FILE13 可愛い子には旅をさせよ

 その日の午後8時45分。

 わたしは、動きやすいようにワンピースからシャツとデニムパンツに着がえ、家をこっそりと出ようとしていた。


 背中に負っているリュックサックには、炭酸ジュースが3本入っている。

 超ピンチな時には炭酸ジュースなしで能力が発動するものの、わたしがそうとう「ヤバイ!」「もう怒った!」と感じないとダメらしい。昼間に何度か試したけど、炭酸ジュースを飲まないと超能力は使えなかった。

 だから、超能力でみんなの力になるためにも冷蔵庫にあるだけ持ってこようと思ったの。

 ……でも、やっぱりわたしはポンコツだ。午後にやった超能力の特訓で、ひいおじいちゃんがたくさん買いだめしていた炭酸ジュースをがぶがぶ飲んだことをすっかり忘れていた。残っていたのは、たった3本だけ。残念無念だよ。トホホ……。



 お父さんとお母さんは、あれからいったん家に帰って来たけれど、午後9時から始まるUFOフェスティバルのパレードを見物するためにまた出かけていった。

 今回も「ナナミも一緒に行こうよ」と誘われたけれど、「眠たいから」と言って断った。


 お父さん、お母さん、ごめんね。

 今度、3人で出かけようね。


「たしか、オリバーたちの作戦決行は、パレードが始まって保安官たちの町のパトロールがいそがしくなる午後9時だったはず。もう15分ぐらいしかないから、そろそろ出発しなきゃ」


 わたしは、そろ~り、そろ~りと玄関まで歩き、音を立てないようにドアを開けた。


 ひいおじいちゃん、行って来ます。

 さすがのひいおじいちゃんも、ひ孫が夜に1人で出歩くのは止めるだろうし、こっそり出かけるね。


「ほほう、9時から作戦決行か。だが、今から歩いて行っても、たぶん間に合わんぞ」


「ぎゃーーー⁉ ひ、ひいおじいちゃん⁉」


 庭に出ると、ひいおじいちゃんが待ち受けていた。ビックリしたわたしは飛び上がる。


「な、ななな何の話? わたし、どこにも行かないよ?」


「そんなあからさまに目を泳がせていたら、ウソだとまるわかりじゃぞ? ……それよりも、ナナミよ。この町に引っ越して来たばかりなのに、銀行がどこにあるのか知っておるのか」


「え? あっ……。そういえば、わたし知らない」


「やっぱりか。銀行がどこにあるのか知らないまま出かけようとしておったのじゃな、このポンコツ娘は」


「あうあう……。ひいおじいちゃん、お願い! 銀行の場所、教えて!」


「教えてやってもよいが、歩いたら30分くらいかかるから、足の遅いナナミでは9時には間に合わんぞ。こうやって話している間に、もう3分たったしな」


「え⁉ あと12分⁉ そ、そんなぁ~!」


「安心しなさい、ナナミ。ワシが車で近くまでつれていってやろう。車なら5分以内に着く。さあ、乗りなさい」


 ひいおじいちゃんは、わたしが背負っているリュックをポンとたたいた。


 庭を見ると、ひいおじいちゃんの真っ赤なスポーツカーがとまっている。


「いいの、ひいおじいちゃん? お父さんとお母さんにこんなことが知られちゃったら、わたしだけじゃなく、協力してくれたひいおじいちゃんまで怒られちゃうよ?」


「『可愛い子には旅をさせよ』と言うじゃろ? ワシは、ナナミのことがめちゃんこ可愛いから、喜んで旅をさせる! 子供は大人に心配をかけるぐらいワンパクなほうが、ちょうどいいんじゃよ。新しくできた友達と冒険を楽しんで来い」


「ひいおじいちゃん……。ありがとう! 大好き!」


 わたしは、ひいおじいちゃんに抱きついた。


 ひいおじいちゃんは、でへへぇ~とだらしない顔で喜んでいる。


「ナナミ! ナナミ! ほっぺにチュー! ほっぺにチューをしてくれ!」


「……あっ、大変! こんなことをしている間に、また2分たっちゃった。ひいおじいちゃん、早く出発しようよ!」


 ひいおじいちゃんの腕時計を見たわたしは、あわててそうさけんだ。

 ひいおじいちゃんは「う、うむ。そうじゃな」となぜかちょっと残念そうな声で言う。


 オリバー! タリー! アンドレ!

 すぐに行くから、待ってて!








「そこの赤い車、止まりなさーい! スピードの出しすぎですよ!」


「しまった! アンダーソン保安官の車じゃ!」


 ひいおじいちゃんの車は、目的地までもうすぐというところでパトロール中のアンダーソン保安官に捕まってしまった。


「ちゃんと制限速度を守ってたのになんでなの⁉」


ガッデムくそ! メーターをよく見たら、制限速度を0.5マイル(およそ0.8キロ)ほどこえておったわい。アンダーソン保安官は、制限速度を0.001マイルでもこえたらガミガミしかってくるからなぁ~……」


「0.001マイルって、どうやってはかるの……?」


「あいつ、めっちゃ細かいんじゃ。ある意味では、アンダーソン保安官も超能力者サイキックじゃのぉ……。しかし、ここで足止めをくらっているわけにはいかん。ナナミよ、あそこのサンドウィッチ屋の駐車場に車を止めるから、おまえは保安官に気づかれないようにこっそり車をおりて、南へ向かってまっすぐ走れ。ここからなら、おまえの足でも3分ぐらいで銀行に着くじゃろう」


「え? でも、ひいおじいちゃんは……?」


「心配するな。ワシとアンダーソン保安官は顔なじみなんじゃ。しょっちゅう、細かいことをぐちぐち注意してくる保安官とケンカをしておるからな。10年来の友達と言っていい間柄あいだがらじゃ」


「それって友達って言うのかな……?」


「さあさあ、気にせずに行きなさい。オリバーたちの仲間になりたいのじゃろう⁉」


「う……うん! わかった!」


 ひいおじいちゃんがサンドウィッチ屋の駐車場に車をとめると、わたしは車から飛び出て、夜陰やいんにまぎれて走り出した。


 振り返ると、アンダーソン保安官の車が、ひいおじいちゃんの車の横に駐車したところだった。


 ごめんね、ひいおじいちゃん! 明日、肩をもんであげるから!




「UFOじいさん。制限速度はちゃんと守ってください。0.000001マイルでも制限速度をこえたらわたしは見逃しませんよ!」


「……がんばれ、ナナミ。おまえなら、『ロズウェルの聖杯』を見つけ出せるかも知れない。なぜなら、おまえは――」


「UFOじいさん? わたしの話、聞 い て ま す ⁉」


「あー、はいはい。聞いてます、聞いてます。アイムソーリーごめんなさい

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