ロズウェル☆ユニオン!

名月明(アキラ)

Season1

FILE01 UFOが落ちた町

乗客じょうきゃく皆様みなさま。ようこそ、ロズウェル国際空港へ』


 機内に、飛行機が空港に着陸したことを知らせるアナウンスが流れる。


 うたた寝をしていたわたしは、寝ぼけまなこをこすりながら、座席のシートベルトをはずそうとした。でも、『安全のため、シートベルトの着用サインが消えるまではシートベルトを外さないでください』という案内が英語で流れたため、あわててシートベルトから手をはなした。


 ……いけない、いけない。

 わたしだけシートベルトを外していたら、キャビンアテンダントさんに怒られて悪目立ちするところだったよ。


 これから新生活がはじまるアメリカでは、ひっそりと、だれにも注目されないように、生きていかなくちゃ。


「まちがっても、新聞にのっちゃうようなは絶対に起こしちゃダメ。いるのかいないのか微妙びみょうなくらい存在感そんざいかんを消して、アメリカの中学校生活を平和にすごすのがわたしの目標なんだから。透明人間になるのよ、すばる七美ななみ!」


 わたしは自分にそう言い聞かせた。でも――。


 小学生だった数か月前までの嫌な思い出が、わたしの頭からなかなか消えない。


 鈴木さんたち学校のみんなは以来、わたしのことを「化け物」と呼ぶようになった。


 そうののしられるのも、仕方ないことなのだろう。鈴木さんたちにはずいぶんと恐い思いをさせてしまったし……みんなが言うように、たしかにわたしはじゃない。


 わたしは、今日からニューメキシコ州ロズウェルで暮らす。


 エイリアンが乗るUFOが落ちたというウワサがある、アメリカ南西部の田舎町いなかまち

 仲良しだった学校の友達からモンスター化け物呼ばわりされ、逃げるように日本を出て来たわたしには、ちょうどいい場所かも知れない。


「もしかして、エイリアンだったら、化け物のわたしと友達になってくれたりして?」


 フフッと、わたしは自嘲じちょうぎみに笑った。


 ふと顔を上げて窓を見ると、今にも泣きだしそうな女の子の顔がうつっている。


 それは、わたしの顔だった。







 午後4時50分。

 飛行機からおりたわたしたち家族は、空港のロビーで一休みしていた。あと10分くらいしたら、ひいおじいちゃんが車でむかえに来てくれる予定なのだ。


 わたしのひいおじいちゃんの名前は、ジョン・タケオ・スバル。

 第二次世界大戦だいにじせかいたいせんが起きるよりも前に日本からアメリカに移住した、日系アメリカ人の二世。ずーっと昔からロズウェルの町に住んでいるんだって。


 つまり、わたしのルーツは、ここロズウェルにあるらしいの。


 昴家が日本にもどって日本人として暮らすようになったのは、おじいちゃん(つまり、ひいおじいちゃんの息子)のだいから。

 おじいちゃんは若いころに日本の大学に入学して、そのまま日本で就職しゅうしょく結婚けっこん……わたしのお父さんが生まれたってわけ。

 だから、わたしはごく普通の日本家庭で生まれ育った。わたしのご先祖せんぞさまが暮らしていたロズウェルという町のことも、あんまりよく知らない。


 ただ、来てみてすぐにわかったことはある。


 ここって、ものすごく……ものすごーく……。


「ものすごく、あ つ い ‼ とけちゃう……。わたし、とけちゃうよぉ……」


 わたしは、ロビーのソファーにぐでぇ~ともたれかかっていた。


 引っ越しする前に、「ニューメキシコ州は気温がかなり高いらしい」ということはネットとかで調べていたけれど、まさかここまでとは……。


「さすがにあついねぇ、ニューメキシコは。たぶん、温度は104度ぐらいあるね」


「お父さん、104度は言いすぎだよ。そんなにあったら、みんな死んじゃうって」


 暑さのせいでお父さんの頭がおかしくなったのではと心配して、わたしはそう言った。すると、わたしの横にすわっているお母さんがクスクスと笑う。


「ナナミ。日本とアメリカでは、温度の単位がちがうのよ。アメリカの華氏かし104度は、日本ではだいたい摂氏せっし40度くらいだったと思うわ」


「へぇ~……。国がちがうと、温度の数え方までちがうんだ。ちゃんとれるかなぁ」


 わたしは、これから始まる新生活に少し不安を覚えて、暗い顔になった。


 アメリカと日本では、何もかもがちがう。

 服やくつのサイズも基準きじゅんがちがうから、買う時は気をつけないといけないとネットに書いてあった。


 わたしは、とってもドジが多い女の子だ。ただでさえ外国の学校でちゃんとやっていけるか心配なのに、日常生活すらおぼつかないような気がしてきて……。


 う、う、う。お腹がいたぁ~い‼


 わたしってば、メンタルが豆腐とうふみたいにもろいから、ちょっと不安なことがあると腹痛ふくつうが……あいたたた!


「だ、大丈夫だいじょうぶさ! ナナミなら、アメリカでちゃんとやっていけるよ! 英会話はお父さんよりも発音うまいし、アメリカ人たちともちゃんとコミュニケーションがとれるさ! なあ、お母さん?」


「え……ええ、そうよ。人前でさえ使わないように気をつけたら、学校でもたくさん友達ができるわよ。元気を出しなさい、ナナミ」


 お父さんとお母さんが、落ちこみモードに入ろうとしていたわたしをあわてぎみになぐさめる。


 ……あっ、しまった。またやっちゃった。


 日本にいたころは、学校でいじめにあって、二人には心配ばかりかけちゃった。アメリカでは、両親に余計よけいな心配をかけさせない普通の子になれるようにがんばらなきゃ。


 落ちこみモードはもう終わり! もっとしっかりしなさい、わたし!


 あと、お母さんが言っていたように、は完全に封印ふういん! もう絶対ぜったいに人前では使わない! アメリカで平和に生きていくためにも!


「ほら、ナナミ。のどかわいているだろうから、ジュースを買って来てあげたよ。ナナミは炭酸たんさん入りは飲めないから、こっちの赤色の缶ジュースを飲みなさい」


 お父さんがジュースを買って来て、わたしに赤色の缶ジュースを手渡してくれた。


 別に炭酸入りのジュースが嫌いなわけではない。でも、飲んじゃうと、大変なことになるんだよね……。


 わたしは喉がからからだったので、いきおいよくごくごく~っとジュースを飲んだ。


 ん~! このシュワシュワ~とした喉ごしがたまりませんなぁ~!



 って、これ、コーラやんけーーーっ‼



「は……はにゃにゃにゃ! ひにゃにゃにゃ! ふにゃにゃにゃ~ん!」


「あっ! しまった! 赤色じゃなくて、ボクが飲んでいるオレンジジュースが、炭酸が入っていないんだった!」


「お父さん、うっかりしすぎ! ナナミがこわれた洗濯機せんたくきみたいにガタガタふるえているわよ⁉」


 お父さんとお母さんが慌てて何か言っているけれど、わたしはそれどころではない。頭の中で、パチパチ! パチパチ! と何かがはじけて、体の震えが止まらない。


(だ……ダメ! あの力が発動はつどうしちゃう!)


 心の中でそうさけんだ直後――わたしは、空港のロビーからこつぜんと姿を消していた。

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