FILE12 ちっぽけな勇気

 2日後の昼下がり。ひいおじいちゃんの家。


 わたしは、屋外のテラスのイスに座り、ぼんやりと庭の花々をながめていた。


 お父さんとお母さんに買い物に誘われたけれど、「2人きりでデートしてきたらどう?」と言ってやんわり断った。


 今は、外出する気分じゃない。


 オリバーたちは、今夜あの計画を決行する。


 3人が保安官に捕まってしまうのでは、と心配でお腹がずっと痛かった。


「銀行強盗とまちがわれたりしたら、大変だよ。わたしの瞬間移動テレポーテーションの力があれば、ヤバくなったら逃げられるのに……」


 われながら身勝手な話だけれど、昨日はみんなのことを誤解して「わたしの超能力を利用しようとしてたのね!」と怒っていたというのに、今は「なんで、わたしの超能力を利用しようとしないの⁉」と考えてしまっていた。


 うん、本当に身勝手だ……。


 でも、オリバーたちのことが心配で仕方ないんだもん。『ロズウェルの聖杯』を見つけようとして失敗したら、またいじめっ子たちがタリーのことをいじめるだろうし……。


「銀行強盗? あの悪ガキたち、町の銀行で何かやらかすつもりなのか?」


 わたしがもんもんと悩んでいると、ひいおじいちゃんが白ヒゲをなでながらそう言った。


「え⁉ ひいおじいちゃん、いつの間にとなりのイスに座っていたの⁉ ……はわわ、ヤバイ! 口を閉ざすのよ、すばる七美ななみ‼ ひいおじいちゃんに、オリバーたちが銀行の駐車場から『ロズウェルの聖杯』を掘り出そうとしていることを言ったら絶対にダメ!」


「いや、ワシはかな~り前からおったぞ? ナナミが大きな声でひとりごとをブツブツ言っておったから、黙って聞いておっただけで……。というか、あいつら、銀行の駐車場に侵入するつもりなのか。きっと、トーマス・チャップマンとかいううさんくさいUFO研究家のブログ記事を真に受けたんじゃな。本当に、そんな場所に『ロズウェルの聖杯』が埋まっているのかのぉ~」


「え⁉ オリバーたちが銀行の駐車場を掘り起こそうしていること、なんで知っているの? もしかして、超能力でわたしの頭の中を透視した⁉」


「いや……だからな? 超能力とかではなく、ナナミがさっき口をすべらせたんじゃぞ?」


「ダメ、ダメ! わたしの頭をのぞかないで! オリバーたちの計画が今夜だっていうこともばれちゃう!」


「ちょっとは落ち着け、ナナミ。また口が滑っておるぞ。アイススケートみたいに、つるんつるーんに滑りまくっておるぞ? 秘密がだだもれじゃ」


 ええ⁉ わたし、もしかして聞かれてもいないことをペラペラしゃべってた⁉


 オーマイゴッドなんてこっただよ。わたしってば、本当にポンコツだぁ……。


 ポン! コツ!

 ポン! コツ!


 わたしは、反省するために自分の頭を両手でたたいた。


「こらこら、自分の頭をたたいてはいかん。そんなに心配するな、ワシはUFOじいさんじゃぞ。いつだって、UFOを追い求める少年少女たちの味方じゃ。あの悪ガキたちを保安官に売り渡すようなことはせん。

 ……そんなことより、昨日からずっと元気がないようじゃが、どうしたのだ? さっき口を滑らせておったが、オリバーたちにその計画に誘ってもらえなかったのが寂しいのか?」


「う、うん……。オリバーたちは、わたしが超能力者サイキックだっていうことを知っているの。わたしがいたら、たぶん少しは役に立てると思う。……けれど、3人は『自分たちに協力してくれ』とは言わなかった。わたしのことを利用するために友達になったわけじゃないってわかって、うれしかったけれど……。でも、ちょっとは頼ってくれてもいいのになぁとか勝手なことも考えちゃって……」


 そして、そんなことを考えつつも、危ない橋を渡ることにおびえているチキンハートなわたし。優柔不断ゆうじゅうふだんな自分が、嫌になっちゃう……。


「う~む……。その計画をあいつらから聞かされた時、おまえはビビったんじゃないのか?」


「……うん。恐くて、顔が真っ青になっちゃった。だって、わたし、目立つようなことしたくないもん。悪目立ちしたら、この町でもみんなにいじめられちゃう」


「そうか、なるほどのぉ。おそらく、オリバーたちにも『ナナミの超能力があったら……』という気持ちはもちろんあるじゃろう。だが、おびえているナナミの顔を見て、誘わなかったのだろうな。

 あの子たちは悪ガキだが、優しい子ばかりじゃ。『人の望まないことを強要することは、暴力の1つ』だということをわかっているのじゃ。だから、友達が嫌がることはしなかったのだよ」


「みんな……」


 わたしは自分のことばかり考えているのに、みんなはわたしのことを気づかってくれていたんだ……。


「わたしってば、ポンコツだし、自分勝手だし、弱虫だし、最悪だ……」


 それでも。


 そんなダメダメなわたしでも、オリバーたちがわたしのことを友達だと思ってくれているのなら――。


 3人のために、わたしができることをやりたい。オリバーたちのちゃんとした仲間に……ロズウェル・ユニオンのメンバーになりたい。


「勇気を……出さなきゃ。オリバーたちと冒険するために、わたしのちっぽけな勇気をフル活動させるんだ」


 まだ、お腹の痛みはおさまっていない。もしも保安官に捕まったら、と恐がってもいる。


 けれど、前に一歩み出してみよう。


 わたしは、UFOのカケラを見つけて喜ぶオリバーたちの笑顔が見たいんだ。

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