FILE24 1947年7月、ロズウェル・後編
大雨の中、オレは車を走らせた。
オンボロ車はぬかるんだ道でスピードがほとんど出ず、思うように進めない。プレアデス・クイーンは「足の速いあの男がわたしを
「おや……? あんなところにコヨーテがいる。嵐の中で何をやっているんだ?」
小さな岩山の上からオレたちを見下ろしている1匹のコヨーテを発見して、オレがそうつぶやいた。すると、クイーンは、
「しまった! やっぱり追いかけて来た! タケオ、炎の矢に気をつけて!」
と、
オレが「へ?」とマヌケな声を出した次の瞬間――コヨーテの目が赤く光り、矢の形をした炎が3本飛んで来た。
ほぼ同時に、クイーンも手をかざして光の玉をコヨーテめがけて飛ばす。
光の玉がコヨーテを吹っ飛ばした直後、炎の矢もオレの車に命中し、大爆発を起こした。
「う、うわぁぁぁ‼ …………あれ? 生きてる? それとも、ここは天国か?」
「安心して。タケオは生きていますよ。よくまわりを見てください」
どうやら、オレたちは、爆発が起きる直前に、車から少し離れた場所に移動していたらしい。これが、クイーンが言っていた
「い……いったい何だったんだ?」
オレはオロオロしながら岩山を見上げる。しかし、すでにコヨーテの姿はなかった。
「さすがはマイター・キング。まだ炎の矢を出す力がありましたか。しかし、彼もさっきのわたしの攻撃でだいぶ弱ったはずです。もうおそってこないでしょう。……タケオ、ケガはありませんか?」
「あ、ああ……。というか、あんたのほうこそ大丈夫なのか。さっきよりも顔色が悪くなっているぞ?」
力を使ってしまったクイーンは肩で息をしていて、とても辛そうだった。
「仲間のカルタカを助けに行かなければいけないのに……体が自由に動きません。彼には、生まれたばかりのアロという息子がいるのです。カルタカが死ねば、アロやその母親が悲しむことでしょう。早く行かなければ」
「お、おい。そんなフラフラじゃ無理だってば。雨をしのげる場所を探して、少し休もう」
オレはクイーンをおんぶして、しばらくあたりをウロウロ歩き回った。
そして、古びた小屋を発見し、そこでクイーンの体を休めさせた。
……で、くたくただったオレも、一緒に眠ってしまった。
気がついたら、翌日の昼だった。
雨がやみ、クイーンの体調も少しだけ回復したので、オレは彼女をまたおんぶして、セレポ星人の船が墜落した場所をめざして歩きだした。
だが、オレたちが到着する前に、事態は急変してしまったのだ。
「……カルタカからテレパシーで連絡が入りました。今朝、民間人たちに見つかったそうです。通報を受けたアメリカ軍がすぐに駆けつけ、宇宙船の残がいと遺体は回収されてしまいました。もちろん、生存者のカルタカも」
「な、なんだって⁉」
どうやら、オレたちが眠っている間に大変なことになっていたようだ。
これは後で知ったことだが――この時、アメリカ軍は、ロズウェルの町に一番近い地点に墜落したセレポ星人の船の回収と事実の
牧場の管理人のマック・ブラゼルが牧草地に散らばる金属片の処理に困って、ロズウェルの町に行って保安官に相談し、その保安官からの通報を受けたアメリカ軍が宇宙船の破片を回収するのには、数日の時間がかかった。
軍にとって都合が悪かったのは、マック・ブラゼルがこの円盤墜落事件をマスコミにしゃべってしまっていたことだ。そのせいで、地元の新聞は大騒ぎした。大きく出遅れてしまった軍は「フォスター牧場に落ちたのは気球です。空飛ぶ円盤ではありません」と発表して、事実を隠すのに苦労することになった。
……少しわき道にそれてしまったようだな。話を戻そう。
クイーンは「何とかしてカルタカだけでも助けなければ……」とつぶやいた後、しばらく考え込み、やがてオレにこう言った。
「軍は、ロズウェルの町の南方にある基地へ船の残がいとセレポ星人を運ぶはずです。すみませんが、急いでロズウェルへと向かってくれませんか」
「よ、よっしゃ! 任せておけ!」
オレはいきおいこんで首をたてに振った。
だが……ここからだと、ロズウェルの町まで徒歩でほぼ1日はかかる。
炎天下の中を数時間がんばって歩いたものの、ついにオレは体力切れでぶったおれてしまった。
「タケオ、ごめんなさい。わたしのために……」
「す、少し休んだら動けるようになるさ。絶対にあんたを町まで連れていくから、心配するな。……でも、このままだとあと半日はつきそうにないな。どうしたものやら……」
オレがそう言って悩んでいると、そこで天の助けがあった。
馬に乗ったカウボーイと偶然出会ったのだ。
ニューメキシコ州は、牧草地が多い。だから、牧場を管理しているカウボーイとバッタリ会うのなんて、冷静に考えたらそんな珍しいことではないのかも知れない。
しかし、その時のオレには、本物の奇跡のように感じられたんだ。
「すまないが、あんたの馬を貸してもらえないか。この女の子が急病で、町まで連れていってやりたいんだ」
オレがそう頼みこむと、そのカウボーイは
「少年。何があったのかはわからないが、軍のトラックがあちこち走り回っているぜ。気をつけろよ」
彼は、そんな忠告まで親切にもしてくれてた。
オレはカウボーイに感謝した。だれかにこんなにも心の底から感謝するなんて、いつ以来だろう……。人とのひとつひとつの出会いを大切にする気持ちとは、こういうものなのだろうと思った。
「行くぜ、クイーン。オレの背中にしっかりつかまっていろよ」
オレは馬を飛ばして、ロズウェルの町へと向かった。
そして、カルタカから「自分は今、軍の基地の格納庫にいる」というメッセージがクイーンに届いた2時間後、オレたちは町に到着した。
「タケオ、本当にありがとう。わたしは大昔、日本の人たちと一緒に暮らしていたことがありましたが、わたしはあなたみたいな勇気と優しさを持ったサムライが好きですよ」
「ふへへ。サムライだなんて、ほめすぎだぜ」
「わたしは今から最後の力を使い、軍の基地にいるカルタカを救い出します。わたしと一緒にいるところを兵士たちに見られたら、あなたの身に危険がおよぶかも知れませんので、ここでお別れしましょう」
「そんな水臭いことを言うなよ。最後まで、ちゃんと付き合うよ。あんたの力になりたいんだ」
「そこまで言ってくれるのなら……別の大切な役目をあなたにお願いしてもいいでしょうか?」
「別の大切な役目? それは何だい」
「5、60年後にあなたの子孫として生まれ変わりたいのです。わたしがあなたの孫かひ孫として生まれてきたら、これを転生したわたしに渡してください。わたしは前世の記憶を失っていますが……」
クイーンはそう言うと、オレに
「生まれ変わるって……。あんた、そんなすごいこともできるのか⁉」
「プレアデス星人の魂は不滅で、
「マジでか……。わ、わかった! オレの子孫にあんたみたいな美少女が生まれてきたら、あんたの生まれ変わりだと思えばいいんだな! それまで、ちゃーんとこのエンジンキーは
オレが自分の胸を
その2時間ほど後――。
――無事、カルタカを救出できました。ありがとう、タケオ。力を使い切ったわたしの肉体は消滅しつつあります。数十年の魂の休養が必要なので、わたしの魂はいったんこの世界から「去る」ことになります。あなたの子孫として生まれてくることを楽しみにしていますね。
そんなクイーンからのテレパシーが、オレに届いた。
オレ……いや、ワシは、クイーンとの約束通り、UFOのエンジンキーを大切に守り続けた。
あれから75年たって、ようやくクイーンからの預かり物を返すことができる。
さあ受け取れ、ナナミ。この鷲の翼のペンダントは、おまえのものじゃ。
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