FILE26 メン・イン・ブラック

「しまった! はさちにされた!」


「ようやく追いつめたぞ、小僧」


「さあ、手に持っている物をこちらに渡せ」


「い、嫌だ。これはボクたちロズウェル・ユニオンが見つけた、『ロズウェルの聖杯』とUFOのエンジンキーなんだ。おまえたちになんか、渡してたまるか!」


「チッ。大人しく言うことを聞いていたら、痛い目にあわなかったものを……。腕の1本や2本、へし折られても文句は言うな……ぐべぇーーーっ‼」


 え? 何かんだ?


 わたしたちは、どこかはわからないけれど、家の外に瞬間移動テレポーテーションしていた。


「どこだ、ここは? ……アンドレの家の近所みたいだな」


「あたしたち、だれか知らないおじさんを踏んでるみたいだよ?」


「どうやら、この黒服の男の頭上に移動してしまったようだね」


 オリバーとタリー、アロがきょろきょろ見回しながらそんなことを言っていると、


「気をつけろ、みんな! こいつらはメン・イン・ブラックだ! ボクたちが手に入れた『ロズウェルの聖杯』とエンジンキーをねらっている!」


 アンドレが鋭い声で叫んだ。


 見ると、アンドレを挟んだ向こう側に、わたしたちの足元で気絶している黒服の男と同じ服装をした人がいた。突然あらわれたわたしたちを驚愕きょうがくの表情で見つめている。


「なんだ、貴様らは? いきなり空から降って来て、怪しいヤツらめ……。さては、昨夜この町に出没したというエイリアンだな⁉ 人間の姿に化けているのだろ? 答えろ! さもないと、攻撃するぞ!」


 案の定、メチャクチャ警戒されている。


 でも……。

 黒い帽子ぼうしに、黒いサングラス、黒いスーツ、黒のネクタイ、黒の革靴かわぐつ

「真夏なのに暑くないんですか?」と聞きたくなるような服装で、向こうだって怪しさがはんぱないと思う。


「うわっ、本物のメン・イン・ブラックだ! なんてこった、実在していたのか! アンドレは、こいつらに追いかけられていたせいで、ナナミの家になかなか来なかったんだな? 連絡してくれたら、助けに行ったのに!」


 オリバーが興奮しながらそう言うと、アンドレは「いや、全力で逃げていたから、電話なんてする余裕よゆうなかったし」と手を振る。


 え、ええと……。何がどうなっているのかチンプンカンプンだけど、アンドレが黒服の男2人におそわれていてピンチ……ってことでいいの?


「あの……。メン・イン・ブラックって、たしか映画の話だったんじゃ……」


 わたしがオロオロしながらそう言うと、オリバーが「メン・イン・ブラックという組織は、あの有名な映画が作られる前から、あちこちで実際に目撃証言があったんだよ」と説明してくれた。


「UFOやスターピープルに関する事件が起きた時、その目撃者の前に黒ずくめの男たちがあらわれて、『おまえが見たこと、経験したこと、すべてを忘れろ。命がおしいのなら、だれにも言うな』と脅迫きょうはくするらしい。それが、実際のメン・イン・ブラック。またの名をブラックメンだ」


 UFOの目撃談とかが広まらないようにいんぺいしている人たちってこと?


 映画だと正義のヒーローっぽかったけど、何だかちょっと恐いかも……。


 ――どうやら、君たちが宇宙船のカケラを手に入れたことをいち早く察知して、うばいに来たようだ。気をつけろ、ナナミ。ボクたちセレポ星人の調べでは、彼らブラックメンはアメリカ政府の秘密組織だ。彼らは、ボクたちスターピープルの技術力の高さを恐れて、ボクたちと互角ごかくに戦える宇宙船を手に入れようとしているんだ。


 アロが、テレパシーでわたしにそう伝えた。ブラックメンたちの前で「セレポ星人」とか「宇宙船」という単語をなるべく使いたくなかったのだろう。


 ――え? でも、わたしたちのグループは、マイター・キングから地球を守っている側なんでしょ?


 ――敵か味方かなんて、地球人の政府には見分けがつかないさ。75年前、彼らアメリカ軍は、自分たちの力をはるかに超えるプレアデス・クイーンとマイター・キングの大決戦がロズウェル上空で行われているのをレーダーなどで察知してはいたが、戦力差があまりにもあって手出しすることができなかったんだ。「よくわからないヤツらが、自分たちの国の上空で星間戦争スターウォーズをやっていた。自分たちも強力な宇宙船を手に入れなければ、エイリアンに侵略されてしまう」という認識しか彼らにはないんだよ。


 などと、わたしとアロがテレパシーで会話をしていると、


「おい! オレを無視するな! 何も答えられないということは、やはりエイリアンだな⁉ これでもくらえ‼」


 ビリビリビリーッ‼


 アンドレを挟んで向こう側にいたブラックメン(仮にブラックメン1号)が、わたしたちに向けてじゅうを撃ってきた!


 しかも、ただの銃じゃない⁉ び、ビームだ! 光線銃なんて、映画でしか見たことないよ!


「ボクに任せてくれ」


 アロが手をかざし、目をピカピカッと黄色に輝かせる。すると、手のひらから黄金の光線が放たれ、ブラックメンが撃ったビームを打ち消した。


「手からビームを出しただと……? やはり、貴様らはエイリアンか!」


 ブラックメン1号が、おどろきの声をあげる。


 アロはアロで、ブラックメンの兵器に少しビックリしているようだった。


「あんな武器、地球人が持っているとは知らなかった。どうやら、地球人たちもスターピープルと戦うためのあるていどの準備はこの75年の間にしてきたようだね。やれやれ、ちょっと厄介やっかいだな」


 アロが小声でそうつぶやいた直後、足元からビームが飛んで来た。


 し……下敷したじきにしていたブラックメン(仮にブラックメン2号)が、意識を取り戻したんだ!


 ビリビリビリーッ‼


 ビームは、わたしとオリバー、タリー、アロに命中した。


「か……体から力がぬけて……う、動けない」


「しまった、油断した……」


 わたしとアロが、ドサッとたおれた。


 オリバーとタリーは平気みたいで、何が起きたのかわからずにぼう然としている。


「おまえたち、いつまでオレの上に乗っているんだ。さっさとどけ!」


 体格のいいブラックメン2号はそう怒鳴り、立ち上がった。オリバーとタリーは尻もちをつく。


「このガキ2人が、エイリアンだったか」


 ブラックメン2号が光線銃の銃口じゅうこうをわたしとアロに向けながら、そうつぶやく。


 オリバーが怒り、「2人に何をした!」と叫んだ。


「この光線銃は、普通の地球人の脳には害がない。だが、地球人よりもはるかに発達した脳を持つエイリアンどもがビームをくらうと、脳に大きなダメージを受け、一時的に弱って超能力が使えなくなるのだ」


 ブラックメン2号はニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、光線銃について解説した。


 すると、ブラックメン1号が舌打ちして、「ガキどもに余計なことをベラベラしゃべるな」と相棒あいぼうしかった。


「後で、催眠術さいみんじゅつで記憶操作するんだ。別にいいじゃないか」


「うるさい、だまれ。勝手な行動を取るな。……念のために、そいつらにもう一発撃って完全に弱らせるんだ。捕まえて帰る途中で、エイリアンの化け物どもが暴れたら困るからな」


 ブラックメン1号のほうが立場が上なのか、2号にそう指示をする。


 1号は、わたしたちがビームに驚いている間に、アンドレの腕をねじり上げて拘束こうそくしていた。『ロズウェルの聖杯』と炎のペンダントも、奪われてしまっている。


「……そうだな。人間に化けてはいるが、こいつらは宇宙からやって来た怪物だ。慈悲じひなどかけてやる必要はない」


 ブラックメン2号がそう言い、クックックッと笑う。


 化け物……。怪物……。


 あはは……。こんな遠いに国に引っ越して来ても、わたしはやっぱりモンスターあつかいなんだね。そりゃそうだ、わたしは正真しょうしん正銘しょうめいの化け物だもん。


 わたし、この人たちに捕まったらどうなるのかな?


 UFO博物館に展示されていたエイリアンみたいに、解剖かいぼうとかされちゃうのかな?


 それとも、超能力を戦争か何かのために利用されて、用済みになったら殺されるのかな?


 ……どっちにしても、わたしみたいにみにくい心を持った化け物にはお似合いの死に方かも。


 わたしが完全にあきらめかけていたその時――。


「ナナミが化け物だって? 怪物だって? ……ばっかやろう‼ ふざけるな‼」


 オリバーが、あらん限りの大声で怒鳴っていた。

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