FILE25 ばけものの こころ

 昔語りを終えたひいおじいちゃんは、わたしにわしの翼のペンダント――UFOのエンジンキーを手渡した。ペンダントには、ピンク色に輝く宝石がはめこまれていた。


 あまりにも衝撃的しょうげきてきな話を聞かされ、わたしはぼうぜんとしている。オリバーとタリーも、ぽかんとしていた。


「どういう……こと? わたし、地球人じゃないの? スターピープル……つまり、地球外生命体っていうこと⁉」


「ナナミは地球人じゃよ。地球人の夫婦から生まれ、地球人として育った、れっきとした地球人の少女じゃ。……しかし、同時に、宇宙の平和を守ってきたプレアデス・クイーンの生まれ変わりでもある。このことをいつおまえに伝えるべきかずっと悩んでいたが、侵略者マイター・キングが復活した今こそが、その時だとワシは判断した。

 マイター・キングが正義のスターピープルなど、ヤツの真っ赤なウソじゃ。トレイシーさんという女性はだまされておったのだ。おまえこそが、宇宙の平和を守るスターピープル連合のリーダーなのじゃ。……ナナミよ。地球人の1人としてお願いする。前世から続くその使命を果たしてくれ」


「わたしの使命……。し、侵略者のスターピープルと戦えっていうこと……?」


 ひいおじいちゃんだって、ひ孫のわたしにこんな重たすぎる責任を押しつけるのは辛いのだろう。その瞳には悲しみの色が宿っているように見えた。


 でも、今のわたしは、ひいおじいちゃんの気持ちなんて気にしていられない。


 わたし、宇宙人の生まれ変わりだったの?

 そんなの……地球人から見たら「化け物」だよ。

 鈴木さんたちに化け物呼ばわりされても、仕方がなかったんだ……。


 そんなネガティブな思いが、わたしの頭の中でグルグルと渦巻うずまく。


 そして、「あんな恐ろしい鉄仮面のスターピープルと戦わなければいけないなんて、絶対に嫌だ」という恐怖心がわたしの心を支配していた。


「む……無理だよ。わたしに、そんなことできるわけがない。宇宙の平和なんて守れないよ」


 わたしは声をふるわせ、そう言った。

 すると、「無理ではないさ。君1人が戦うわけじゃないんだから」という声が背後でした。


 おどろいたわたしたちが振り向くと、アロがビリヤード台で玉突きをして遊んでいた。


「あ、アロ……。あなたは、75年前にロズウェルに墜落したスターピープルの息子だったのね」


 わたしがそう言うと、ひいおじいちゃんが「アロじゃと? おお、彼がセレポ星人カルタカの子供か」と感動したようにつぶやいた。


「ああ、そうさ。そして、ボクがセレポ星人の新しい代表者だ。前の代表者だった父カルタカは、ボクの脳内にロズウェル事件に関する多くのデータや記憶をテレパシー能力でたくして、15年前に亡くなった」


「だから、あなたのお父さんが捕まっていたアメリカ軍の格納庫のことを知ってたんだ……」


「ナナミ。いや、プレアデス・クイーン。ボクたちセレポ星人や他のスターピープルたちが、われわれのグループのリーダーである君をちゃんとサポートする。

 副リーダーだったわが父カルタカは、『そろそろプレアデス・クイーンが復活してもおかしくない時期だ。まだ転生していなくても、あと数年の内には必ずこの世界に帰還する。息子のおまえが、父になりかわってクイーンを補佐してくれ』と言いのこしてった。父の命の恩人である君を、ボクは絶対に裏切らないと約束する。だから、安心してわれわれのリーダーの座に復帰してくれ」


 75年前にアロは赤ちゃんだったらしいけれど、どう見ても10代前半の少年にしか見えない。


 でも、わたしへの忠誠を誓う彼の声はとても大人びていて、アロが長い年月を生きて精神的に成熟していることを裏付けているように思えた。


「そういえば……他のプレアデス星人はどうなったの? あたしのパパが出会ったプレアデス星人は、プレアデス・クイーンを探していたらしいよ? 14年くらい昔の話だけど」


 急展開すぎるこの事態にも、スターピープル大好きなタリーの頭はついていっているようだ。興味津々といった感じで、アロに聞いた。スターピープルと初めて口をきくのに、まったく恐がっていない。


 アロは、そんな物怖ものおじしないタリーのことを気に入ったのか、ニヤッとほほ笑んで丁寧に説明をした。


「さっきタケオが言っていたように、プレアデス星人は前世の記憶を失って転生する。そして、あるていどの年齢まで成長しないと、前世の記憶を取り戻せないらしい。おそらく、タリーおじょうさんの父親が出会ったというプレアデス星人は、前世の記憶を思い出してクイーンのゆくえを探していたのだろう。そのプレアデス星人の現在の生死は、ボクにもわからないけれどね。途中まで記憶を取り戻せないせいで、まとめ役の女王がいないと彼らは単独行動になってしまうことが多いから」


「そっか……。パパが出会ったプレアデス星人も地球侵略を狙うスターピープルたちと戦っていたんだもんね。戦死している可能性もあるんだ……」


「ナナミが女王に復帰したら、彼らプレアデス星人はナナミの元に自然と集まるはずさ。そんなに心配しなくていい。それよりも今は、75年前にプレアデス・クイーンがロズウェルの北西に隠した宇宙船を見つけるのが先決だ。……わかったかい、ナナミ?」


 わたしが青い顔でずっとだまりこんでいるのが心配になったのか、アロがわたしの顔をのぞきこんできた。クールそうに見えて、心の優しい宇宙人なのだろう。


 ……他人を気遣う心を持った彼が人間じゃないなんて、信じられない。


 わたしだってどこからどう見ても人間……のはず。


 なのに、わたしとアロは、鈴木さんや学校のみんな……そして、面白おかしくわたしのことを記事にしたマスコミの人たちが言うところの、


 化け物‼


 なのだ。


 超能力を持つわたしのことをみんなは化け物あつかいした。


 だったら、人間ですらない今のわたしは何?


 化け物どころか、もっともっと恐ろしい怪物あつかいをされるに決まっている。


 どんなに人間らしく振る舞っても……。

 わたしはこれから「怪物」であることを必死に隠し、みんなにばれる日が来るのをビクビクおびえながら生きていかないといけないのだ。


 宇宙の平和のために戦う?

 地球人たちを悪いヤツらから守る?


 その「地球人」たちの中には、わたしをいじめた人たちが入っているんでしょ?

 冗談じゃないよ!

 わたしの給食のパンに石が入れられていた時のことを、今でも夢に見るんだよ⁉ あれは、鈴木さんかその友達がしたにちがいないんだから!


 わたしのことをいつ迫害はくがいするかもわからない人たちのために、正義のヒーローなんてやっていられないってば……!


「……わたしは、プレアデス・クイーンになんかなりたくない‼」


 わたしは涙を流しながら、ケモノが吠えるようにそう叫んでいた。


 わたしは普通がよかった。

 それがダメなら、だれにも注目されない透明人間になりたかった。


 人間は、自分とちがう人間を、バカにする。傷つける。追いつめる。

 地球を守るために戦っても、地球人たちに正体がばれて怪物呼ばわりされる未来しかわたしには見えない。


 こんなネガティブな考えで頭がいっぱいなわたしが、宇宙の平和を守るだなんて無理に決まっている。


 どうせわたしは化け物だもん。化け物は、心の中も化け物なんだよ。地球が侵略されようが、知ったこっちゃないよ……。


 わたしは、完全にネガティブモードになって、泣きじゃくった。


「う、う……。ぐすん、ぐすん……」


「ナナミ……。おおまかな話は昨日聞いたけど、日本でそんなにも辛い目にあっていたんだね」


「パンに石を入れるなんて、ひどすぎるよ……」


 オリバーとタリーが沈痛な面持ちで、そう言った。


 え……?

 もしかして、わたしの心の声が聞こえていたの?

 わたし、ものすごく性格の悪いことを心の中で叫んでいたのに、ぜんぶ聞かれていたってこと……?


「まさか、わたし……。無意識に、アロがやっていたようにテレパシーを使っていたの?」


「ナナミ。これまでの君は、力の覚醒かくせい中途半端ちゅうとはんぱだったせいで、炭酸ジュースで脳を刺激するというユニークな方法でしか力が発動しなかった。

 しかし、前世の自分が最期を迎えた土地であるロズウェルに戻って来たことによって、君は少しずつパワーを取り戻しつつある。ちゃんとコントロールしないと、力が暴走する可能性があるから気をつけたほうがいい」


 アロにそう指摘されて、わたしは知らないうちにテレパシーを使っていたのだと確信した。


 つまり、「地球がどうなろうが、知らない!」なんてすごく性格の悪いことを考えていたのも、オリバーとタリーには筒抜つつぬけだったんだ。2人も「地球人」なのに……。


 ああ、ダメだ。わたし、きっと2人に嫌われちゃったよ。こんな性格が最悪で自分勝手なわたしなんて、嫌われて当然だけど。


「バカなことを考えるなよ、ナナミ」


「そうだよ。あたしたちがナナミを嫌うわけが――」


 ま、また心の声を聞かれてる⁉


 ダメだ、ダメだ、ダメだ!


 根暗でポンコツでいじけまくりなわたしの心の声なんて、聞けば聞くほどわたしの印象が最悪になるよ!


 わたしは、怪物だから。ダメな女の子だから。化けの皮がはがれたら、だれにも好かれるはずがないもん。


 わたしみたいな、ダメで、ダメで、ダメな化け物は、ダメダメなんだもん‼


「い……嫌! わたしの心の声を聞かないで! 嫌いにならないで!」


「な、ナナミ!」


「待って!」


「どこへ行く気だい⁉」


「ナナミや、少しは落ち着け!」


 わたしは泣き叫びながら、瞬間移動テレポーテーションする。


 オリバーとタリー、アロ、ひいおじいちゃんが、わたしに手を伸ばした。


 ぐきぃ~っ‼


「あいたた! 急に動いたものだから腰が……。な、ナナミぃ~! わ……ワシ以外はみんなどこかへ行ってしもうた……」

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