイストダンスをしているエイリアンまでいる……!


 どこにも普通の人間が見当たらない! みんな、エイリアンたちに殺されちゃったんだ!


「ひ……ひいぃぃ‼ ひいぃぃ‼」


 恐怖のあまり、わたしは「ひいぃぃ‼」しか言えなくなっていた。


 ――もしかしたら、明日の朝目覚めたら、この小さな町が悪いスターピープルたちに占領されておるかも知れんぞ?


 ひいおじいちゃんが昨日の夜に言っていたことが、本当になっちゃった! は、早くひいおじいちゃんに知らせなきゃ!


 わたしはきびすを返して、屋根が円盤型UFOの形をしている家に駆けこもうとした。


 でも、その前に――。


 パチパチ! パチパチ!


「はにゃにゃにゃ⁉ 炭酸ジュースを飲んでいないのに、頭がパチパチってなった!」


 次の瞬間、庭にいたわたしは、家の居間でくつろいでコーヒーを飲んでいたひいおじいちゃんの目の前に瞬間移動テレポーテーションしていた。


「ひいおじいちゃん、大変なの!」


「うわぁ、ビックリした‼ 瞬間移動テレポーテーションで急にあらわれるな、ナナミ。コーヒーを吹いてしまったではないか」


「そんなことを言っている場合じゃないってば! 町がエイリアンたちに占領されちゃってるの! 家の外は、エイリアンでいっぱいだよ!」


 わたしは、両手両足をバタバタさせながらそう訴えた。


 それなのに、ひいおじいちゃんったら、ワハハハハ! と大笑いしたのだ。


「なんで笑うの⁉ ひいおじいちゃんが言っていた通り、町がエイリアンに占領されたんだよ? 何とかして逃げ出さなくちゃ!」


「ちょっとは落ち着かんか、ナナミ。ちゃうちゃう、それは本物のエイリアンとはちゃう」


「ほえ?」


「今日から、年に一度のUFOフェスティバルなのじゃよ。ロズウェルでは、毎年7月に数日間にわたって、UFOのお祭りをするんじゃ。おまえが見たのは、スターピープルのコスプレをしている普通の人間たちじゃよ」


「え……? えええーーーっ⁉」


 な、なんだ。そうだったのか……。


 わたしは気がぬけて、その場にへたりこんでしまった。


 あ、あうう……。たしかにそうだよね。道ばたでツイストダンスをしているようなのが、地球を侵略しにきた恐ろしいエイリアンなわけないよね。冷静に考えたら、わかることじゃん……。


「ああ、もう! わたしったら、本当に救いようのないポンコツだよぉ~!」


 ポン! コツ!

 ポン! コツ!


 わたしは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら、自分の頭をたたいた。


「こらこら、そんなに気を落とすな。今日からUFOフェスティバルが始まることをうっかり言い忘れていたワシが悪いんじゃよ。だれだって、町中にスターピープルがあふれかえっていたらビックリするわい」


 ひいおじいちゃんは笑いをこらえながら、わたしの頭を優しくなでる。


「そうじゃ、ナナミ。お小遣いをあげるから、お祭りの見物に出かけてきたらどうじゃ?」


「え? 別にいいよ……。アメリカでのわたしの目標は『透明人間みたいにひっそりと、だれにも迷惑をかけずに生きる』ことだから。人がたくさんいるところには行きたくないもん。学校が始まるまで家に引きこもってるよ」


 というか、去年の小6の秋からずっと引きこもり生活送ってたし……。あんまり外に出たくない。


「おいおい……。アメリカの夏休みは長いんじゃぞ? ずっと引きこもっていたら、体にコケが生えるぞ?」


 こ、コケ⁉ アメリカで引きこもり生活をしていたら、体にコケが生えちゃうの⁉ 海外って恐い……!(作者注:生えません)


「近所には、UFOを見つけようと町を走り回っている悪ガキグループがおる。そいつらなら、ナナミとも気が合うじゃろう。オシャレして出かけて、友達を作って来なさい」


 UFOを追いかけている悪ガキグループって……。

 それって、わたしじゃなくてひいおじいちゃんと気が合うんじゃないの? わたしはそういう目立つことはしたくないんだけど。


「……友達を作っても、その子たちの前で瞬間移動テレポーテーションをうっかりしちゃったら、化け物呼ばわりされて仲間外れにされちゃうもん。どうせ嫌われるなら、最初から友達なんて作らないほうがいい。もう傷つくのは嫌だよ」


「その悪ガキたちだったら、おまえの能力を不気味がるどころか、目を輝かせて大喜びするはずじゃよ。さあ、いつまでもウジウジ言っていないで、UFOフェスティバルに参加してきなさい。絶対に楽しいから」


 ひいおじいちゃんはそう言って、くしゃくしゃのドル紙幣しへいを数枚くれた。


「むぅ~。嫌だって言ってるのにぃ……。でも、コケが体に生えるのは困るから、そこらへんをちょっと散歩して来ようかな……」


「へ? コケ? いや、さっきのは言葉のあやじゃぞ? ……あっ、行っちゃった」


 わたしは自分の部屋に行き、お出かけ用のワンピースに着がえた。そして、ボサボサだった髪の毛をちゃんとクシで整え、長い黒髪をシュシュでまとめて低めの位置のポニーテールにした。


 お父さんとお母さんは、長旅の疲れでまだ眠っている。わたしはひいおじいちゃんに「行って来ます」と言うと、散歩に出かけた。


「う~む。ナナミの瞬間移動テレポーテーションを初めてこの目で見たが、あの子はやはり……」


 ひいおじいちゃんが窓辺に立ち、出かけるわたしの後ろ姿を見つめながら何かつぶやいていたけれど、わたしはそのことにまったく気づいていなかった。

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